20251202 ポルカリ・メリタ──ポルカリのメリ漬け
ポルカリのざらりとした表面にナイフを当てて力を入れると、目と鼻がざわざわとした。そこから力を入れて押し切ると、ぷつりと皮が切れて、たちまち酸っぱいにおいが鼻の奥まで届く。じわっと唾が出てきて、あわてて飲み込んだ。
そうやって酸っぱいにおいに包まれてナイフを動かすと、ポルカリが輪切りになっていく。おばあちゃんの綺麗にそろった輪切りと違って、わたしのは変にぶあつかったり透けるくらいに薄っぺらかったり、ふぞろいで不恰好だった。
さっさと四個目のポルカリを手に取ったおばあちゃんが、ふと手を止めてわたしの手元を覗き込む。わたしは自分の出来栄えが納得いかなくて、ちょっと唇を尖らせておばあちゃんを見上げた。
おばあちゃんは優しく笑う。目尻のシワが深くなる。
「まあ、上出来だよ。多少厚かろうが薄かろうが、
そうして、わたしの前の輪切りを全部さらってお皿に積み上げると、また新しいポルカリをわたしの前に置いた。
「さ、どんどん切らないと。ポルカリはまだ山ほどある。切っているうちに、うまくできるようになるよ」
「はあい」
わたしは小さく息を吐き出して、新しいポルカリの少し緑がかった表面にナイフを押し当てた。つんとした酸っぱいにおいが立ち上がってくる。わたしは何度かまたたきをして、それからまたナイフを動かした。
よく洗って乾かした瓶をたくさん並べる。その瓶の中に輪切りにしたポルカリを詰めてゆく。その頃にはもう、台所中の空気が酸っぱくなっていた。
そうして、今度はその瓶に
そうして、ずらりと並んだ鮮やかな
そんな輝きとポルカリの酸っぱいにおいとメリの甘いにおい、それをぎゅっと閉じ込めるように蓋をしていった。
「おばあちゃん、ポルカリ、いつになったら甘くなる?」
布で手を拭きながらおばあちゃんを見上げる。おばあちゃんはもうすぐに次の準備を始めていた。手を動かしながら、そうだねえ、とゆっくり言った。
「ニッシ・メ・ラッチのお祈りが終わる頃じゃないかね」
おばあちゃんの言葉に、去年のお祈りのことを思い出した。
ニッシ・メ・ラッチには子供しか行けない。そうして、
祈りの言葉は古い歌で難しいけど、雨を降らせてください、作物をたくさん実らせてください、魚をたくさん獲らせてくださいっていう意味だって、教えてもらった。
「あんたは今年もお祈りに行くんだろう?」
「うん、わたし今年は、下の子の面倒も見るんだよ」
「それは大変だ」
おばあちゃんは手を止めると、顔をくしゃっとしてわたしを見た。その表情に、わたしはちょっと照れくさくて、でもちょっと得意になる。
「もう大きくなったからね」
「そうか。それで、もう少し大きくなったら恋をして、ニッシ・メ・ラッチに行けなくなっちゃうんだねえ」
おばあちゃんはそう言うと、また手を動かし始めた。半分に切ったポルカリを、空っぽの瓶の上でぎゅっと握る。酸っぱいポルカリの汁がぽたぽたと瓶の中に落ちてゆく。
ニッシ・メ・ラッチには子供しか行けない。それは、恋人のいる人が近づくと女神様がアニェーゼとアルミロのことを思い出して、余計に怒るからだ。
女神様を怒らせるほど、アニェーゼは恋というものに夢中になったんだって、おばあちゃんは言う。でも、それがどういうことなのか、わたしには全然わからない。
「恋なんて、まだわかんないもん」
おばあちゃんは大笑いした。それで、また優しくわたしを見た。
「そうだね、まだ先の話だ。ポルカリが甘くなるのとおんなじで、きっと時間がかかるだろうね」
絞ったポルカリの瓶に、今度はメリが注がれる。そして最後に
おばあちゃんがコップに注いでくれたメリラを飲めば、ポルカリの酸っぱさとメリの甘さが口の中に広がった。そして、ギルがふんわりと優しく流れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます