「君と宇宙を歩くために」泥ノ田犬彦(12月21日)
人に紹介するとすぐ「宇宙兄弟?」「宇宙飛行士を目指す青春もの?」と訊ねられる本作。そりゃそうだよな、タイトルがこれだもんな。
しかし「君と宇宙を歩くために」の「宇宙」は、いわゆる宇宙ではない。普通の人が普通に生きている日常の世界のことなのだ。
こう説明すると内容がおおよそ分かるかもしれないが、つまり「普通の世界」を生きるのに困難を感じる人、周りが普通だと思っていることができずに変人扱いされたり、困っていてもなかなか理解されない人、そういう人たちが主人公の物語である。
主人公の1人は「小林大和」。中学生までは周りと一緒にやって来られたものの、勉強には身が入らず、バイトをするようになったら仕事を覚えられず、髪を染めたりしているせいかヤンキー扱いされているが、本人は至って真面目な子。
もう1人の主人公「
この宇野は発達障害を持ちながら普通の学校に通っていて、自力では判断がつかない事や困ったことが起きた場合の、マニュアルを書いたノートを携帯している。宇宙が大好きな彼は、このノートを宇宙飛行士が船外活動するときに使う命綱の名前「テザー」という名で呼んでいる。
大きな声や物音、マルチタスクが苦手で時に授業にも支障をきたす宇野だが、好きな物事に関しては記憶力が高く、宇宙の話をするととても楽しそうに喋りまくる。
ならば天文部に入ればいいと小林が一緒に天文部を訪ねるのだが、なんと部員が3年の「美川昴」という先輩一人で廃部寸前。立て直すには部員が3人必要となった時、小林は進んで名乗り出て、「困ったことは友達に相談していい」という宇野のテザーになかった判断を付け加える。
一方小林の方は、日常では一見支障がないものの、ものを覚えるのがとても苦手で、周りの人が難なくこなすことができず、自分の将来に対して少し悲観的になっていた。
しかし宇野と出会ってからは、自分も彼の真似をしてノートを作り、バイト先では仕事の仕方をメモしておくことで乗り越えようとする。
すぐにはうまくいかなかったが、店長が小林の努力に気づいて、彼を助けながら仕事をする体制を作ろうとする。そのおかげで、友達に1カ月も続かないと思われていたバイトが続くようになる。
更には全く興味も知識もなかった天文部に入って、最初は美川先輩に煙たがられているのだが、彼なりの感性でその世界を見るようになり、徐々に理解されていくと同時に、彼自身の世界が広がっていく。
読み始めた時は「こういう人って周りから理解されないからキツいんだよな……」「本人もうまくいかないことで色々溜め込んでいるしなぁ……」と、実体験から先行きが大変そうだと思っていた。
しかし本作の主人公たちは、次第に前向きになっていき、理解したり受け入れたりしてくれる誰かを支えに、自分が抱えている困難を乗り越えようと奮闘する。
実体験と書いたが、私は人の声や大きな音がとても苦手だ。宇野の前で小林と美川がやや喧嘩腰で喋っている時、宇野がその声で「自分が責められているような気分になってしんどい」と、耳をふさいで逃げ出すシーンがあるのだが、これが私にも実感として分かる。
そういう行動を私が取っても、「怒鳴ってもいないしあなたに怒ってるわけでもないのに」と理解されなかったのだが、小林と美川は自分たちがやらかしたことに気づいて宇野に謝りに来る。
この理解者が一人でもいるといないとでは、気分の楽さが違うのだ。
そして理解されれば、自分も周りを大事にしよう、もっと上手にやっていく方法はないかと自分で模索するし、ストレスを抱えていなくていいので対処する余力も付いてい来る。そういう前向きさがずっと連鎖していく物語なので、読んでいてとても楽しくなってくる。
昨日からホッコリ期に入ったんじゃないの、と思われたかも知れないが、この作品はテーマが重めに見えて内容は結構ホッコリである。
他人と理解し合う事というのは、自分が認識できる範囲や枠に相手をはめて考えることではない。相手が何と言っているのかよく耳を傾けて、まずは分からないままでも「そうなんだ」と思って聞き、寄り添いながら現実的な対処方法を考えることだ。
そうやって生きることは、分かりやすい名前のついた障害を抱える人だけでなく、ちょっと人と違う感性や体質を持つ家族や友達にとって、やがては自分にとっても優しい世界を作り上げることだと思うのだ。
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