エスコート

「君をこんな風にエスコートする日が来るなんて思ってなかったよ。」

王子は手を差し伸べながら言った。

「ええ、わたくしもですわ。」

手を差し伸べられた令嬢もそれに応える。

こつりこつりと2人の足音が廊下に響く。

「わたくし、以前から思っていましたの。こんな風に殿下にエスコートして頂けるなら死んでもいいって。」

王子はその言葉にくすりと微笑み、言葉を返す。

「大袈裟だなぁ。…まあ、それくらい君との関係は冷え切っていたからね。いい思い出になったかな?」

令嬢は嬉しそうに微笑んだ。

「ええ、それはとても。最高の思い出になりましたわ。」

二人で他愛もない話をしながら廊下を進んでいく。そうして、目的地の扉の前に辿り着いた。

「…さぁ、ここから先は君だけの晴れ舞台だ。」

そう言って王子はそっと扉を開け、優雅に一礼する。

「ええ、そうですわね。」

令嬢も美しく礼をし、ドアの外へ一歩踏み出した。

―――群衆の怒声、投げられる石、好奇、憤怒、同情の交ざった視線。

ここは私だけの最期の舞台だ。

さあ、美しく微笑んで、

「ごきげんよう、皆様。」

断頭台の刃の落ちる音が響いた。

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