第7話 ランクワン

 清々しい目覚め。


 身体中にエネルギーが充満していることが分かる、年を取ってからは感じることがなかった若々しい充実感を感じながら、朝を迎えた。


 うーん、と伸びをしながら洗面所に向かい、朝の支度を整える。

 鏡越しの自分の姿を見て、改めてほほぉと感嘆の声が漏れた。


 やっぱり夢じゃない!


 なんて最高でウキウキな気分。自分の顔や身体を見ながらニヤニヤしてしまうやばいヤツがここにいた。


「さて、と」


 ガラスコップに水を入れ、パソコンデスクに座りパソコンの電源を入れる。


 昨日は市の職員達が帰った後、強烈な眠気に襲われ、何もできずにすぐに就寝してしまった。多分疲れとかもあるけど、身体が一気に変わってそれを受け入れるために眠りを求めていたんじゃないかと思う。生体恒常性ホメオスタシスとかを異次元に放り投げた変化だから、それくらいあってもおかしくはない。


 水を一口飲んでから【カード】を取り出す。この【カード】はまさにファンタジーで、こちらの意思一つで消したり出現させたりすることができるようだ。


 特に【インベントリ】を使っているわけでもないので、きっとこの【カード】自体の能力なんだろう。どこに消えているのか全く分からないが、まさにファンタジーだ。


 改めてカードを眺めてみる。


 -------------

 【氏名】 柴田 浩之

 【位】  1

 【恩恵】 空飛ぶ吼えるケモノ

 【天稟】不明 -unknown-

 【スキル】全てはあなたの心のなかにある

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 やっぱり【カード】には限られた情報しか表示されないんだな。【ステータス】や【インベントリ】とかは【全てはあなたの心のなかにある】スキルを使わないと表示できないようだ。


 出てくるのは【氏名】と【位】――


「ふぁぁつ!?」


 なんじゃこりゃ、と変な声が漏れた。


 ランクが一位になってるじゃないか。最初見た時は30億くらいだったはず。真ん中辺りってどうなんだって思ったのを覚えているから間違いない。


 じゃあ、いったいどの段階でランクが上がったのか……。考えるまでもなかった。調子に乗ってステータスをカンストさせてしまった時だろう。


「気づかなかったなぁ」


 あの時は身体の変化がヤバすぎて、そこに気を回せなかった。

 こうやって落ち着いて思い返せば、確かに一度見ていることを思い出せる。


 どうやら知力が上がったことによって、記憶力もとんでもないことになっているようだ。


 カメラアイだったか、目で見た情報をそのまま写真のように記憶できる能力を地で行っている感じだ。


「やっちゃたなぁ……」


 後悔先たたずとはこのことか。でも仕方ない。限界を超えたステータスを得る機会があるんだったら、そりゃやるしかないでしょ。多分、過去に戻れるとしても同じことをやるだろうな。


 ランク一位になったからと言って、それが俺だとバレることもないだろうし。トップランカー達と違い、俺は平凡な一般ピーポーだ。これは俺が黙っていれば大丈夫だろう。


 ごほん。

 気を取り直して、パソコンに向かう。


「えっと……ギフト、アーキテクト、と」


 とりあえず困ったときはインターネッツに限る。ADAが公開している【恩恵ギフト】一覧サイトで検索してみる。


「あら……未登録?」


 全てはあなたの心のなかにあるスキルも検索してみるが、こちらもヒットしない。どうやらどちらも少なくともADAは把握していないものらしい。まあ確かに、こんなバランスブレーカーのようなスキルが発見されていれば、もっと騒ぎになっているか。


 一応一般の検索サイトでも検索してみるが、該当する情報は出てこなかった。


「ほえー、凄いな」


 代わりに面白い情報が見つかった。

 どうやら、ダンジョンから産出されるスキルやアーティファクトは高額で取引されているようだった。


「……一、十、百……10億!?」


 画面に映る取引サイトの金額を見て、声が裏返ってしまった。

 あるサイトで販売されているスキルオーブの値段が、10億を超えていた。


 男の浪漫と言えば魔法だ。純潔を守り続けた男は魔法使いになれるという廃れた伝説があるが、ダンジョンはそれを現実にさせる力がある。


 それが魔法系のスキルオーブだ。


「噂には聞いていたけど、スキルオーブってこんなに高いのか……」


 もちろん、ダンジョン黎明期に発見されSNSで拡散された外国の若者が見つけたような、小さな火が出るだけのようなスキルオーブは安価だが、今モニターに映っている銃火器を遥かに超える【火魔法・ファイアバレット - ★】というスキルなんかはとんでもない価値が付いていた。


 スキルオーブやアーティファクトの価値が高くなるのには色々な原因があるが、一番大きな理由はその希少性らしい。


 SNSにはスキルオーブを獲得するような動画が結構あったから、簡単に見つかるものだと思っていたが、どうやら簡単に見つかるものは使い道のないスキルやアーティファクトばかりらしい。もしくは有用なスキルであっても、ある理由があって価値がなくなってしまうこともある。


 資源となるものや力のあるものはめったに見つからないそうで、だからこそ価値がとんでもないことになっている。


 試しにADAが管理しているスキルオーブ販売サイトを覗いてみる。これは売り手としても買い手としても利用できる、現在最大手となっているスキルオーブ販売サイトだ。


 手持ちのスキルオーブを売りたいときは希望額を設定して売りに出せば良いし、買いたいときは希望のスキルをいくらで購入したいかを購入希望リストに登録すれば、後はオーブ所持者の応募を待つだけだ。


 このサイトはADAが運営しているため、取引もADAが仲介してくれる。オーブは使えば消滅してしまうため、公的な第三者を介した取引でないとトラブルが多発してしまう。その点ADAは世界規模の組織で、バックボーンもしっかりしているため安心して取引できるというわけだ。


 ADA以外にも取引できるサイトは個人企業問わずいくつかあるが、やはり一番賑わっているのはADAのサイトだろう。ADAのサイトを利用するには一定の条件があるみたいで、そのために高い信頼度があるようだ。逆に誰でも利用できる個人サイトでは詐欺やトラブルが絶えないみたいだな。


「……【風魔法・ウインドストリーム】スキル、★★なら3億5千万、★なら35億か。なるほど。とんでもないな」


 どこかで聞いたことがあったが、今回調べてみて再確認できたことがある。

 同じスキルだとしても、スキルオーブの価値は均一ではない。


 これはスキルオーダーとよばれる要素の差だ。そして有用なスキルを内包するオーブであっても無価値にしてしまう要素でもある。


 ★の数で表されるスキルオーダーは、別にスキルの強弱やレア度を表している訳ではない。

 これはそのスキルを習得するために必要な、人間の【天稟】の数を表している。


 【カード】に記載されていた【天稟】というキーワード。昨日は軽く流していたが、これは人間の資質みたいなものだ。


 スキルを取得できるかどうかは、【天稟】の★の数で決まってくる。例えばスキルオーダーが星二つ《★★》のスキルは、【天稟】が星二つ★★以上ある人であれば取得できるが、【天稟】が星一つの人は取得できない。


 天稟に釣り合わないスキルオーブを使っても、オーブが消えるだけでスキルは取得できないというツラい仕様だ。


 このスキルオーダー、同じスキルでもオーブによって差があるみたいで、星が少ない程価値がある。スキル取得が可能となる分母が増えるわけだから当然か。


「アーティファクトの方も値段がヤバいな……」


 これはダンジョンに夢を抱いて、一攫千金を狙うヤツが増えるのも仕方ない。


 それに――。


 俺のスキルが想像通りのものであれば、これはもしかして俺にもその機会チャンスがあるのかもしれないな。


「じゃあ、ダンジョンに入るには……」

 昼食を取ることも忘れ、俺は必死に情報収集に勤しんだ。

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