元勇者ですが、街角で何でも屋はじめました。

さい

第1話 ロクでなし元勇者

「助けてくれ、カイル……」

「あとは頼んだぞ、カイル……」

「俺の死を無駄にしないでくれ」


 仲間たちが次々と死んでいく中、俺は剣を握り立ち上がり叫んだ。



「あああああ──ッ!!!!!」


 はあはあ、と息が荒い。

 身体中からは汗が溢れ出している。


 窓から外を見ると、太陽はすでに世界を明るくしていた。


 たまに見る。

 かつて、勇者として魔王と戦ったあの日のエピソード。

 俺は一人の仲間を除き、他三人の仲間を失って魔王を倒した元勇者だ。


 ベッドから立ち上がり、んー、と伸びをした。


「全く、嫌な夢だぜ本当よお」


 あれから約十年。

 世界は闇の下から光の下へとなった。


 はあ……、とため息をつきながら俺はタバコを一本口に咥えて火をつけた。

 

「まっ、忘れよう。なんたって今日は──」



 パチンコ屋の前には大きく、『祝五周年』と書かれた旗が立っていた。


 ──周年だから!!


 行列の中、ついに俺の番がきた。

 俺はボタンを押すと、機械から一枚の紙が発行された。

 そこには、『560』という数字が書かれていた。


 俺は紙を握りしめる。


「クソ番じゃねーか、このヤロー!!」


 パチンコ屋『321』。

 原付で十分ほどのところにある、俺のマイホだ。


 喫煙所に行き、ベンチに座り俺は一服し空を見た。


 スロット座れねーよなあ……。

 てことは、パチンコか?

 最近、399だらけだし……それに……。

 財布に五万しかねえよ……。


 世界を救った報酬として俺は大金を手に入れた。

 ただ、気づけば貯金もこの五万のみになってしまったのだ。


「今日は勝って、風俗でも行こうと思ったのになー」


 ぷるぷる、と頭を横に振った。


「いいや、なに負けた気でいんだよ。まだ勝負は始まってねーのによ!!」


 そうだ。

 危なかった、パチンコ=負けではない。

 メイン機には座れねーと思うし、釘は空いてねーかもしんねーけど、己の引きでなんとかなるはずだ!!


「よおおおし、やってやるぜ!!」



 外に出ると、俺は思いっきりパチンコ屋に向かって中指を立てた。


「死ね死ね死ね──ッ!!」


 負けた。

 当たるどころか先バレすら一回も来ないで負けた。

 199だよ?

 ライトミドルにしたんですよ?

 一回くらい当たってくれよ。


「……何やってんだろなあ、俺」


 原付に乗り、家に帰りながら俺は考える。


 毎日パチンコ。

 気づけば金はゼロ。

 ロクでなしすぎるだろ。

 ああー、俺の人生は本当惨めだなあ。

 仲間一人も守らず、しまいにぁ、俺まで守れてねーじゃねーかよ。


 と、その時だった。


 目の前には一人の白髪の男が両手を広げて立っていた。

 俺より若く、見るからに弱そうに見える。


 俺は原付を止めて、


「てめー、あぶねーぞ!! こっちは今イライラしてんだよ!!」

「……」


 モゴモゴと何かを言う男。


「ん、なんだよ?」

「助けてください!!」

「助けろってなー、俺はお前の自殺を手伝うはずねーだろうが。いいか、死にたきゃ迷惑かけずに死ね」


 全く、なんなんだよこいつ。


「違います、姉が」

「姉が?」

「借金取りに捕まって、助けてください!!」


 気づけば、男は涙目になっていた。


 なんだよそれ。

 めんどくせえ。

 もう誰にも関わる事なく、俺は一人で生きるって決めてんだ。


「しゃーねーなあ、意味わかんねーけど助けてやるよ。場所は」

「え?」


 他の人にもこうして声をかけたが失敗し、予想外だったのだろう。

 驚きの表情をする男。


「だから、お前のねーちゃんは今どこにいんだよおおお!!」


 俺は怒鳴るように言った。


 なのに、口が勝手にこいつを救おうとしちまってる。

 本当、俺は意味がわからねー生物だなあ。


「ほ、本当ですか!!」

「本当だって言ってんだろうが、バカヤロー」

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