お題「魔法使いのアルバイト」

🍳きみろん🀄

本編

弟子と師匠は似た者同士

第1話 その肩書きに気後れしながら

 ドタン!

 乱暴に扉が開かれた音がして、意識が浮上する。


「起きろジューキー!」


(何やら師匠が騒がしい。

 まぁいつものことか)


 そう考え、寝なおそうと掛け布団を引き上げると、文句を言う。


「こんな時間に起こさないでくれます? まだ外も薄暗いのに。

 師匠ならわかっているでしょう? 僕の種族特性だと明るくなってからじゃないと活動できないことを」


 そう、僕の種族は龍種だ。

 ただでさえ寒いこの季節。そうでなくても恒星の光を浴びてからでないと体温が上がらず活動できないのだ。


「そうは言うがなぁ、相手方にも都合ってもんがある。

 お前には悪いが、今日ばかりは付き合ってもらう――――ぞッ!!」


 そう言いながら潜り込んでいた掛け布団の端をむんずと掴んだ師匠。

 強めた語尾と共に布団を引っぺがした。


 師匠の言葉にどこか違和感を感じたが、それは無意味だ。


「なにぃ! 寝袋だとぉ!

 やけに布団が薄いと思ったら、なぜ狙ったように……!」


 動揺する師匠の方に寝返りを打つと、わずかに目を開いて説明する。


「昨日師匠が警戒させるようなことを言っていましたからね。

 いつもなら翌日の修行内容を説明してから終わるのに、昨日は『うーん、考えとく』でしたよね。

 徹夜して夜遅くから誰かとビデオ通話をしていたようですし、警戒もするってものです」


「おぉう、ジューキーがいつにもまして辛辣しんらつだぁ……。

 俺ってそんなに信頼ないかねぇ……?」


「教えてくれる内容以外は全く」


 さすがに『いきなり突拍子もないことを言い出して僕の心の平穏を破壊する常習犯ですから』とは言えなかった。

 教えてくれる内容以外も全面的に信用はしているし、師匠だし、一応とは言えその結果成長させてくれているし。

 そう、一応とは言え、だ。

 それはその度に受ける疲労や心労が釣り合っていないことばかりだからだ。


 そう考えている間も目を見開きながら黙りこくっていた師匠。

 ハッと我に返るとわざとらしく咳払いをした。


「えー、では、ジューキー君の新しい修行内容を発表しよう!

 聖星アスタラジャに居る我が姉弟子に付いて魔術の勉強をしてもらう!

 それじゃあ、いーってらっしゃーい!」


 そう言いながら、僕の周りに結界を張る師匠。


「ちょっ、何を――」


 続けて転移術式で布団ごと僕を囲む。


 驚きで一気に眠気が吹っ飛んだ。

 慌てて布団から起き上がる僕をニヤニヤしながら見つめる師匠。


「サプライズ成功!

 カロムネスによろしくな!

 お前の成長を楽しみにしている!」


「サプライズ成功じゃないんですよぉー!

 全く――――」


 言い終わる前に術式が発動し、ジューキーの姿は掻き消えた。


 ▼△▼△▼△▼△▼


 ジューキーが消えた後の彼の個室にて。


「そんなに信頼されていなかったとは。

 俺泣くぞ、泣いていいか?」


 そうは言いつつも彼女の顔は笑顔である。

 寂しそうなと注釈に付く笑顔ではあるが。

 自慢の狼の耳も心成しか垂れ気味である。


「お前はこれくらいしないと素直に跳んでもらえないからなぁ……。

 弟子の成長が嬉しくない師匠は居ないだろうよ。

 次に帰って来た時に信頼してもらえるように、まずは生活態度を改めようか」


 普段は弟子のジューキーに起こしてもらう師匠の宣言は三日坊主に終わりそうである。


 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「――――シャラヴァーンししょーーーッ!!!」


 ハッとして辺りを見回すと、一際高いビルの屋上に居ることに気付く。

 熱く乾燥した風が吹き抜け、うなじでまとめた髪の毛がはためく。

 まだ明るいが、恒星は傾き始めている。


(見慣れない景色だ。

 ここが師匠の姉弟子が居るという聖星アスタラジャか)


 掛け布団がない敷き布団の上で、寝袋にくるまれたまま上体を起こして顔の横から右腕を突き上げている状態で師匠の名前を叫びながら跳ばされてくる僕の姿がいかにおかしなことか。

 ふとそう気付き、辺りをうかがう僕の耳に聞こえてきたのはくぐもった笑い声だった。


「そ、そこに居るのは誰ですか?」


 顔を赤らめながら、聞こえ続ける笑い声の主がいるであろう屋上の出入り口に向かって問いかける。

 すると、扉が開き、狐種キツネしゅであろう妙齢の女性が笑い声を上げながら転がり出てくる。

 しばらく笑い続けた後、じっとりとした目を向ける僕と目線を合わせるためにしゃがんでから自己紹介をしてくれた。


「シャラヴァーンから聞いているよ。ジューキー君だね。

 私はカロムネス。あの子の姉弟子だよ。

 アスタラジャ魔導学院の客員教授をしている。専門は魔導師実戦学だね。

 それに加えて、アスタラジャ魔導師協会の幹部でもある。

 よろしくね」


 そう言ってウインクしながら僕に握手を求めてきた。


「よ、よろしくお願いします」


 師匠とは比べ物にならないその肩書きに気後れしながらも、その手を握った。

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