第2話 女神ぱわ~!

俺はつっけんどんに言ってやった。


「お前の席あっちだろ。あっちいけよ」


「えーやだぁ。ここがいい」


ヤダヤダとラブが動くものだがら体が密着している俺も一緒に動かされる。

ヤダヤダ。

俺もヤダ~。


「つってもさ自分の席あるんだから、ここに居るのはよくないことだろう。ルール守れよ。授業はじまってんだし」


「うぅ……」


おっ。

効いたか?

眉を寄せたラブは悩ましげに後ろの自分の席を見つめていたんだけど、なにか閃いたのか、パッと顔を明るくしたと思うと、






「女神ぱわ~!」






不抜けたかけ声と共にラブは自分の杖を振り上げた。

それと同時に、

どういう仕掛けか、後ろのラブの席がたちまち宙に浮きあがったんだ。


「ぁ……ぁぁ……」


突然のことに言葉を無くした俺は声にならない悲鳴を上げる。


ラブの「うりゃっ」と外に放り投げるポーズと共に、机は窓を突き破って外に落下していったのだった。


「あたしの机無くなちゃった~」


「お前が自分で消したんだろうが!」


「これでラブの席はここになったねぇ」


甘えた声で俺に体をくっつけてくるラブに俺は肝が冷えていく。

怖っ。

ストーカーになって警察とか弁護士とか挟まないと別れられないタイプの奴じゃねえかコイツ。

体の震えが止まらない。

てか問題はそこだけじゃない。

なんだよあのサイコキネシスみたいな力は。ガチじゃんか……。

ということは





――――こいつ本当に異世界転生の女神なのか?





俺はあまりの出来事に思考が止まってしまった。

頭が理解することを放棄してしまったのだ。


ややあってからラブが話しかけてきてビクッとした俺はやっと思考を再開させた。


「ねぇねぇ君のお名前は?」


「俺の名前? 俺の名前は――――――」


「うん?」


あれ……。







「俺の名前…………………………………………なんだっけ」







本気で名前が出てこない。

焦りながら頭をフル回転させてみても文字の一つも出てこない。

喉がカラカラになる。

俺は誰か教えてくれないかと周囲に視線をやるも、周りのクラスメイトは俺やラブのことなんて眼中にないらしく視線は黒板にあった。


俺が急に黙り込んだせいかラブが俺の顔を覗き込んできた。

心配――ではなく、にんまり笑っていやがる。


「自分の名前わからないの?」


「ああ、そうだよ」


「ほほーん。あたしの女神パワ~が君の世界に干渉してるせいかもね」


「はぁ? お前のせいなのか? ならどうにかしろよ!」


「だったらあたしが君に名前をつけてあげるね。そうだなぁ」


「いやそう言うんじゃなくて女神パワーとやらをどうにかしろって言―――」


「ピース君です」


「いやだああああああああああぁぁ」


俺は両手で顔を覆う。

そんな、あんまりだ。



嘆き悲しむ俺にラブは、


「だってだってぇ、あたしがラブだもん。だったら君はピースでしょう。二人合わせてラブ&ピースってね。いぇい」


楽しそうにピースサインを向けてきやがる。

心底ウザい。


俺はこの流れを止めるべく口調を荒げて言う。


「新しい名前とかいらないから、さっさと俺の記憶を戻してくれって言ってんの!」







「だったらあたしのことを受け入れてよ。ピース君があたしを拒絶するからこんなにもこの世界は不安定なんだよ」







今までのヘラヘラが嘘のように、真剣な声だった。

真顔のラブの瞳は底の無い暗闇が広がっている。

女神の神々しさというものなのか、俺は怯んでいた。


そんなん言われたって意味分かんねえし、会話になってねえんだよ。

こいつに俺の主張は通るどころか、まともに取り合ってもらえないってことかよ。

諦めのため息しか出ない。





ゴトゴトッ。キーン。





にわかに校内放送のスイッチが入ったようだった。

俺らと同年代の男子の声が聞こえてくる。




『宣誓。

僕達私達にはー、仲良く消えてもらーう。

そしてこの俺が、この場に君臨する。

しかとこころえよ』




今度は何だ!?

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