寝落ちしたら俺が大好きだったギャルゲーの世界に転生してた件について〜メインヒロイン攻略したいのに興味がないサブヒロイン7人に溺愛されて困ってます〜

鮫島 鱗

春編

第1話 おじさんの青春、蘇る

ガタン…ゴトン…


 昼の白い光が雪面に反射し、車窓をじわりと焼く。

 外は吐く息も白くなる真冬だというのに、車内の暖房は妙に暑くて落ち着かない。


 ――俺の名前は乾 京一郎、47歳。


 未婚、童貞、筋金入りのオタク。

 友人の年賀状は家族集合写真ばかりになり俺の年賀状だけは推しのスクショ。

 そりゃあ、飲み会にも呼ばれなくなる。


「……はぁ」


 ため息をついた俺のスマホ画面には、昔から俺の推しの…いや、嫁である『黒髪清楚で完璧幼馴染系美少女、花咲 栞』がいる。


 彼女は、俺が小学生の時に人生で初めてプレイしたギャルゲー『どくつきメモリアル』のメインヒロインだ。


 現実は何一つうまくいかなくても、ゲームの世界の中だけでら彼女がいつだって俺の隣にいてくれた。


『次は ○○駅 です』


 車内アナウンスが現実に引き戻す。


「……着いたか」


 終点でもなんでもない田舎駅。

 それでも俺にとってはいろんなものが終わりを迎えた場所だ。


 中学の頃、ここで先輩に殴られて。

 高校の頃、ここでリアルで初めて好きになった女の子に告白したがあっけなく振られた。


 ドアが開き、冷たい空気が一気に流れ込む。

 雪混じりの風が頬を刺し、昼なのに太陽の力は弱々しい。


「相変わらずここは寒いな…」


 駅前の景色は、昔とほとんど変わっていなかった。

 ただ、俺だけが老けた。


「正月くらいは顔見せないとなぁ…」


 小さく呟き、歩き出す。

 この帰省が嫌でたまらないが、一人っ子の俺には逃げ場がない。


 白い吐息が、すぐに空へ溶けていった。


 このときの俺は思いもしなかった。

 現実世界での人生が、まさか今日で終わるなんて。


 駅から歩いて十五分ほど。

 雪を踏むたび、ザクッとした音が足元に響く。


 懐かしくも帰りたくなかった道を抜けると見覚えのある古い家が姿を見せた。


 玄関の引き戸が、ギィ…と音を立てて開く。


「あら…京一郎!」


 出てきたのは母だ。

 昔とあまり変わらない笑顔。

 けれど、その笑顔を見るのが今の俺には一番苦しい。


「……ただいま」


 靴を脱ぐ間もなく、

 無口な父親が奥から現れた。


「帰ったのか」


 それだけ。

 親父と会話らしい会話をしたのは、いつが最後だったか思い出せない。


 母が気を遣うように、少し明るい声を出す。


「京一郎?あの…いい人、見つかった?」


 ――来た。


 その瞬間、胸の奥がズンと冷えた。


(またそれかよ…)


 だから帰省なんて嫌だった。

 だから現実なんて見たくなかった。


「……いないよ。いつも通りだよ」

「あら、そう。

 でも、そのうち素敵な出会いが――」

「お母さん」


 声が少しだけ強くなる。

 自分でも驚いた。


 母は慌てて話題を変える。


「そ、そうよね。とりあえず部屋に荷物置いておいで」


 視線を逸らし、二階へ向かう階段を上った。


 階段を上る途中、応接間の時計をチラリと見て愕然とする。


(……あと数時間で、親戚の大軍か)


 既婚者だらけのリア充軍団。

 毎年同じ質問。

 「結婚は?」「仕事は順調?」

 「まだゲームやってんの?」


 俺のHPがゼロになる未来しか見えない。


「……地獄はまだ始まってすらいないってか」


 二階の一番奥。

 扉を開けた瞬間、時間が巻き戻ったようだった。


 ――子どもの頃のままの部屋。


 棚も、机も、引き出しの位置まで、すべてが当時の記憶と寸分違わない。


 そして壁一面に貼られているのは、

 90年代に流行ったアニメのポスターたち。

 ヒロイン達の笑顔が、相変わらず俺を迎えてくれる。


 その中央――

 一番大きく貼られているのが、


花咲 栞のポスター。


 光沢が少しだけ薄れ、端がめくれているけれど、凛とした黒髪の美少女は昔と同じ表情でこちらを見つめていた。


「……そうだ。

 彼女なんていなくても、栞はいつでも俺のそばにいてくれた」


 呟きながら部屋の中をいじり始める。

 机の引き出しから出てきたのは、小学生時代に集めたドラゴンボーンのカードや、ガシャポンのギン消し。


 指で触れるたびに、懐かしさが胸を温かく締めつける。


 気づけば、涙が頬を伝っていた。


「馬鹿だな俺……いつまでも子どものままかよ」


 苦笑しながら引き出しを奥まで漁ると――


 ――あった。


 色褪せたゲームケース。


「どくつきメモリアル」


 俺の初恋の女が眠る場所。


「……今年も、ちゃんとクリアしないとな」


 一年に一度、帰省した時だけの儀式。

 花咲栞と、もう一度出会い直すための時間。


 俺は震える手でケースを握りしめた。


 この後、何が起きるかも知らずに。


 古いゲーム機の電源を入れると、懐かしい起動音が部屋に響く。


 ――ピッ。


 画面にロゴが浮かび、あのオープニングテーマが流れ始めた。


 桜の舞う背景。

 スポットライトを浴びる一人の黒髪少女。


花咲 栞。


 凛とした表情。

 少し寂しそうな微笑み。

 そして、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳。


 それを見た瞬間、胸の奥が熱くなった。


「お前は…本当に変わらないな…」


 気づけば涙が溢れていた。

 子どもの頃から、どれだけ落ち込んだ時もこのオープニングテーマに救われてきた。


 タイトル画面に切り替わる。


【Enter your name】


「乾 京一郎っと……」


 画面に自分の名前が表示される。

 いつも最初だけは恥ずかしくなるが、仕方ない。


「よし…久しぶりにいくか」

 

 ボタンを押して、物語が始まる。


 ――長い。

 とにかく長い。


「そうだったよなぁ……

 栞と初めて出会うまでがクソ長いんだよ、このゲーム…」


 教室で選択肢。

 部活勧誘のイベント。

 男友達キャラの自己紹介。

 教師との会話。


「栞出せよ…栞まだかよ…」


 すると急激な睡魔が俺を襲う。

 昨日は夜行バスで寝られなかったせいもあり目の奥がゴロゴロするしまぶたも重い。


「……ふぁ……

 少しだけ……休憩……」


 コントローラーを握ったまま、

 視界が滲み、揺れていく。


 暖房の効いた部屋はやけに心地よく、雪の静けさが子守唄のように響いた。


「……栞……」


 その名を最後に呟きながら、俺は深い眠りへと落ちた。


 ――まぶしい。


 強い陽光が窓から差し込んでいた。

 額に寄った皺の奥まで刺し込むようで、

 思わず目を細める。


(……どこだ、ここ?)


 ぼんやりと視界が晴れていき、知らない天井と蛍光灯が映る。


 周囲から聞き慣れた音が聞こえた。

 教科書のページをめくる音。

 チョークが黒板を擦る音。


(こ、ここは…高校の教室…!?!?)


 自分の両手が視界に入る。

 皺もシミも、骨ばった感触もない。


(俺の手……じゃない!?)


「京一郎くん、起きて?

 授業中だよ? 先生に怒られちゃう…」


 耳に落ちる柔らかで澄んだ声。

 あまりにも聞き慣れたヒロインボイス。


 ゆっくり振り向く。

 そこには――


花咲 栞。


 黒髪がキラキラと陽光を反射し、

 完璧な横顔が手の届く距離にある。

 ポスターでも、ゲームでも見続けた顔が

 現実味を持って瞬きしていた。


「し……栞……!!!?!!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 信じられないものを見た子どものように。


 栞はふわりと微笑む。


「京一郎くん、2年生になったばかりなのにもう居眠りしてるの?」


 息が詰まるほど眩しい。

 目の前にいるのに、届かない存在だったはずだ。


(嘘だろ……

 ここ、“どくメモ”の教室じゃねぇか……)


 その瞬間、先生がこちらを向いた。


「乾!居眠りはいけないぞ!

 授業に集中しなさい!」

「あっ、はいっ!」


 反射的に起立し、すぐ着席。

 隣から栞のクスッという笑い声。


「ふふ、やっぱり京一郎くんは昔から面白いね」


(やばい……

 本当に転生してる……

 てか俺……高校生になってる!?)


 心臓が壊れそうなほど高鳴っていた。


 まだ信じられないけど――

 実に今日は充実した一日だった。


 授業中に栞と短く交わした会話。

 一緒に移動教室しただけで、胸が苦しいほど高鳴って。

 昼休みには、同じパンを選んだことですら奇跡に思えた。


(これが……青春ってやつか……)


 放課後。

 校舎の出口に差し込む夕日が眩しい。


「じゃあ、一緒に帰ろっか!」


 勇気を振り絞って言った。

 言えた。

 ついに言えたのだ。


 栞は、一瞬だけ目を丸くした。

 そして、ほんの少し申し訳なさそうに視線を落とす。


「友達に見られて変な噂とか立つと……恥ずかしいし……ごめんね」


 その笑顔は優しいのに、言葉はしっかり俺の胸を刺した。


「そ、そっか!そりゃそうだよな!いきなり付き合ってもない男と帰るとか……うん!」


 声が裏返ってた。

 自分でもわかるくらい情けなかった。


 栞は軽く会釈して、友達の輪へと駆けていった。


(……ああ、そうだよ)


 思い出した。


 このゲーム、花咲 栞と一緒に帰れるようになるだけでもめちゃくちゃ苦労するんだった。


 俺は夕日の中でひとり。

 風がちょっと痛い。


「はは……俺、なに期待してんだか」


 充実した一日。

 最高の一日。

 でも――現実と同じで

 俺はまだスタートラインにすら立っていない。


 重たい足を引きずりながら、俺はこの世界での実家へと帰った。


 扉を開けると、どこか懐かしいカレーのいい匂い。

 靴を脱いで階段を上り、自分の部屋に戻る。


 現実世界で40歳の俺が思い描いた“理想の青春”がそこにあるはずなのに――


(ここからが地獄なんだよなぁ…)


 机に突っ伏しながら、頭の中にあるゲーム知識を総動員する。


「栞を落とすには、全ステータスMAXじゃないと絶対に攻略できない鬼畜難易度……!」


 呟きながら手を震わせた。


 運動だけを極めれば――

 運動部のマネージャー系ヒロインに熱い視線を向けられ。


 勉強だけを頑張れば――

 おバカな同級生ヒロインに「すごい!」と尊敬され、そのまま求愛され。


 容姿だけを磨けば――

 チャラい雰囲気の遊び人後輩ヒロインがしれっと距離を詰めてくる。



「バランスよく努力しないと…サブヒロインから好かれて詰むんだよな、このゲーム……」


 頭を抱える。

 だがそれでも。


「絶対に俺は……栞を落とすんだ…!!


 拳を固く握りしめる俺。

 そのとき――


 ピコン。


 視界にゲーム風のウィンドウが現れた。


◆ステータス画面が解放されました

・学力:10

・運動:6

・容姿:7

・精神力:19

・ストレス:66


「わあ!?なんだこれ!?」


 ツッコミを入れながら、俺は深く息を吸った。


「よし……今から本気出す」


 そうつぶやいた瞬間、どこか遠くで不穏な笑い声が聞こえたような気がした。


「ま、まあいいや…まずは勉強だ。こう見えて学生時代は俺そこそこできたんだぜ?」


 机に教科書を広げ、意気揚々とペンを握る。


 ――が。


「……え?」


 ページをめくった瞬間、頭の中が真っ白になった。


 文字が踊っている。


「……覚えてねぇぞ、こんなの!?

 俺の記憶にある数学と違うんだが!?」


 現実世界での中学高校の内容なんて、すでに30年以上前の話。

 脳の引き出しにしまったデータはすっかり埃をかぶっていた。


「最初から絶望なんだが……?」


 ペンが手から滑り落ち、机にカツンと音を立てた。


(このままじゃ栞どころか、

 他のヒロインからも

 誰からも愛されない……)


 そして脳裏をよぎる――


最悪のバッドエンド。


 誰にも告白されず、

 卒業式のチャイムが空虚に鳴る。

 画面が暗転し、切なすぎる失恋ソングが流れ――


 虚無。地獄。孤独の極み。


「うぅわあああ!!!

 絶対あれは嫌だ!!!」


 涙目で机を叩く。

 ステータスウィンドウがピコンと揺れた。


◆ストレス +10

◆精神力 -1


「やめろ!!俺のメンタルはもう底なんだよ!!」


 しかし、現実的な脅しは続く。


(……勉強も運動も、全部やらなきゃいけないのに出だしからこれとか……)


 コントローラーを握り直すかのように、拳を強く握った。


「絶対にバッドエンドなんて回避してやる……

 俺は栞に告白されて最高のハッピーエンドを迎えるんだ!」


 その叫びを嘲笑うかのように、下から母の声が響く。


「京一郎〜? ご飯できてるわよ〜早く降りて来なさいよ〜?」


 そして、俺が子ども時代から落ち込んで部屋に引き篭もった時によく実の母親にも言い放ったあの言葉――


「分かってるから!後で行くから今はほっといて!!」


 しばらく部屋で項垂れてから下に降りると温かいカレーの匂いが漂ってきた。


「いただきます……」


 スプーンを握りしめて一口。

 驚くほど普通の味だ。

 でも、それが妙に優しく染み渡った。


(くそ……でも、頑張るしかない)


 この世界で幸せを掴むには、まだまだ努力が足りない。

 栞と並んで歩く未来なんて、遠すぎて眩しくて見えない。


 それでも。


(絶対にバッドエンドなんて回避してみせる)


 空になった皿を見つめて、ぐっと拳を握る。


「とにかく今日は寝よう」


 明日はもっといい日になる。

 ――そんな希望にすがりながら、

 俺は布団の中へ潜り込んだ。


 ――翌朝


目覚ましの音と同時に、俺は勢いよく起きた。


「よーし! とにかく容姿だ!!

 まずは顔洗って、歯磨いて、頭洗って……!」


 洗面台へと走り、水で顔をバシャバシャ。


(見た目が整ってれば、栞と“いい雰囲気”のイベントもワンチャン…!)


「よし……これでバッチリ……!」


 自信満々で鏡を覗き込んだ瞬間――


「…………なんだこのブサイク!?」


 予想以上にブサイク。

 現実世界の俺よりかは、まぁ…マシだが。

 栞に釣り合うほどでは決してない。


(いや、これはまだ初期値……!

 これから上げていけばいいんだ……!)


 無理やり前向きに捉えて、制服の襟を正す。


 一階で母に朝食を詰め込まれて俺は通学路へ飛び出した。


(今日こそ動き出すぞ、俺の青春……!)


 だが、その決意が一歩を踏み出してすぐ――


「――あっ!先輩はっけ〜ん♡」


 背後から高い声が飛んできた。


(やべ……来た!?)


 振り返った先。

 そこに立っていたのは、小柄で華奢な体つきの少女。


 ピンク色のミディアムヘアが春の風にふわりと揺れ、大きな瞳はキラキラと悪戯っぽく輝いていた。


 短いスカートにルーズソックス。

 華奢なのに存在感の塊。


遊び人後輩ヒロイン

 『桜 さくらこ』


 この世界では、魅力ステータスを上げると一瞬で落ちるという危険な爆弾娘だ。


「先輩、今日もブサイクだね〜w」

「誰がブサイクだ!」


 反射的にツッコむと、彼女はケラケラと楽しそうに笑う。


(……うるさいなぁ…けど可愛いなコイツ……)


 瞬間、心の中の天使と悪魔が取っ組み合った。


(いかんいかん!!栞がいるのにギャル後輩にときめいてどうする俺!!)


 だが、彼女は容赦しない。


「けど〜先輩ってなんか、見た目のわりに愛嬌はあるんだよね♡」


「見た目のわりって言うな!!」

「そういうとこもカワイイ〜♡」


 ぐいっと腕を絡めてくる。


「ちょっ!?

 距離近いって!」


 桜に腕を絡められたまま、俺はふと背筋がゾワリとした。


(……あれ?)


 俺の容姿ステータスはまだ低いはずだ。

 ゲームの記憶が正しければ、この段階の彼女の初回イベントは――


「近寄んなブサイクw」

「キモいんだけど」

「視界に入るなー」


 の三連コンボがデフォルト。


(なのに…なんか妙に優しくねぇか?)


 好意というより――

 異様な距離の近さ。


「先輩どうしたの〜?変な顔してるよ?w」

「変な顔とはなんだ!」


(いや、そうじゃない……違和感はそこじゃない……)


 俺の容姿なんてまだ7。

 なのになんだこの対応は、正直不自然すぎる。


(……なんかおかしい、何かが俺の記憶と違う)


 それが何なのか、今の俺には言語化できない。


(ま、まぁいい……栞ルートに支障なければ……)


 そうは思うものの胸の奥に引っかかる感覚が残ったままだった。


 そして学校へ近づくにつれて、俺の顔は自然と緩んでいった。


(栞、もう教室にいるかな……今日こそ一緒に帰れるかな………?)


 自分でもキモいくらいニヤニヤしていたと思う。

 だが、止まらなかった。


 そのとき――


「……先輩、なに笑ってんの?」


 横を見ると、彼女が不機嫌MAXの顔でこちらを睨んでいた。


「え?いや、その……」


 動揺して言葉を探していると。


「まさか……先輩、好きな人いるの?」

「はあ!?い、いないけど!?」


 全力で否定した。

 したはずなのに――


「絶対嘘」


 桜の声色が変わった。


 可愛げのある遊び人後輩ではない。

 何か、もっと濃くて黒いものがにじむ。


「ゆ、許せない……!!」


 握られた俺の腕がギシッと軋む。

 笑顔が貼り付いたまま、目だけが笑っていなかった。


(やべぇぇ……こんな反応ゲームでも見たことないんだが!?!!?)


 ステータスウィンドウが開く。


◆桜 さくらこ:嫉妬フラグ点灯

◆好感度 +20(急上昇)

◆栞ルート妨害確率:上昇中


(バカな……こんなのゲーム本編じゃ見た事ないぞ……!!?!)


 鼓動が嫌なリズムを刻む。


 彼女は俺の答えが気に入らなかったらしい。

 ぐっと距離を詰めてきて――


「先輩が……私以外の子と遊んだらさ……あそこ、ちょん切っちゃうから♡」


 声は甘いのに、背筋が氷点下まで冷え込むような感覚。


(あそこちょん切っちゃうって……えぇ!?!!?)


 彼女の瞳の奥に、嫉妬と独占欲がギラリと光る。


「だからね、先輩は私だけ見てればいいんだよ?♡」


 まるで恋を語るような優しい口調。


 でも――これは愛じゃない。

 支配だ。


(そうか……)


 ここで俺は悟った。


 この世界は“俺が栞を攻略すること”を本気で妨害してくるクソゲーだと言うことに――



――つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る