第14話 アイテムドロップ

 次に出てきたモンスターもスライムだった。

 今度は、ドロップリストから【空間拡張源(Ⅰ)】だけトグルをオフにしてみる。


 さっきと同じようにぱぱっと倒すと、再び目の前に小さな光がいくつか現れ、先ほどと同様にアイテムが無事ドロップされた。オシャレなガラス瓶に、虹色に輝くオーブが3つ、だ。幾何学模様が刻まれたビー玉はドロップされなかった。


 どうやら予想通り、ドロップリストのトグルはドロップさせるかどうかのフラグのようだ。そして、このドロップ確定は一回限りの力というわけではないようで一安心だった。


「なるほどなぁ」


 ドロップしたアイテムを【インベントリ】に収納しつつ、この【ドロップ調整】という権能について振り返る。


 ①モンスターにはドロップアイテムが設定されている。


 リストで閲覧できる機能だな。他の人ができたって話を聞いたことがないし、調べてる中にも出てきていないので、おそらく俺専用の力だろう。ちなみに、リスト上に出てきたアイテムを別のものに変更することはできなかった。


 ②ドロップするかどうかをアイテムごとに設定できる。


 モンスターが生きているときに【解析】を併用することで可能になる力だ。ON、OFFのトグルスイッチでドロップの有無を決めることができる。これは俺だけに適応されるのか、世界共通、あるいはダンジョン内共通の設定になるのか。基本OFFにすることはないだろうが、その確認もいずれ可能ならしてみたい。


 ③モンスターを倒すと、そのモンスターがドロップするアイテムを全て入手できる。


 ドロップリストのトグルがONになっているアイテムは、モンスターを倒した時に多分確実にドロップされる。これは間違いなく俺だけの力だろう。ありがたや。


 ④おそらく同じモンスターから何度でもドロップ可能。


 スライムが2連続でドロップしたことからも、モンスター1種類につき1回のみのボーナスではなさそうだ。連続で同種のモンスターを倒した時のみドロップされるということも考えられなくはないけど、おそらくその可能性はないだろう。


 ステータスを弄る力もやばかったが、このドロップ調整機能も完全にチート機能だ。お金ががっぽりですよ。


 それはそれとして、そろそろ次の検証に移ろうか。

 次はどのモンスターでもドロップアイテムのリストは出現するか、だ。


 実は最初に出会ったモンスターだけしかドロップは調整できませんよーという仕様だったら泣ける。


 というわけで、スライム以外のモンスターと出会いたい。


 この階層にでるモンスターは、スライム以外だとキノボとスリンキーがいる。どちらも出現率は変わらないそうだから、しばらくうろつけば遭遇できるはずだ。


 その予想は間違っていなかったようで、通路のど真ん中に、俺の膝下くらいまでありそうな毒々しい色のキノコが生えていた。いや、生えていないのか、ずりずりゆったりとこちらに向かってきている。それが2つ。どうやらモンスターは一匹ずつ出てくるわけではないようだ。


「まぁ、やることは変わらないんだけどね」


 早速【解析】でキノボとやらを見やれば、ぽんとホログラムウインドウが表示された。何度見ても近未来的でシャレオツだ。俺はこういうの好物よ。


-------------


 【キノボ- ドロップリスト】

 ・きのこ胞子  ON

 ・キュアポーション   ON

 ・【毒魔法・ポイズンボール】 ON

 ・【光魔法】    ON


 【キノボ - DR設定】

 ・きのこ胞子    1 / 100,000,000

 ・キュアポーション  1 / 1,000,000,000

 ・【毒魔法・ポイズンボール】 1 / 5,000,000,000

 ・【光魔法】   1 / 1,000,000,000,000


 -------------


 キノボがドロップするアイテムは、毒や解毒に関するものが多いらしい。きのこ胞子という毒素の塊なんてどこで使えば良いか全く分からないが、貰えるものは貰っておく。どうせストレージの肥やしになってしまうにしても、もしかしたら将来的に必要になる時が来るかもしれないからな。


 ヤバいのは【光魔法】のスキルオーブだ。


 脅威の確率1兆分の1。ドロップさせる気皆無なこのアイテム。【空間魔法・拡張空間】、【毒魔法・ポイズンボール】のように取得できる魔法が限定されていない、魔法属性名だけのスキルオーブ。これは原始魔法オリジンと呼ばれるものらしい。


 基本的に魔法のスキルオーブは【魔法属性・習得可能魔法】といった形で、特定の魔法属性の中から一つの魔法しか習得できない。


 例えばキノボが落とすもう一つのスキルである【毒魔法・ポイズンボール】は、毒魔法という属性魔法の中の、ポイズンボールという魔法だけが習得でき、他の毒魔法――毒の霧ポイズン・ミスト毒刃ポイズン・ブレイドなどは取得できない。


 まぁ、それだけでも人智を超えた力を獲得できる訳だが、ごく稀に取得魔法を限定しない魔法属性だけのスキルオーブが産出される。


 これは、熟練することでその属性を操る魔法を次々に覚えることができる、とのことだ。


 つまりは、どこかの誰かが作った魔法を一つだけ覚えることができるのが基本的な魔法スキルで、原始魔法オリジンはその属性を利用して可能になる現象を自由自在に作り出せる――創造魔法と言った感じか。


 現在のところ、原始魔法オリジンの習得が判明しているのは【火魔法】と【水魔法】の2つのみで、その取得者はそれぞれ【赫灼イフリート】とか【水月鏡姫ウンディーネ】とかっていう二つ名が付くくらいの実力者となったらしい。


 どうでも良いが、二つ名って厨二心をつんつんさせる、ちょっと恥ずかしい存在だな。


 そんなヤバいスキルオーブが、こんなキノボだかキノコだかダッサイ名前のモンスターからドロップされるとは……。ダンジョンの深淵を垣間見た気がする。


「もう一匹もリストは一緒か」


 ずりずり這い寄ってきているもう一匹のキノコにも解析をかけるが、現れたドロップリストは完全に一緒だった。


 モンスターの種類別にドロップリストはつくられているようで、個体差はないのかもしれない。


 いや、ゲームとかでは特殊個体とか固有名をもつ魔物ネームドモンスターとかがいるから、そういうやつらがもしいるとするならドロップするアイテムも変化するのかもしれない。


「それじゃアイムソーリーヒゲソーリー」


 とインベントリから取り出した石を投げつけ、キノコを2匹粉砕する。スライムの時と同じように小さな光がいくつも溢れ、無事アイテムがドロップされた。


 やはりどんなモンスターでも俺の権能は効果があると考えて良いのだろう。もちろん今後も検証は必要だけど、おおよそ今回の目的は達成できた。


 後は、実際にこのゲットできたアイテムをどれくらいで売却できるか、だ。


 事前に調べていた情報では、スキルオーブは安くても数百万。有用なものであれば億は固い。


 さらに今回の目玉である、ゲットした【光魔法】のスキルオーブ。ドロップされた時はスキルオーダーが星8つだったが、俺の【全てはあなたの心のなかにある】によって星一つ状態にしたので、その価値はヤバいものがあるんじゃないかと期待している。それが2つもあるのか。1つは俺が使ってみようかな。


 思わずニヤけそうになる口元を引き締めながら、ダンジョンの出口に向かうことにした。


 門を抜け、白い部屋に戻ってきた。後ろを振り返れば、どーんと虹色の門が佇んでいる。


 ここに行っていたんだな、と門を見ていると謎の感動が心に満ちてきた。数日前の俺には想像もできなかった未来が、今ここにあった。


「うぃーーーーっ」


 思いっきりノビをして、肩のコリを取る。どうやら思ってた以上にダンジョン探索に緊張をしていたみたいだった。


 首を左右に曲げながら、通路を通りADAのホールに戻る。一時間くらいしかダンジョンに潜っていなかったのに、外の空気がずいぶん久しぶりに感じられた。


「あっ、柴田さん。お疲れ様でした!」


 たまたま受付カウンターにいた白雪さんが声をかけてきてくれた。名前を覚えてくれているとは……やるな。ちょっと嬉しくなっちゃう。


「あ、どもです。無事に帰って来られました」

「怪我もなさそうですね。良かったです。最初の探索では引き際を誤って怪我される方も多いですから。ご無事で何よりです」


 まぁ、まさにファンタジーの世界に入り混むわけだからなぁ。テンションが上がってしまうってのは、良く分かる。


「ははは。そこまで若くないですから」

「えー、そんな! 柴田さんお若いじゃないですか!」


 さり気なく上目遣いを操りながら、ちょっと距離を詰めてくる白雪嬢。やるね。俺じゃなきゃ、ホイホイ行っちゃうとこだよ。


「いやー、白雪さんお上手ですね」

「もう、本心ですよ! 本日はもうお帰りですか?」


 預けていた探索者カードを差し出してくる。預けていたのを忘れていたけど、どうやら探索者カードは帰るときに返してもらう方式みたいだ。そうすることで、誰がいつからダンジョンに入っているか管理しやすいのかな。


「あ、どうもありがとうございます。そうですね。今日はもう帰ろうかと」


 本当はさっさとゲットしたアイテムを売却したいが、【ドロップ調整】がきちんと明日以降も発動するか確認してから動き出したい。


 この権能がダンジョン挑戦初回だけのサービスな可能性も限りなく低いがゼロではないからな。石橋を叩いて渡るチキンな俺だった。


 ということで、勝負は明日だ。


 明日、今日と同じようにアイテムをドロップさせることができたら、俺は決断しようと思う。


「分かりました! 初日は思った以上に疲れてると思いますので、今日はゆっくり休んでくださいね!」

「はい、ありがとうございます。」


 白雪さんの笑顔に見送られながら、ビルを出る。ああ、早く明日にならないかな。


 ◇


 さて、どうするか。


 自宅に帰ってきた俺の目の前には、虹色に輝くオーブが鎮座していた。テーブルに申し訳なさげに敷かれたタオルの上に置かれたオーブは、場違いな存在感を醸しだしている。

 

 -------------


 【光魔法】

 スキルオーダー:★

 光属性の魔力マナを扱い、その力により現実改変を行う。


 -------------


 魔法スキル。

 この世界に突如として現実となって現れたファンタジー。誰もが一度は使いたいと願ったアレが、今では手を伸ばせばすぐに掴める位置にある。


「……使ってみるか」


 売るか使うか、それとも誰かにあげるか。

 選択肢はいくつかあるが、実質「売る」か「使う」かの二択だ。


 正直、ダンジョンの【マスター】である龍を凌駕するこのステータスなら、魔法なんて必要ない気もする。


 それなら売ってしまえばもうお金に困らない生活ができるかもしれない。

 それに、もしかしたらこの権能は明日には消えてしまって、もう二度とスキルオーブを入手できなくなるかもしれない。


 それでも、やっぱり。


「ロマンだよなぁ」


 魔法を使う。

 これ以上に男心をくすぐるパワーワードはあるだろうか、いやない。

 となると、答えは既に決まっているわけだ。


「うぉぉぉぉっ、俺は人間をやめるぞぉぉぉ」


 とお約束な台詞を――ちょっと恥ずかしかったので小さめに口にし、スキルオーブを手に取る。


 どう使えば良いかは、使いたいと思った瞬間理解できた。


 -------------


 【光魔法】スキルを取得しますか?


 はい / いいえ


 -------------

 

 ゲームでよく見る選択肢がホログラムと共に目の前に現れたからだ。

 迷わず「はい」を選択すると、オーブが光を放ちながら身体の中に吸い込まれ、一瞬ステータスをいじった時に感じた爽快感が頭から足先までを一瞬駆け巡った。


「なるほど。これが魔法、か」


 自然と魔法の使い方も理解できていた。

 魔法とは、現実世界を魔力マナによって変革する力だそうだ。


 驚くことに、ダンジョンはもちろん、この世界にも魔力マナは存在しており、その魔力マナ自らの魔力を絡み合わせて魔法を発動することができる。


 つまりは自らのもつ魔力が高ければ高いほど、扱う魔法の質も向上していくというわけだ。


 スキルとして取得できる魔法は二種類ある。


 今回俺が取得した光魔法や火魔法、水魔法といった使用できる魔法を制限しない原始魔法オリジンと、光魔法の<ライト>、火魔法の<ファイアボール>、水魔法の<ウォーターボール>といったような一つだけの魔法が使えるようになる制限魔法――一般的に「魔法」に対して「魔術」と呼ぶようだ――とがある。


 制限魔法――魔術は魔術名を唱えるか念じるだけで発動するのに対し、原始魔法オリジン――魔法はしっかりとした改変のイメージが必要という手間がかかる。しかし、イメージ次第でどのような現象の改変も可能となる(その属性に沿わないといけない条件はあるが)分、応用が利くといった感じか。


 ただ、魔法もイメージと名前を連結させることで、発動の手順をある程度は省略できるようだ。まぁ、どちらにしろこのあたりは練習あるのみかな。


 ゲットした【空間魔法・拡張空間】と【毒魔法・ポイズンボール】のスキルオーブは使わずそのままにしてある。


 二つの魔術も気になるところではあるが、<拡張空間>は既に【インベントリ】がある以上、死にスキルになってしまうだろうし、<ポインズンボール>はそこまで必要性を感じないからだ。


 何個までスキルを習得することができるか分かってないので、必要性を感じるまでは手を出しにくかった。


「……イメージ、かぁ」


 パソコンで光魔法を検索してみる。


 現在魔術として知られているのは、灯りを発生させるライト、光を弾道として発射する光弾レイ、光を矢の形状に収縮させ打ち出す光の矢ライトアロー、レーザービームを打ち出す光線レーザー、強烈な光を短い時間発っする閃光フラッシュなどがあるみたいだ。


 これらを参考にイメージを組み立ててみる。家の中にいるから攻撃系は却下。となると灯りを出現させるくらいがちょうど良いか。


 ということで、手を突き出し――光が灯るイメージを組み立て、自然と身体の中を流れる魔力が認識でき、それを手に注ぐ。


 瞬間。

 目映い光が――弾け飛んだ。視界が一瞬で光に包まれ、何も見えなくなる。


「目がぁ、目がぁっ」


 どこぞの大佐のような台詞を吐きながら悶絶するはめになってしまった。


 どうやら、魔法を発動させるための魔力の量もしっかりと意識しないとこんな風に暴発してしまうようだ。今回は、俺の魔力が高すぎるが故に起こった不幸な事故だったわけだ。


 というわけで、初めての魔法は少しのほろ苦さと魔法を使えた興奮と喜びをくれたのだった。

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