第一章 七夕が導いた運命
ある七夕の夜。夏なのにいつもより涼しい風が吹いていて、網戸のままでも心地よいくらいの気候だった。最近は暑さが増してきたせいで、外に出ることさえも億劫だった。しかし、今日の気候はバテやすい私の体には癒しそのものだった。
一人で夏の風を楽しんでいると、ふとベランダのところで人の気配を感じた。最初は気のせいかと思い、ソファーから立ち上がろうともしなかった。
しかし、カーテン越しに人の影が見え、気のせいではないと確信した私は息を殺して立ち上がり、窓の側まで近づいた。不審者であることを懸念し、左手にはスマートフォンを握っていた。
恐る恐るベランダを覗いてみると、そこには若い一人の男性が膝を抱えるようにして座っていた。顔がすごく整っていて、私よりもおそらく年上で大人なはずなのに、どこか子供っぽい。まるでおとぎ話の世界から現れた人。第一印象はそんな感じだった。
正直、不審者らしき人物には到底見えなかった。それでも彼とは面識が全くなく、なぜ私の家のベランダに座り込んでいるのかも見当がつかなかった。いくら端正な顔立ちと言えど、ふとした瞬間に不審者の一面を覗かせるかもしれない。そう思った私は、しばらく部屋の中から気づかれないように彼の様子を観察していた。彼の行動次第では警察に通報することも考えた。
しかし、しばらく彼を眺めていても、彼が不審者である様子が全く感じられず、それどころか周りを見渡して、明らかに困惑している様子だった。まるで今のこの状況を全く掴めていないような、そんな雰囲気だった。
困っているのではないかと感じた私は窓を少しだけ開き、ベランダに顔だけ覗かせ
た。
「……何をしているんですか?」
私は声を震わせながらも、彼に声をかけた。すると、彼は私の顔を見た途端、困惑した表情から一転、そのつぶらな瞳を輝かせた。そして彼はいきなり私に尋ねてきた。
「あの……、一週間だけここでお世話になってもいいですか?」
突然のことに思考がフリーズした。私は彼の言葉をすぐには理解できなかった。正直、今のこの状況に困惑するばかりだった。彼が何者かも分からない今、答えは明確なはずなのに……。
彼の私に対する眼差しや口調はとても優しく、そんな彼を放っておくことができなかった。彼な曇りなき真っ直ぐな瞳で私を見ていて、まるで世界の汚れを何一つ知らないような、そんな純粋な瞳だった。とても綺麗だと感じた。その瞳を見て、不思議とどこか懐かしさを覚える自分がいた。
正直、この状況では彼を信じる方が無理があった。それなのになぜか、私の本能がこの人だったら信じても大丈夫だと言っている気がした。今までの人生で、本能的に何かを感じ取ることなんてなかった。そんな感覚を初めて抱いた自分に少し困惑した。
それでも、いや、だからこそ今回は自分の本能に従ってみようと思った。私は気づけば彼の願いを了承していた。私の返事を聞いた彼は安堵の表情を浮かべていた。私は彼に尋ねた。
「たった一週間でいいの?」
「違うよ。一週間“も”あるんだよ。」
私は彼の言っていることがこの時はよく理解できなかった。
——この夏、私はちょっと不思議な彼との一週間の同居生活が始まった。
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