第27話 ファンナの行い⑥ 過剰行為はただのおせっかい
明くる日、ケディーの意向で俺達はお母さんと過ごした家の解体を始めた。
アックスが本気を出せば一日とかからずに解体できるが、ケディーが自分も含むみんなでやりたいと言ったので、彼女の体力に合わせて三日かけて行った。
彼女は時折涙ぐむ瞬間はあれど、体を動かすことで悲しみを紛らわせているのか、基本的には元気な姿を見せている。お母さんの遺体は家の前に土葬し、自分たちで石と木で墓標を建てた。手先が器用なアックスに教わりながら、ケディーは墓標にお母さんの名を一生懸命に彫る。
家を解体し終わり、一通り落ち着くと独り身になってしまうケディーの里親探しを俺達は始めた。
俺達はまずは村長に話を通す。口下手なファンナに代わって、エリィがケディーに起きた経緯を話し、彼女を養子として迎え入れてくれそうな人がいないかを聞いた。
村長は誰々が子供を欲しがっていたと何人か候補をあげながら、その話の合間に何度も何度もケディーの体の中に本当にガの卵はいないのかと聞いてきた。
「……もういい。……こいつ、ダメ……」
そう言ったのはファンナだ。村を救ってくれたお礼にと出してくれた食事(村長の本位とは到底思えないが)に、彼は一切手をつけずに退席する。それに続いて追いかけるようにケディーが退席し、俺達も村長の態度に嫌気をさしていたので、一言断りを入れてから退席をした。
「も〜う、おにいちゃんだめだよ! わたしの新しいパパとママをさがすんだから〜」
「……ごめん」
驚くことに俺達が外に出た時には、ケディーは顔を膨らませてファンナを叱っていた。あれだけ村長が嫌味を言っていたにもかかわらず、彼女は意に介さないどころかファンナに注意をする余裕までも見せる。
お母さんが亡くなってからまだ四日としかたっていないのに、子供とは思えない堂々とした態度、その態度には感服するばかりだ。
俺達は村長に教えて貰った人たちの家を一軒一軒訪ねてみた。
どの家もケディーを腫れ物を見るかのような、酷い時は汚物を見るかのような、そんな視線を向けてくる。この村は狭い。ケディーのお母さんがガに寄生されていた事実は、一日も立たずに村中に広まってしまったようだ。
気味が悪くて関わりたくない、というのが村人達の本心なのだろう。
俺達が粘って何度も何度もいろんな家に訪問して数日がたった頃、ケディーは村の通りで俺達に向かって言った。
「おにいちゃん達! もうわたしのことは気にしなくていいよ……アックスおにいちゃんから聞いたよ。おにいちゃん達はぼうけんしゃなんでしょ? ほんとうはファンナおにいちゃんも、み〜んなつぎに進まないといけない。だから、だから……わたしにもうかまわなくていいの! ほら! わたしはもう一人でだいじょうぶだから」
彼女は平気な素振りを見せつけるために、両手を広げてその場でくるっと回ってみせる。しかし、よく見ると手は震えているし笑顔も硬い。
「……そう……僕は冒険者。……だから、そろそろ行かないと、いけない。……でも、ケディー、一人にしておけない。……だから僕、考えた……この村は難しい……なら、しばらく僕と一緒に冒険もある。……そして……別の村、ケディーの新しいパパとママ見つける……どう?」
ファンナはケディーの頭を優しく撫でようとしたが、彼女はそれを嫌がってその手を跳ね除けた。
「――っもう! おにいちゃんのばかぁ!! おにいちゃんなんて知らない!!」
ケディーは一周回ってしまいそうな勢いで俺達に背を向け、前傾姿勢で走り去る。
「――ファンナ! ……ケディーを一人にさせよう」
ファンナがすぐさま追いかけようとするも、俺が彼の肩を掴んで静止させる。
「代わりに様子を見てくる!」
「うん、アックス頼むよ」
アックスはケディーの後を追いかけ、ファンナはその場に呆然と立ち尽くす。
「……僕……間違えていた……かな?」
彼の言葉を聞いて、俺とエリィは顔を見合わる。エリィは俺に口パクで「まかせて」と。彼女は伏し目がちな彼の顔を覗き込む。
「ファンナ、私が思うにあなたがやって来たことはとっ〜ても立派よ! ダリルのパーティーを抜けてまでもして、ケディーのことを気にかけてきた。それはみんなが出来ることじゃないわ」
「――抜けていない! ……僕、ダリルのパーティーの一員……ダリル、許可得ている……」
「あ、ごめんね! そういう意味で言ったわけじゃないのよ。ええ〜と、ともかくね、あなたはここまで一人の少女に対して良くやってきたわ。ケディーもあなたの行為を受けて、と〜ても嬉しかったんだと思う。お母さんが亡くなったばかりなのにあの子があんなに元気でいられるのはさ、きっとファンナがいたからよ」
「……僕だけ……それ、違う。……エリィたち、いた……だからケディー、元気いられる……」
「ううん。それは謙虚すぎるわよ。ほとんどがあなたのおかげ。私達はほ〜んの少しだけ、少しだけね、お手伝いをしたの。ファンナ、私が思うに……ケディーは弱りきったお母さんとずっと一緒にいた。頼れる大人は周りに誰一人としていなくて、それはそれはとても孤独だったと思うわ。私達では考えられないほどに辛い日々だったと思う……」
「……それ、僕も思う。……ここ来た時……ケディーの表情、何もない……笑わない、泣かない。……ケディー、ずっと辛い環境にいる。……環境違う……けど、どこか僕と似ている……なぜかそう思った……」
なるほどな。それでファンナはケディーをほっとけなかったわけか。今でこそ時折笑ったりはするが、俺が知るファンナはつねに無表情だった。故郷の村で彼と接点がなかった俺は、彼の家や家族がどういうものか全く知らないが、おそらくは大変な人生だったのだろう。
「そっか〜、不思議ね! 今のケディーはま〜ったく無表情とは無縁よ! 私達が来た時には表情が豊かだし、とっても子供らしくてかわいらしい女の子よ。それは紛れもなくファンナのおかげね」
ファンナは恥ずかしそうに
「……ええっと……それで、そうね。ケディーはあなたから行為を貰いすぎたのよ。辛い経験をしたからか、元からなのか……不思議とケディーは年齢に似つかわしくない大人な部分があるわ。それはあなたも気づいてるでしょ?」
彼はコクっと頷く。
「もしかして、ケディーはこれ以上あなたに迷惑をかけられない、そう思ってるんじゃないかな? それにこれ以上あなたに心配させたくない!とも思ってるわ。あなたはケディーが強いと思ったからこそ、あの時、悲惨な状態のお母さんと大量のガがいる家の中に連れて行ったんでしょ? あなたはケディーならその状況を見ても絶対に立ち直れる、そう信じた。ケディーを対等な一人の大人として扱った。違うかしら?」
「……違くない」
「だったら今もあの子を信用して一人の大人として接してみたらどうかしら? 押し付けがましい優しさは本当の優しさじゃないのよ。あの子があなたにそこまで求めてないのなら、それは単なるおせっかいでしかない。それではあの子の成長を止めてしまうわ。ファンナはあの子にとってそんなお兄ちゃんでいいの?」
「……良くない。……ケディー、正しく成長してほしい。……エリィ、言う通り……僕、意地張っている。……これでは、ケディーの方が大人……」
ファンナは暗かった表情が戻り、エリィにお礼を言うと、ケディーが向かった方角へと走った。
「もう大丈夫よ……」
「エリィ、さすがだね」
「……なにが?」
彼女は風で乱れた髪を直しながら俺を見る。
「なにがって、今さっき話してたことだよ。ファンナを説得させただろ。エリィはここぞって時に核心をついて人を導く才がある!」
「そーお? 導くって程でもないわよ。私からしたら、リチャーズの方が周りへの影響力あると思うよ。そういう才があるのはあなた方」
「それはないない! 俺はしがない旅人で、単なる村人Aだよ」
「あはははっ……なによ〜、それぇ〜! それを言ったら私も同じよ。村人Bであり、しがない旅人よ。そろそろ潮時かしらね。もう少しだけケディーの様子を見たら、私達この村を出発しましょ」
「ああ。そうだな……」
独り身になってしまった少女が生きていくにはとても辛い環境。だけどあれだけのことがあっても元気に振る舞っているケディーのことだ。俺達がいなくてもきっと上手くやっていける。
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