第31話 美少女VS美少女 2

 "自分らしくありたい"、確かに志原田さんにぴったりの言葉だ。

 数日だけど、彼女と交流した僕にとって、彼女の目指す目標はしっくりくるものだった。


 彼女は、なんというか、自然体だ。

 ダウナーな感じ、緩い雰囲気なのに、芯がある。


 だからこそ、僕は彼女の事が嫌いじゃなかったりする。

 疑問なのは、何故糸美川さんと敵対しようとするのか。


 先程の言葉を聞いても、僕は彼女が糸美川さんを嫌うわけがないと思える。

 僕の想像する、志原田さんが糸美川さんを嫌う"本当の理由"は、多分当たっていると思うんだけれど。


 ただ、その前に一つ疑問が。


「教えてくれて、ありがとう。良い目標だね。志原田さん」

「ありがと。……そういう反応なんだ」

「まぁね、でも、一つだけいいかな?」

「なぁに、おまけしちゃうよ?」

「どうして、女性の格好をしているのかな?」


 自分らしく、というのであれば疑問は残る。

 志原田さんは、一応、男性なわけだし。


「え?だってこれが"ワタシ"だから」

「というと?」

「ワタシ、可愛いでしょ?」

「……まぁ。はい」

「そこはハッキリ肯定しよ~?だから、可愛いワタシが、らしく振舞ったらこうなるのは当然なの」


 志原田さんは、自信満々に今の姿が当たり前のことだと宣言した。

 凄いよ、納得させられそうだもん、僕。


「あら、けれど、志原田さん」


 しかしここで、糸美川さんが口をはさむ。

 仕方がないことではあるけれど、志原田さんへの敵対の意思を込めて。


「貴方、"男の娘"と宣っていたじゃないですか、それって、貴方らしい姿なんですか?何より、湊君とと初めて出会った時の立ち振る舞い。湊君をオタクと見なして、その興味を引くための、何かを装う姿なんじゃないですか」


 笑顔のままに、糸美川さんは棘のある言葉を吐いた。

 それに対して、志原田さんはニヤリと獣の笑みを浮かべる。


「へぇ。言うじゃん。糸美川さん」

「話を逸らさないで欲しいですね。ええ、ですが。志原田さん相手なら、丁寧にする必要はないでしょう?」

「そだねぇ。そっちの方が好みかもね」

「貴方に好まれても、嬉しくないですけれど」

「ワタシからしたら嫌がられたら嬉しいかな~」


 堰を切ったかのように、言葉と言葉がぶつかり合う。

 これまでは、糸美川さんの方が反撃することはなかったけれど、志原田さんの目指す姿にはふさわしくない物を見つけて、流石に黙っていられなかったようだ。


 ……確かに、なんで僕に対してあんな振る舞いをしたのだろうか。

 彼女らしくはない行動に思える。


「糸美川さん、ちょっと待って。志原田さんの話を聞こう」

「え~やっぱり湊くん、いぢわるだ。ワタシの恥ずかしいところ見たいんだ」

「え?いや別にそう言うつもりは」


 僕が二人の間に割って入り、志原田さんの意図を問うと、彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。


「興味あったのは、事実だからさ」

「え?僕に興味あるの本当だったの?それで、なんでらしくないことを」

「う~。だって、そこまで深くかかわる必要はない内容だったから。興味はあるけど、すぐに済む用事だったからというか」


 僕の言葉に、もじもじと可愛らしく言葉を濁す志原田さん。

 それを見て、糸美川さんは攻勢に転じようとしたけれど、僕は制止した。


「ストップね、糸美川さん。それで、とりあえずちょっと僕の気を引くために、わざとああいう風に声をかけてきたんだね」

「そーですー!でも、今は湊くんと仲良くしたいのは本当だからね!」

「随分と都合の良い言葉に聞こえますが」


 指摘する糸美川さんの言葉は鋭い。

 けれど、今聞いた、何故そんなことをしたのか、によって、僕の想像はどうやら正解で間違いなさそうだ。

 

 志原田さんもまた、"目指すべき目標"を少し間違えてしまっただけなのだ。

 だったら、その誤解を解くのは僕の役目だ。


「都合よく立ち回ったのは糸美川さんじゃないのー?湊くんが自分から動いたおかげじゃない?」

「それを言うなら、貴方は湊君を、自分らしさのために利用しようとしていませんか?楽をしようとしているように思えますが」


 おっと、まずいまずい。

 二人の言葉は更にヒートアップして、激しさを増している。


 これは良くない。

 言葉は、一度放ってしまうと無くならない。


 致命的な、触れてはいけないことを形にしてしまえば、この二人はずっと拗れたままだ。


「あのさ、志原田さん。最後に質問して、良いかな?」

「なに~。そろそろ、終わりにしたいかな~」

「大丈夫。これで最後ね」

「ん。いいよ」


 志原田さんが、了承すると、糸美川さんも黙ってそれを聞く体制に入ってくれた。

 ありがとう、二人とも。


「志原田さんは、糸美川さんに思うところがあるよね」

「そうだよ、見てれば分かるでしょ~。それが、質問?」

「違うよ。でもそれって、本当は"きらい"じゃないよね」


 そうだ、志原田さんは、糸美川さんを嫌っているわけじゃない。

 僕に、興味を持った時に、らしくない態度で声をかけたように。


 きっと、糸美川さんにだって、本音を隠して振舞ってしまったのだろう。

 自信家の彼女が、ついつい見栄を張ってしまう、その感情の意味は。


「志原田さんは、糸美川さんのことが、"好き"なんだよね、その……恋愛的な意味で」

「え?」


 僕の辿り着いた答えに、志原田さんが呆気にとられる。

 もしかしたら、彼女自身も気づいていないのかもしれない。


 けれど、それしか考えられないんだ。

 好きだからこそ、素直になれない――――


「所謂、一目惚れってやつだよね」


 僕の言葉に、屋上を静寂が支配する。

 しかし、それを破るように、つかつかと糸美川さんが僕の前で制止する。


 僕の眼前で、ニコリと満面の笑みを浮かべて

 ゆっくりと、息を吸い込んで。


「お前は、アホか!!!」


 全力で、怒鳴られた。

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