第2話 オタク男子と美少女 1
「あ、急に声をかけてしまって申し訳ございません。湊君、いきなりお休みされていましたから。分からないことが多くて困っていらっしゃるのではないかと思いまして」
こちらの戸惑う様子に、糸美川さんは申し訳なさそうにしながらも、何故声をかけてくれたのかを説明してくれた。
や、優しい……
「ご迷惑、でしたか?」
「あ、いやそんなことないです!助かります!」
「そうですか、良かった……」
慌てて返事をする僕に、ホッと胸をなでおろす糸美川さん。
すっごいな、所作が全部、美少女のそれだ。
というかまるで、アニメや漫画から出てきたみたいな黒髪美少女じゃないか。
流石に校則もあるから、髪の長さは肩くらいまでだけれども、彼女の動きに合わせて、滑らかに動いて、艶めいていた。
……ってダメダメ、脱オタクはどうした、僕。
褒めるにしたって、二次元と比較するようではいけない。
よし、普通に、普通の高校生として考えよう。
オタクとしてではなく、今現在困っている人間として、心優しい美少女の助けに感謝だ。
とはいえちょっとばかりテンションは上がってしまう。
何せ、一歩目を見事に躓く瞬間に、手を差し伸べてくれたのだから。
よし、糸美川さんの助けをありがたく借りることにしよう。
まずは、自分の座席についてだ。
「えっと、その糸美川さん。聞きたいんですけれど」
「はい、何でしょうか」
「僕の席って、どこになるのかな?」
「実はですね、私の席の隣なんです。こちらですよ」
糸美川さんに促されながら、教室へと歩を進める。
彼女はクラスメイトと「おはようございます」と挨拶を交わしている。
対して僕は、声を出して挨拶して良いものかと悩みながら軽く会釈する程度だ。
それが良くなかったのか、僕には先程廊下にボケッと立っていた時以上の、視線が向けられていた。
こういう時、しれっと挨拶できたほうが良いのかな、脱オタク的には。
「それでは、ここが湊君の席で、隣が私の席ですね」
「ありがとう、えっと鞄は……どうすれば?」
「鞄は机の横に下げるか、荷物が多いのであれば、教室の後ろにロッカーがありますから、そちらへ置いてくださいね」
彼女は、既に物が積み込まれている教室のロッカーの中で、唯一空っぽの場所を指し示す。
僕はその言葉に従い、そこへ鞄をしまい、案内された自身の席へと着いた。
「ありがとうございます。糸美川さん。助かりました」
「いえいえ、どういたしまして」
ニコニコと笑みを絶やさずこちらを気遣ってくれる態度に、正直感動してしまう。
というかこれ、理想的な第一歩、踏み出せていないか!?
って、マズイマズイ、勘違いするな。
これはあくまで、偶然。
隣の席の女子生徒が、まるで創作に出てくるような黒髪美少女……ってその思考はさっきもやめると決めたばかりだろう。
うん訂正、まるで大和撫子とはこういうこと、と言わんばかりに穏やかで丁寧で美しい彼女と隣の席になれただけなのだ。
いやでもそうなるとなー!
こんな子と関係を持てたらなー!
それだけで脱オタク達成できている気さえする。
などと一人妄想をしていると、幾人かの教室内の生徒からの視線が気になった。
勿論、いきなり現れた顔も知らないクラスメイトの存在に戸惑っているのだと思う。
だけど当然、そればかりではないはず。
……これはやっぱり、糸美川さんが僕に、声をかけてくれているからだろうな。
糸美川さんは本当にとんでもない美少女だ。
とすれば、クラスの中でも中心人物、重要な存在であることは想像に難くない。
そんな存在が、いきなり現れたイレギュラーに優しく話しかけているのである。
勿論、彼女の行為があくまで親切でしかないことはクラスメイト達も分かっているであろうが、それでも気になってしまうほどの存在感が、彼女にはあるのだろう。
うーん、これがラノベとかだったらなぁ。
たまたま入学式から病欠してしまった男子が、美少女の隣の席になって仲を深めていく、そんな展開も……ってまたオタク妄想しているぞ、僕。
小学校中学校とオタク街道を突っ走ってきた僕なので、しょうがないとは思う。
とはいえ脱オタクを目指すと決めながらこの体たらくじゃなぁ。
よし、ここは切り替えて、上手い事糸美川さんと普通の会話に挑戦だ。
意識せずに、普通に、普通に。
「ふふ、ようやく隣の席の方とお話しが出来るようなります。端の席に誰もいらっしゃらないので、何となく寂しかったんですよね」
「そそ、そうなんだ」
糸美川さんの言葉に、動揺して、あっさりと決意を吹き飛ばされる俺。
さ、寂しいって糸美川さん俺と話せないことをそんな風に思って……
いかんいかん寂しいってのは別にそういう意味でないだろう。
だというのに、一瞬で妄想が捗ってしまった。
脱オタクを図るには、美少女とのやり取りを出来るようにすることが近道なのかもしれないけれど。
彼女の美少女っぷりは、余りにも容易く僕をオタクの妄想へと引き戻そうとするのだった。
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