第3話 「お前クラス委員だろう」「なんで俺が!?」

なおも放送は続く。


『人生は悲劇だ。生まれた意味なんてない。すべて無駄なんだ――――』




窓際の生徒達が外のクラウンドを見下ろしていた。

それにつられて周りの奴らも窓の外に視線を向ける。


ラブが俺の耳元で呟く。


「なにが起きてるんだろう。ね、見に行ってみようよ」


「いや授業中――」


抵抗の甲斐無く、ラブに腕を掴まれた俺は無理矢理に連れて行かれる。

周囲の視線が痛いぜ。

ラブの手足は細く、俺が本気になれば振り払えたんだろうけど『女神ぱわ~』ってのが怖くて逆らえない。

羞恥心に耐えながら俺達は窓際のベストポジションに到着し、野次馬を開始する。




グラウンドでは異様な光景が広がっていた。




ぐるぐるぐるぐるグルコサミン――――じゃなくて、

野球部員が地面にバッドをつけ、それに自身の額をくっつけながらグルグル回っていたのだった。

一人じゃなくて三十人ほどの部員全員がみんなでぐーるぐる。



放送の声は、芯の強さがありながらも哀愁を帯びていた。



『だから俺は――――この世界をぶっ壊す。

すべての可能性を摘み取り、夢も希望も学校も全部全部ぶっ壊してやるんだ。

それは辛い、悲しいことだって?

いいや、それは違うぞ。

出来ない悲しみを抱え希望を裏切られ失敗をつきつけられるより、幾分マシだ』



俺は視界に演説の主を捕らえた。

朝礼台の上、マイクスタンドの前に一人の男子生徒が立っていた。

ラブも見つけたらしく、

「見てみてピース君。きっとあの子だよ」とバシバシ俺を叩いて教えてくる。「だけどあんなお面被りながらよく喋れるよ。器用だねぇ」というラブの言葉が気になり、再度確認する。


「本当だ」


よく見ると、ラブが言っていたとおりにその男子生徒は仮面を被っていた。

泣いてようにも見えるし笑ってるようにも見えるブキミな道化(クラウン)の仮面だった。






「なぁピースよ。あいつを迎えにいってやれ」






突然、担任が言葉を発した。


ピースって誰だ? とキョロキョロしてると、俺を凝視してくる担任と目があった。

お、俺のことか? と口をパクパクさせていると担任は、


「お前クラス委員だろう」


「なんで俺が!?」


てか俺ってクラス委員だったのか。

それも忘れてる。

じゃ、じゃあラブのことも俺がクラス委員だから押しつけられてるのか?


担任の押しつけは止まらない。



「迎えにいってやれって。あいつ構ってちゃんだからお迎えが来ないと何時までも続けるぞ。一人じゃ落としどころ見つけられないだろうし、不憫じゃないか」



不憫って俺もじゃね? 

無理矢理役目押しつけられてさ。

俺も生徒の一人なんですけどわかってます?

俺の授業の進みはどうなります? 

てか担任が行けよと苛立ちが収まらない俺にラブが、


「クラス委員って勇者みたいだね。ピィ君にぴったりだよ。ささっ行きましょ行きましょ」


「誰がピィ君だ!」


俺は怒りにまかせて担任にも食って掛かった。


「先生が行くべきだろ! 自分の生徒がグラウンドで騒いでるんだから」


担任はあからさまなため息をつくと、言った。


「行きたいのはやまやまなんだが、生憎俺はこれから授業なんでな。手が離せないんだ。おいお前ら席つけー。授業の続きするぞー」


俺達と同じように席を立っていた生徒達はわらわらと席に戻っていく。

授業が再開しようとしている。

俺を置き去りにして。

隣にいるラブは楽しくて仕方が無いようだ。


「ピィ君行こう?」


花が咲いたみたいに純粋な笑顔で、俺に手を差し出してくる。

俺はこの短時間で何度ため息をついただろう。

そしてまた新たなため息をつくと、乗り気じゃないがしぶしぶラブの手を握った。

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