第3話 依頼者は大金持ち

「ビジネス……ですか?」


 言われるがままにちょこんとソファに腰掛けた金髪少女は言葉を反復する。

 湯気をあげる茶碗片手に対面のソファに座った巫女は、獲物を前にした肉食獣のようにニヤリと笑い身を乗り出した。


「そう! タダで力を貸してたら身が持たないからねっ! 協力には対価が必要なんだよっ!」


「対価……。あっ! おばあちゃんに言われてお礼は持ってきましたよ! よいしょ~! あっ」


 対価という言葉にピンときたのか、金髪少女は首にかけてあった紐をたぐり可愛らしいピンクのがま口サイフを引っ張り出す。

 そして中から可愛らしくない札束を取りだした。

 あまりに大きすぎる札束は彼女の手からすべり落ちる。

 ボロいローテーブルにバシッと音をたてて落ちた札束は、何と縦向きに自立している。この場と似つかわしくない大金である。


 巫女の視線は札束に釘付けとなった。


「じー」


「あう……ごめんなさい。ちょっと重くて、落としてしまいました」


 申し訳なさそうに金髪少女が両手で札束を持ち上げれば、巫女の視線も持ち上がり。その様子に首をかしげた金髪少女が左右に札束を持っていけば、巫女の視線も左右に揺れる。


 その様子は大好物の前で待てをされた犬である。


「……何だかワンちゃんみたい。ええと……。お願いを聞いてくれる?」


「はいっ! 犬とお呼びくださいっっ!」


 いや、どうやら自己申告によると彼女は犬だったようだ。

 真剣な表情には、手を差し出されてお手と言われたら、本当にしてしまいそうな危うさがある。犬も肉食獣と言えなくもないが、あまりに早すぎる変わり身だ。


「本当にワンちゃんにならなくて良いから、それよりも入り口を開けて欲しいな~って。ちょっと怖いし……」


「はい! 喜んでっ!」


 お願いされた犬巫女は、持ち上げる時間すら惜しいと段ボールの城壁にある隙間に両手を差し込み両開きにしてしまった。その奥には少々歪んでしまっているが入ってきた木製の戸がある。


 しかし退路をふさがれていた状態をちょっと怖いで済ますとは、大した胆力たんりょくである。

 ポンと大金を取り出してみせたり、意外と彼女は大物なのかもしれない。


「これでようやく落ち着いてお話ができますね。大部アゲハさん、あなたに霊能学園オカルト部の外部指導員をお任せしたいのです」


「はい! 喜んでっ! この霊能力者・大部アゲハにお任せくださいっっ!」


 外部指導員というのは、学校の部活動の指導を多忙な先生方の代わりに行う人材のことだが、はたして彼女に任せて大丈夫なのであろうか。逆に先生方の負担を増やしてしまいそうである。

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