20251201 ガイド 空へのため息

 オージャの地では、困った時に空を仰ぎ、そっと息を吐く者がいる。それは言葉にならぬ思いを外へ手放すための、古く静かな仕草である。

 空へ放たれた息は、やがて雨の家ドーマ・メ・イオージアへと届くと言われてきた。集まった息は雲に溶け、重くなれば雨となって大地へ降り戻る。オージャの人々は、雨を「女神が返してくれる息」と呼ぶこともある。

 けれど、ときにはこう言う者もいる。

「わたしの息は女神様にも届かない」

 息が空へ昇ることすら叶わぬほど、胸の内が混乱している時の言い回しだ。雨の女神のもとに届かないなら、息を運ぶ精霊たち──雨の精霊たちのもとへすら届かない。

 その時には、次のようにも言われる。

「わたしの息は精霊たちに届かない」

 どちらの言い回しも、心が行き場を失った時のささやかな嘆きである。


 オージャでは、祈りの言葉も同じように空へ向けて捧げられる。胸に抱えた思いが大きすぎて言葉にならぬとき──あるいは誰に助けを求めてよいのかわからないとき、人は自然と空を見上げる。

 顔を上げ、こぼれる息を天へと送るその仕草を見たなら、「ああ、この人は今、どうしたらよいのかわからず立ち止まっているのだ」と、オージャの人なら気付くだろう。



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