第3話 第一王子の求婚と、揺れ動く心


セシリアは、王宮の控え室に呼び出された。

座っていたのはハイル。


「セシリア。君に話がある」


「はい? また冤罪関連ですか?」


「いや、その件は終わった」


ハイルは真剣な目で言う。


「……僕の婚約者になってくれ」


セシリアは椅子から落ちかけた。


「なっ……!? いやいやいや! なんでそうなるんです!?私は巻き込まれただけで、王家と関わるのはもう——」


「君が適任だからだ」


真面目な声だった。


「君は誠実で、強く、気品がある。すでに王子妃教育もこなしている。何より——」


目が合った。

息が詰まるような黒い瞳の強さ。

その真剣な眼差しは心を揺さぶる。


「僕は、君を信じている」


(ずるい……そんな顔で言わないで)


セシリアは懸命に否定する。


「私、そんなに良い人間じゃありません! 目つきだって悪くて……」


「目つきが悪い?いやいや、それよりも目尻の黒子が愛らしいじゃないか」


「ほ、ホクロ?くっ……あなた、本気ですか?」


「当然だ」


ハイルは迷いなく言い切った。


結局その後、半ば強制的にセシリアは“ハイルの婚約者としての教育”を受けることになる。


だが、その中で感じた。


——自分に向けられた真っ直ぐな眼差し。

——困ったときには必ず駆けつけてくれる姿。

——令嬢としてではなく、一人の女性として尊重してくれる距離。


(……なんで。なんでこんなに優しいの?)


セシリアの心に、微かな揺らぎが生まれ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る