オタク男子なら、美少女男子と友達以上も余裕です!?

一寸ネル

第1章 オタク男子、美少女男子と友達になる

1歩目 糸美川さんは裏表のない美少女(男子)です

第1話 踏み出す前に靴を履き間違える男

 何事も、最初の一歩目というものは踏み出すのを躊躇うものだと思う。

 多くの人が、それでも踏み出さなければ何も始まらない、なんていうけれど、果たしてそれを聞いて「はい分かりました」と実行出来る人間がどれだけいるだろうか。


 おそらく大抵の人達は、そんなことは出来ないのではなかろうか。

 それでも、踏み出すことが可能になるとすれば、背中を押してくれる誰かが、一緒に歩んでくれる誰かがいるからではないだろうか。


 だからこそ、今の僕には。

 それをしてくれる誰かが必要だった。


 いや、それをしてくれる誰かって言うかさ。

 そもそも何で教室に直接来た、僕。


 自分のクラスと思われる教室の扉を前に、僕は足を踏み出せないでいた。

 湊想太郎みなとそうたろう、朝から人生最大の危機。


 何故に教室へと進めないかといえば、答えは簡単。

 初めて教室へと入るからだ。


 別に、不登校というわけじゃない。

 この春、見事にこの学校、私立能美のうみ高校へと進学した僕は、間抜けなことに、入学式に季節外れのインフルエンザに罹ってしまったのだ。


 そして、入学式に参加することもなく、家でうんうん唸る事一週間。

 ようやく登校が可能になり、病気中に担任からもらった指示に従って、自身が所属することとなるクラスの教室へと足を運んだ。


 そこで、気づいてしまったのである。

 いや、教室の場所は分かっても、それ以外は何も分からないんだけど……?


 こういうのって、先生が案内してくれるもんじゃないのかな?

 座席の場所も、何もかも分からないのにどうしろというのだろう。


 なんてこった、これじゃ間抜けさの二乗じゃないか。

 僕には、高校で叶えたい壮大な目標があるというのに……!


 高校進学と同時に、今までの僕と決別する。

 僕は所謂オタクだ。


 漫画にゲームにアニメ、心から愛している。

 けれど、一念発起。


 目指すは脱オタク!なのだ。

 だというのにこの状況って……


 まずもって、今現在、自分で自分にツッコミを入れているのが痛すぎる。

 これではハッキリ言って、目標には程遠い。


 見事なまでのオタク仕草じゃないか。

 待て待て、ここは発想を逆転だ。


 この圧倒的アウェイの状況、見知らぬクラスメイト、入学式から不在の生徒ながらも、なんてことなくコミュニケーションを取れる人物。


 これって、脱オタクの第一歩目として、かなり相応しいシチュエーションではないだろうか?

 よし、そうと決まれば……!


 意を決し、足に力を入れて、グッと踏み出そうと顔を挙げたところで――――

 いや、無理無理、無ー理ー。


 なんかめっちゃ教室内の人達がこっち見てる気がするんですけど!

 何ならひそひそと眉を顰めて会話すらしてませんかねぇ!?


 そ、そうだ、ここは勇気の撤退だ。

 考えてみれば、普通に職員室に寄れば良かったんだった。

 多分先生もそのつもりで、当然のこと過ぎてわざわざ伝えなかったんじゃないか?


 ああもう、こんな事では先が思いやられるなぁ。

 とてもじゃないが、脱オタクなんて出来ないんじゃないか、僕。


「あの、すみません。湊想太郎君ですよね?お休みされていた」


 またもオタク特有の、内面での自己語りを繰り返しつつ、教室に背を向けて、職員室へと向かおうとする僕に、声がかけられた。


 振り返ればそこには、一人の女子生徒がいた。


「あ、ええと。そう、ですけど」

「やっぱり、そうでしたか」


 戸惑いながらも肯定する僕に、彼女は両の掌を胸の前で合わせると、ニコニコと笑みを絶やさず、頷いてくれた。


「私は同じクラスの糸美川渓いとみかわけいって言います。これから、よろしくお願いしますね」


 同じ高校生だというのに、少し大人びた彼女の可愛らしい仕草に、思わず僕はときめいてしまう。

 女の子に話しかけられるだけで、ドキドキしてしまうなんて、ホント、オタクが過ぎる。


 僕は、彼女の言葉に応えられないままに、考える。

 最初の一歩を踏み出すのは、とても勇気のいることだと思う。


 けれど、それを手助けしてくれる誰かがいるならば、思い切って勇気を踏み出すことが出来るのではないだろうか?


 少なくとも僕の踏み出す一歩目は、僕に声をかけてくれた彼女によって。

 目の前の美少女のおかげで、容易に踏み出せる気がしたのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


まずは第1話を読んでいただき、ありがとうございます。

主人公湊想太郎、美少女と出会う。

果たしてここからどうなるのか?

よろしければ本小説の第1節である、

1歩目 糸美川さんは裏表のない美少女(男子)です

が終わる所までお付き合いいただければと思います。


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