◆鹿老婆◆
茶房の幽霊店主
第1話 山の怪。
※2025年8月11日。夜の部≪ナイト・ティー≫にて披露。
※(副店主Jさんの先輩から聞いた体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
※※※※※
〇〇山は夜景が美しいので有名な山でもありますが、過去に〇人・〇体遺棄事件が発生していたり、低山ですが登山では道迷いが原因で遭難者も出る山です。
関西では有名な山ですので、観光スポットや心霊スポットとして耳にすることがあるかと思います。
先輩は仕事先が〇〇山を越えた場所にあるため、毎日行き来しているのですが、この日、仕事を終えたのは深夜の一時過ぎ。
早く帰りたい気持ちでショートカットをしようと、いつもと違うコースを選び、鬱蒼とした山道へ入りました。
明かりが少ないのでハイビームで視界を確保して、ちょうど山の中腹あたりに来たときです。
後方から何かが迫ってきているのに気が付きました。
それは白っぽい四足歩行の姿で、かなり大きい鹿のように見えます。
この山にはイノシシなどの野生動物も生息しているので、最初は “なんだ、鹿か” ぐらいにしか思っていませんでした。
その鹿のようなものが段々車に追いついてくるのが分かり、違和感を覚えます。
鹿が車に追いつけるのか?
そして、車の斜め後ろまで迫ってきたので、ミラーで確認したのですが、その鹿の首の上には、老婆の頭が付いていたのです。
瞬間でパニックに陥り、車のアクセルを踏み込みました。
しかし、その老婆の顔を持つ鹿はさらに加速して、とうとう車と並走状態になります。
しかも、顔は運転する自分の横顔を見ているような気がするのです。
“コイツを引き離さないと自分は〇ぬ”
ひたすら車の速度を上げつつ、怪異とのカーチェイスが始まりました。
※※※※※
狭く暗い山道で逃れるため、必死に前方に集中し、これ以上加速し続ければ、事故を起こしてしまう限界が来ています。
胃が掴まれたような緊張の中、ハンドルを握りしめたとき、老婆の顔が少しずつ後方へ下がっていきました。
速度を緩めることなく、そのまま街の明かりを目指してすっ飛ばす、その耳へ
『おぼえとけよー、おぼえとけよー』
車の窓はすべて閉まった状態。
爆走中の車内でしゃがれた女の声がはっきり聞こえたのだとか。
その声が今でも忘れられないそうです。
※※※※※
※(ここからは【鹿老婆】の考察です)
この〇〇山。結構この手の目撃談が多く、山周辺の道路や、散策できる山道などで、〔人間と獣〕の部分を持ち合わせる、謎の怪異を見たという人が絶えません。
この先輩が見た〔鹿と老婆のハイブリッド〕の姿は初めて聞きましたが、〔牛の頭に人間の体〕または〔人間の頭に牛の体〕〔四つん這いの人間のような何か〕については割りとよく聞く話なのです。
牛の頭を持つ≪牛女(うしおんな)≫が赤い着物姿で現れ、ある岩(いわくつきの岩)の近くで踊っているなど。地域伝承も混ざってはいそうなのですが、
奇妙なことに、
伝承をまったく知らない人たちが〔異形〕を目撃している。
忌み地でも禁足地でもなく、観光地・行楽・デートスポットでもあり 景色の美しい山ですが、知らずに一線を踏み越える時、 違った側面を見せるのかもしれません。
◆鹿老婆◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom
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