第3話 自称賢者は少女の話を聞く

「こ、これ以上勝手な事をすると許しませんよ!」


「あ?許さないだと?何をしてくれるんだ?」


「そ、それは……」


「もう良いだろ!そこまでにしろ!」


「このガキ……興が冷めちまった。いるかこんな物、大した額じゃ無いしな!」


「キャッ!?」


 この男、アリスに報酬の袋をぶつけて建物を出ていったのか……なんて男だ!


「大丈夫かアリス!」


「う、うう……。」


「ご、ごめんなさい。私がちゃんとしていれば!」


「いや、それは俺のセリフだ。受付さんが庇ってくれなかったら危なかった。ありがとう!」


「そ、そんな……と、とにかく今のうちに帰った方が良いですよ!アリスさん、早く!」


「は、はいなのです……。」


「行こうアリス。世話になった、また明日来るよ。」


 俺はアリスの肩に手を置きながら、建物の外へ出る。周りを警戒しながら彼女の家まで行かないとな。


「アリス、場所はどの辺りだ?」


「あ、こ、ここなのです。ここの通りを左に入って欲しいのです。」


「ここだな。」


 言われた通りに進むと、何軒か家があるな。このどれかがアリスの家か。


「ここか?」


「違うのです。あれが私の家なのです。」


「隣の家か?」


「ち、違うのです!あの白い家なのです!」


 彼女が指差したのは白い家……家?


「本当にあれなのか?」


「はいなのです。」


 俺の目の前に現れたのは……巨大な建物だった。









「どうぞなのです。」


「お邪魔します。」


 扉の鍵を開けたアリスに続き、俺も中に入る。ここが、家?さっきの建物みたいに、掲示板や人の集まる机がたくさんあるぞ?


「これだけ広いのに、誰も居ないのか。アリス、何か事情があるのか?」


「そ、それはセージさんには関係無いのです!」


「いや、もう関係者みたいな物だろう。もし何かあれば言って欲しい。俺が力になるよ。」


「な、何にも無いのです!」


「そうか。」


 ……当然の反応だ。助けたとはいえ赤の他人。失礼な事をしてしまったな……。


「じゃあ俺は適当に宿屋を探すよ。ここまでありがとうな。」


「えっ!?」


「ここはアリスの家だろう?俺は他所を探すよ。」


「ま、待って下さい!」


 あ、アリス!?震えてるじゃないか!?


「一人はもう……嫌なのです……!」


 …………。







「……今日はもうすぐ夜になる。宿屋は埋まってるだろうな。……アリス、気が変わった!今日だけ俺を泊めてくれ、頼む!」


「えっ!?ほ、本当に良いんですか……?」


「そもそもお金の手持ちが無いんだよ。頼む!何とかしてくれ!」


「そ、それなら仕方無いのです。今日だけ泊めてあげるのです!」


 少し明るい顔になったな、良かった……。








「ミルクを入れたのです。どうぞなのです。」


「ありがとう。」


 それからすっかり日が暮れて、俺達は今食事を摂っていた。用意してくれたのは、ミルクと固いパンだ。


「美味しいよアリス。本当に助かった!」


「良かったのです。」


「なあ、アリス。さっきの奴は一体誰なんだ?」


 もう一度聞いてみよう。アリスの事がやはり心配だ。そう思った時、彼女はゆっくりと口を開けた。


「……さっきの男は、サイモンって言うのです。この街で幅を利かせている男で、皆恐れているのです。」


「そうか。君に嫌がらせをしていたが、あれは……いつもなのか?」


「はい。……ここは元々、冒険者が集まっていた場所なのです。」


「冒険者?」


「依頼を受けて報酬を貰う人達の事なのです。宝物を探したり、ひたすら戦いに身を置く人達も居るようなのです。」


 




「ここは私の両親が運営していた場所なのです。現役の頃は活気があったのですが、二人は病気で……」


「……。」


「その後ここは解散して、私達が行った建物が新しくできたのです。そうしたらサイモンがやって来て、好き勝手に暴れるようになったのです。」


「じゃあ、奴が君に嫌がらせをするのは?」


「理由は分からないのですが、ここが欲しいって言ってたのです。私は断ったのですが、そうしたら。」


「何だそれは……。」


 理解出来ない。理由も無く家族との思い出を手放す訳が無いだろう。





「……そうだアリス、明日もう一度受付さんの所に行きたいんだが。」


「えっ?」


「ちょっと用事が出来たんだ。付き合ってくれるか?」


「は、はいなのです!」


 奴は危険だ。しばらくはアリスと一緒に居た方が良いかもしれない。それと不謹慎だが……さっきの話を聞いて少し興味が湧いた事がある。


「冒険者か……。」


 一度話を聞いてみるのも良いかもしれないな。


「アリス。」


「はい?」


「困ったら言ってくれ、助けてくれたお礼だ。」


「あ……ありがとうなのです。でもそれは私のセリフなのですよ?」


「……確かに!俺も家が無くて困っている最中だ!」


 そして二人で顔を見合わせ、互いに笑った。……明日が楽しみだな!









「おはようございます!セージさん!」


「おはようアリス。良く眠れたか?」


「はい!久しぶりにぐっすり眠れたのです!」


「じゃあ早速付き合ってくれ。昨日の建物まで!」


「はいなのです!」


 早く行こう!冒険者の事を知りたいからな!


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