第7話:壊れた世界、温かな手のひら
プシューッ……。
圧縮空気が抜ける音と共に、バルキリアのコクピットハッチが開いた。
途端に流れ込んできたのは、焦げた鉄とオイルの臭い、そして冷やりとした地下の空気だった。
「カイトォォォッ!!」
ハッチが完全に開くよりも早く、小さな影が飛び込んできた。
ユキだ。
整備用リフトを駆け上がり、俺の胸元に顔を埋めてくる。
「馬鹿! 馬鹿カイト! 死んだかと思ったじゃない……!」
「い、痛いって、ユキ。苦しい……」
彼女の作業着(ツナギ)は油汚れと、そして今は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
俺の胸を叩く拳は小さいけれど、その震えが、どれほど心配をかけていたかを痛いほど伝えてくる。
「信じられない! あんな無茶苦茶な機動して! G(重力加速度)で内臓が潰れてもおかしくないんだよ!? もう少し自分の命を大事にしてよ!」
「……悪かった。でも、無事だ」
泣きじゃくるユキの頭を、俺は自然と撫でていた。
こいつがいてくれてよかった。戦場の殺伐とした空気が、ユキの体温で溶けていくようだ。
「……そうだ、アリアは」
俺はシートの後ろを振り返った。
そこには、糸が切れた操り人形のようにぐったりとしたアリアがいた。
拘束具のコードが外れ、華奢な体がシートに沈んでいる。
「アリア!」
俺はユキをそっと離し、アリアの元へ身を乗り出した。
脈はある。呼吸も安定している。ただ、深く眠っているだけのようだ。
その寝顔は、戦闘前の強張った表情とは違い、とても穏やかだった。
「……助けられたな」
俺はアリアを横抱きにして、コクピットから降り立った。
軽い。
こんなに小さな身体のどこに、あの黒い感情を浄化する力があったというのか。
アリアを抱え、ユキに支えられながら地面に降り立つと、瓦礫の山から拍手が聞こえてきた。
「ブラボー! 素晴らしいわ! 最高傑作よ!」
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