第6話 水面下の闇

居住区地下施設の探索から一夜明け、アレンとリオはリアナと食堂で朝食を摂っていた。

リオは昨夜の激闘を身振り手振りを交えて、やたら大きな声で語っていた。

「いやあ、正直ギリギリだったよな!もう気合と根性の肉弾戦でよ、まさに一進一退ってやつだな!」

アレンは黙って頷いているが、リアナは頬杖をついたまま、表情一つ変えずに聞いていた。

「でよ、ここぞってタイミングで――」

リオはハルバードを振る真似をした。

「やつの身体にズバッ!とクリーンヒットよ!あの黒装束野郎、壁まで吹っ飛んでさ!正直、手応えあり!って感じだったな!」

胸を張るリオに、さすがにリアナはツッコんだ。

「……それ、盛ってませんか?」

「な、なに言ってんだ。そんなわけないだろ!」

「クレイ・ゴーレムは高い物理防御力を持ってます。お兄ちゃんやリオさんに、有効打を与えられたとは思えません」

「いやいや、わかんねえだろ?あいつだって人の形をしてんだ。急所みたいなとこに攻撃が当たれば……」

「あり得ません。というか、あれは人体と同じ見た目ですけど、中は空洞で内蔵や筋肉なんかないんです。仮に首から上を破壊しても、動きは止まりません」

「そ、そうなのか?」

「唯一、倒す方法があるとすれば、体内の制御魔法札コントローラーを破壊、またはゴーレムから分離することです」

「へ、へえ……」

「昨日だって、本当は証拠品として制御魔法札コントローラーを回収すべきだったのに、水の魔法が強すぎたせいで一緒に消滅させてしまいました」

「……」

「とはいえ、研究室に現れたものと昨日のゴーレムは同じ術式から生まれたものであるのは間違いなさそうですけど」

「……」

淡々と話すリアナに対し、アレンは少し疑問を持った。

「なあ、リアナ」

「……なんですか?」

「お前、やけに詳しくないか?」

「!」

アレンの言葉に、リアナは一瞬で表情が固まった。

「リオは確かに話を盛りに盛ってたけど――」

「おい」

「相手がゴーレムだとは一言も言ってないぞ」

アレンの指摘に、リアナの肩がびくっと跳ねる。

「な、ななななんのことだか……」

「いや、動揺しすぎだろ!」

明らかに目が泳いでいるリアナに、リオも思わずツッコんだ。

「もしかして、どこかで見てたんじゃないのか?」

アレンのまっすぐな視線に、リアナは声を震わせながら話し出した。

「あの……探索の羅針盤コンパス・シーカーのAIなんですけど……」

「AI?確か疑似人格とかなんとか……」

「あれ、私が遠隔操作してました」

「は?」

「魔素通信を経由して、視界共有と音声出力、あと動作ログも取れるようにしてあって……」

「ちょ、ちょっと待て」

リオが遮る。

「つまり?」

「全部見てました」

「マジかよ!なんで隠してたんだよ!」

「それはその……言い出すタイミングが……」

アレンはなんとなく察した。

恐らく最初はただの悪戯心でAIのフリをしていたが、リオとの口喧嘩にヒートアップしてしまった結果、こうなったのだろう。

「……リアナ。事情はだいたいわかった」

リアナは肩を震わせ、視線を落とした。

「でも」

アレンは少しだけ間を置く。

「俺たちに何か言うことがあるだろ?」

一瞬、食堂のざわめきが遠のいた気がした。

リアナは唇を噛み、ぎゅっと手を握る。

逃げ道を探すように視線を彷徨わせ――やがて観念したように、頭を下げた。

「……ごめんなさい」

小さく、はっきりと。

アレンはそれを見て、ふっと肩の力を抜いた。

「それでいいんだ」

拍子抜けするほど、あっさりと言う。

「簡単だろ?」

そして、横目でリオを見る。

「リオ。お前もこれでいいよな?」

リオは一瞬だけ考えるそぶりを見せてから、鼻で笑った。

「ま、俺たちが生きてんのは、お前のおかげってのは確かだしな」

リアナが驚いて顔を上げる。

「そういうこと」

アレンは頷いた。

「それじゃ、この件はチャラってことで」

リオは椅子にもたれ、腕を組む。

「これに懲りてよ、その生意気なとこも直るといいな。カッカッカ!」

わざとらしく高笑い。

リアナは頬を膨らませ、むっと睨み返した。

「……むう……」

アレンはその様子を見て、小さく笑う。

いつもの空気が、戻ってきていた。


リオの笑い声が遠ざかるにつれ、リアナの意識はゆっくりと自分の内側へ戻っていった。

――それでいいんだ。

その一言が、胸の奥に溜まっていたものを、ゆっくりと押し流していく。

責められる覚悟はしていた。

信用を失う覚悟も。

だからこそ、何も起きなかったことが、かえって現実味を持って響く。

(……怒られ、ないんだ)

気づけば、肩に入っていた力が抜けていた。

無意識のうちに息を詰めていたことを、ようやく自覚する。

アレンは当たり前のように話を進め、リオはいつもの調子で笑っている。

その姿を見て、リアナはようやく理解した。

――この二人は、最初から切り捨てるつもりなんてなかったのだと。

胸の奥で、じんわりと温かいものが広がる。

それは感謝という言葉で片づけてしまうには、少しだけ重かった。

リアナは視線を落とし、テーブルの上に置かれたパンを見る。

さっきまで、そこに手を伸ばす余裕すらなかった筈なのに。

そっと、指先がパンに触れる。

柔らかい感触が、確かにそこにある。

小さく一口かじると、素朴な味が口に広がった。

それだけのことで、胸の中に残っていた最後の緊張が、静かに溶けていく。

(……信じて、もらえた)

リアナは何も言わなかった。

ただ、もう一口パンを食べながら、心の中でそっと礼を言った。

――ありがとう。

その言葉は、誰にも聞かれないまま、確かにそこにあった。


「――で、今日はどうするんだ?」

リオがパンをかじりながら口を開く。

アレンはスープを一口飲んでから、落ち着いた調子で答えた。

探索の羅針盤コンパス・シーカーで反応があった、居住区の残りを当たってみようと思う」

リオは指を折って思い返す。

「確かあと二つ残ってたな」

「ああ。昨日は時間的に1つしか回れなかったからな」

アレンはちらりとリアナを見る。

昨夜の事を思い出しているのか、いつもより少し言葉を選んでから続けた。

「それに、今日はリアナにも手伝ってもらうつもりだ」

「なるほど。それなら楽に回れそうだな」

リオが即座に頷いた、その瞬間。

「え?私も行くんですか?」

リアナの声が少し裏返った。

「ん?何か予定でもあったか?」

アレンの問いに、リアナは一瞬視線を泳がせる。

「いえ、それは大丈夫ですけど」

「ならいいじゃねえか」

即断するリオに、リアナは小さく息を吸い込んだ。

「実はその、私……入学してから、アカデミーの外に出たことなくて」

一拍。

「は!?そんなことあるのかよ!?」

リアナは当然のことのように続ける。

「だって、寮と学習棟と研究室しか行かないし。食事も生活物資も、全部アカデミー内で手に入るし」

「す、すごい生活してんだな……」

アレンが素直に感心すると、リオは顔をしかめた。

「そんなんだから不健康な体になっちまうんだよ、お前は」

リアナの動きが止まる。

「……それ、セクハラです」

「セクハラじゃねえ!」

リオは勢いよく言い返す。

「ちゃんと日光浴びて、飯食って、体を動かすことが、人間の健全な姿ってもんだろうが!」

「古いですよ、考え方が」

「な、なにィィ!?」

「リオ、落ち着け!リアナも煽るなって!」

アレンが慌てて割って入ると、リアナは小さく鼻を鳴らした。

「……ふん」

だが、その声には、昨夜までの棘はなかった。

少し間を置いてから、リアナは席を立つ。

「それでは、外出用の装備をしてきます」

リアナはそう言って席を立った。

改めて見ると、制服の上に白衣を羽織り、素足にサンダルという、完全に”研究室仕様”のままだ。

これで街を出歩いたら、周囲から浮きまくるのは明白だった。

「そ、そうだな……流石に」

アレンも視線を下げて同意する。

「後でアカデミー正門前で落ち合いましょう」

そう言って去っていくリアナの背を見送りながら、リオが小声で言った。

「なあアレン。あいつ、全然懲りてないんじゃねえか?」

アレンは少し考えてから、穏やかに首を振る。

「そうかな。俺には、少し柔らかくなったように見えた」

「ふーん……兄妹の絆みたいなもんか?」

「かもな」

アレンは立ち上がり、背伸びをした。

「よし、俺たちも行こう。必要なもの、買い足しとかなきゃな」

食堂の喧騒の中で、三人の距離は、確かに少しだけ縮まっていた。


アカデミー正門前。

朝の光を受けて、白い石造りの門が静かに影を落としていた。

通学や出入りの人影はまばらで、待ち合わせには少し気まずいくらいの空白がある。

リオは門柱にもたれ、腕を組んだまま何度目かのため息を吐いた。

足元の小石を蹴り飛ばし、苛立ちを紛らわせる。

「おっせえな。何やってんだ?あれから小一時間は経つぞ」

アレンは正門の外、居住区へ続く通りに視線を向けたまま、肩をすくめた。

時間を確認する仕草はしたが、急かす様子はない。

「落ち着けよ。外出したことないとか言ってたし、手間取ってるんだろ」

リオは眉をひそめ、鼻で笑う。

「女は準備に時間かかるとかいうやつか?」

「いや、それはわかんねえけど」

即答はしなかった。

否定しきれない自分に気づいて、アレンは少し言葉を濁す。

「勘弁してくれよ……化粧とかおめかしとかだったらよ、先が思いやられるって……」

その瞬間。

二人の背後から、控えめだがはっきりした声が落ちた。

「……時間かかってすみませんね」

「うお!?」

思わず飛び上がり、振り返る。

いつの間にか、正門の影の中にリアナが立っていた。

リアナは、いつもの白衣姿ではなかった。

アカデミーの制服の上から羽織っているのは、膝下まで届く前開きの濃紺ローブ。

生地は上質そうで、動くたびに控えめな光沢を帯びる。

実用性を重視した作りながら、どこか品があり、研究室に籠る魔術師というより”外に出る者”の装いだった。

腰には魔法札カード用のポーチが左右に二つ。

普段より明らかに数が多く、きちんと分類されているあたり、彼女なりに意識して準備したのが見て取れる。

足元も違う。

いつもの素足にサンダルではなく、軽装ながらもしっかりとしたスニーカー。

歩き慣れてないのか、わずかに重心を確かめるような立ち方をしていた。

長い髪はいつもほど乱れはなく、どこか緊張した面持ちが滲んでいる。

外気に触れた頬が、ほんのりと赤いのは朝の冷えのせいか、それとも――。

「……何か、おかしいですか?」

リアナは二人の視線に気づき、ローブの前を無意識に押さえた。

「お、遅えんだよ!何してたんだ?小一時間は待ったぞ」

視線が落ち着かず、わずかに苛立ったような口調になる。

「理事長に連絡して、外出用の装備を用意してもらってました」

「用意してもらってたって……」

「ローブと靴です。事前に仕立ててあったものだそうで」

「へえ……」

アレンが小さく息を吐き、納得したように頷く。

「ああ……あの人、リアナのこと溺愛してるからな」

「?」

「『いつか外に出る時の為』とか言って、前から用意してたんだろ。相当喜んでるな、これ」

リアナは一瞬だけ視線を逸らした。

「……そう、なんでしょうか」

その声はいつもより少し低く、感情を押し隠すようだった。

「まあいい。準備できたなら行くぞ」

「はい。お待たせしました」

形式的な言葉の筈なのに、その足取りには、わずかなぎこちなさと――受け取った好意への戸惑いが滲んでいた。


アカデミー正門をくぐり、三人は石畳の広間に出た。

朝の空気はまだ冷たく、通学する学生たちが行き交う中で、彼らだけが立ち止まる。

「じゃあ、まずは確認だな」

アレンは探索の羅針盤コンパス・シーカーを起動する。

「昨日は反応が三つ、そのうちの一つは回ったから、残り二つだな」

三人は羅針盤を覗き込んだ。

――が、光点は浮かばない。

いや、正確には、アレンが持っている偽造魔法札カードの反応だけ示されている。

「しまった……これ理事長に渡すの忘れてたな」

「いやそれよりだろ。昨日あった居住区の反応、きれいに消えてるぞ」

アレンの背筋に嫌な汗が伝う。

「夜のうちに回収されたのでしょうか?」

ポツリと冷静な声。

だがその静けさが逆に不気味さを際立たせる。

アレンも小さく頷き、唇を噛む。

「たぶんそうだろうな……先手を打たれた。やられたな」

リオは舌打ちし、門の方へ視線を投げる。

「チッ……動きが早え。こっちが寝てる間に証拠隠滅か」

重い空気が三人を包んだその時、リアナがふっと足元を見下ろし、ほんの一呼吸で決断するように顔を上げた。

「少し上から見てきます」

「え?」

リアナは一歩踏み出し、ローブの裾が風をはらんだ。

魔力の気配が淡く広がる。

飛翔フライ

「お、おい!いきなり飛ぶなって!」

次の瞬間、リアナの体はふわりと離陸し、校舎の屋根を越える高さへすらりと上昇していった――


校舎の屋根を越えた瞬間、リアナのローブが風を切り、淡い魔素の尾が空へ弧を描く。

普段とは違う外気の匂い、太陽の眩しさ――どれも学院の窓越ししか知らなかった感覚だ。

だが、胸の高鳴りを押さえ、彼女は冷静に魔力を巡らせる。

知覚強化パーセプション・ブースト鷲目開眼イーグル・アイ集中加速フォーカス・アクセラレート探知範囲拡大サーチ・レンジ・エクステンド……」

淡々と呟きながら、連続で補助魔法を重ね掛けする。

感知能力が大幅に強化され、視界が鮮明に像を結んでいく。

リアナは魔導レンズの縁に指を添え、集中した。

魔石を核にした眼鏡――魔素の流れ、結界の歪み、隠匿魔術の痕跡を視る為の魔道具だ。

視界に光の網目が広がり、アルべリウス全域の魔素流が地図のように浮かび上がる。

風、地脈、水脈……生活魔術が作る穏やかな流れ。

訓練場の爆ぜる魔力、研究棟の魔方陣が規則正しく鼓動する。

人々の微かな生命魔素が街路を点々と揺れ、まるで星空の反転のようだが――

「……変だ」

昨夜、札の反応があった地点。

そこだけ、魔素の濁りが綺麗に消えていた。

まるで染みが拭き取られたみたいに。

痕跡も残さず、ただ”無”の穴。

リアナはレンズをさらに覗き込み、出力をもう一段引き上げる。

学院敷地の一角、倉庫群の裏手――地下へ落ちるような魔素の”沈み”。

普通の地脈ではない。

人工的、魔術的な掘削の跡。

「……地下に、もう一層ある……」

風がローブを揺らし、彼女は小さく息を呑む。

リアナは視界をさらに深く潜らせた。

地上の魔素流を薄膜のように透かし、視線を地下へ――

階層透過フェイズ・パース魔層反転マジック・レイヤー・リバース……」

視界の色彩が反転し、地表の光点が淡い影へ、地中の魔素流が逆に輝き始める。

地脈の筋、給水魔術の配管、魔導石の保管庫――学院の地下構造が鮮明に浮かび上がっていく。

物質透視マテリアル・サイト千里眼クレアボヤンス……」

さらに深層へ意識を沈めた、その時。

視界の中心が黒く塗りつぶされ、弾かれた。

濁った膜のような魔素障壁。

視認どころか魔力解析すら拒む結界。

透視無効マジック・ブラインド?……アカデミー地下に?」

困惑と同時に、胸の奥がざわりと冷えた。

リアナは呼吸を整え、魔導レンズの設定を切り替える。

「フィルター反転、無効領域抽出……」

黒い塊が視界に浮かび、周囲の魔素流がその影を避けているのがはっきりと分かる。

そこから細く、長く――川のように魔素が流れ出ていた。

まるで黒点を中心に世界の血流が吸われていくみたいだ。

「これは……トンネル?」

魔素の流れを追う。

影は地下深くへ伸び、アルべリウス外縁南東の区域で止まった。

反対に、アカデミー地下付近からは特に太い影が北へ伸びていた。

その先は、街道沿いをなぞるように王都方向へ延長している。

視界の端は霞み、ここからでも距離の果てが見えない。

(街の外……王都、その先まで?)

息を呑んだ。

王都を結ぶような巨大な地下トンネルを、誰が、何の目的で――

風が強まり、現実に引き戻される。

アレンとリオが下から見上げているのが小さく見えた。

眼下にいる人々も揃って、こちらを見上げているようだった。

(……今わかるのはこのくらいか……)

魔素制御を解いて高度を下げる。

ローブがはためき、足元の影が地面へ近づいていく。

先ほどの学究的な興味は影を潜め、胸中に静かな緊張だけが残った。


リアナがふわりと地面へ降り立つ。

高所からの帰還で、まだ魔力の余韻が残っているのか、裾の長いローブがふわっと舞い上がった。

「……戻りました」

息を整える暇もなく、リオが勢いよく詰め寄った。

眉間に皺を寄せ、真剣な顔――だが目が泳いでいる。

「リアナ。お前に一言、言っておきたい事がある」

「?」

リアナは首を傾げる。

「スカートで空飛ぶな!」

「は?」

リアナはぽかんと瞬きする。

「ちゃんとガードしろ!」

「一言じゃないじゃないですか……」

「うるせえ!」

大声で怒鳴りつけるリオを尻目に、アレンに問いかける。

「一体何の話をしてるんです?」

アレンは気まずそうに視線を逸らし、頭を掻く。

目の前の少女に直接言うには、あまりに生々しい話題だ。

「あー……その、だな……。正直、目のやり場に困るというか……」

「……?」

リアナは理解が追いつかず、瞬きを一回、二回と繰り返した。

「………あ」

ようやく脳内で点が線になったのか、頬がじわりと朱に染まり、両手でローブの裾をぎゅっと押さえる。

二人が妙な態度なのも、通行人がこっちをチラチラ見てるのも、原因を一瞬で理解した。

「全く、世間知らずにも程があるっつーの」

「こっ、こういうことはもっと早く言ってください!」

「言えるかァ!!」

声が見事に揃い、道行く生徒が何事かと振り向く。

リアナはむくれたまま俯き――しかし耳まで真っ赤で、そこには確かに人間味があった。

(……本当に外出慣れしてないんだな)

内心で苦笑しながらも、どこか微笑ましく思う。

リアナは顔の赤みを残したままわざとらしく咳払いし、乱れたローブの裾を整えると、調査報告を始めた。

「……ええっと、報告します。アルべリウス全域の魔素流を観測した結果、地下に大規模な魔力の流れ――恐らく人口のトンネル状の構造物を確認しました。ただし、途中から透視無効化領域に阻まれて詳細は見えませんでした」

アレンとリオもさすがに表情を引き締める。

「なるほど。昨日の居住区の反応が消えてたのも、その地下ルートで回収されたって考えると辻褄は合うな」

「にしても、街の下にそんなデカいトンネルがあるなんてよ……そんなの国レベルの仕事じゃねえか?」

「規模の大きさから国家案件にも見えますが……ゴーレムを大量に製造し、24時間稼働させる事ができれば、個人でも不可能ではありません。ただ、それでも建設には最低でも1年以上は要するはずです」

「1年以上?個人で?冗談だろ」

「でも現実にある。なら、やった奴は……資金も技術も相当ってことだ」

「はい。それに結界や透視阻害の設置には高度な魔法技術が必要です。ただの盗人や闇市屋の仕事とは思えません」

「あくまで規模は国家級だけど、犯人は個人でも成立する……か」

リアナは一瞬だけ、視線を伏せた。

「犯人の特定にはまだ材料が足りません。ですが……魔法札カードの運搬、ゴーレムの大量生産、強度の高い地中結界――相応の魔術師の仕業です。素人ではありません」

心の奥に刺さる小さな確信。

状況証拠だけなら、もしかして――だが、それを口に出すのは早計だと、リアナは冷静に判断した。

「それで?どうするんだアレン。地下に行くのか?」

「行くしかない。居住区の反応が消えたとなると……今動かないと痕跡まで消える」

リアナは小さく頷き、いつもの無表情にほんのわずかな緊張を滲ませた。

「地下への入口……魔素流が途切れていたアルべリウス南東部にあると思います」

「そこには何があるんだ?」

「わかりません。実は最新の地図にも載ってなくて」

「なんだそりゃ?」

「とにかく、行ってみるか」

三人の視線が同じ方角へ向いた。

ここから始まる本格調査――その空気が確かに引き締まる。

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