第2話

それからの話は信じられないものだった。どうやって胸の内に隠していいのかわからぬまま自室に戻った。

「宮、院のお話はなんだったの?」

零落した宮家の姫君だった母がおっとりと訪ねた。世間知らずが服を着たような母にこの件を詳しく話せるわけがないと思った。もちろん、牡丹の宮自信も箱入りの世間知らずではあるのだが。

「私の婚姻のお話でしたわ。」

「まあ!」

母は嬉しそうに両手で口を覆った。

「どちらの方と?」

嬉しそうににじり寄ってきた母を見ると余計何も話せないと内心ため息が出そうだったがそれを押し殺して答えた。

「春宮様ですわ。喪が開け次第、裳着、春宮の元服を待ち添臥、そのまま女御として入内するようにとのことです。」

「まあ!賜る局は決まっているの??」

「さあ、そこまでは…とりあえず3人のうちの誰にするかとのお話だったので」

「あら、そうなの。」

細かいことをあまり気にしない質の母はなぜ牡丹の宮が選ばれたことは気にならないようだ。

ー籤で決まりましたというのも言いづらいものもあるけれどもねー

「それなら裳着のお式張り切らねばなりませんね」

母は今までにも増して裳着の準備を張り切ることにしたようだ。

「腰結いは太皇太后さまのままでよろしいのかしら?」

太皇太后は牡丹の宮たちの祖母だ。大変高齢だか、父のたっての頼みで3人の腰結いをすることになっている。

太皇太后は大層な財産家であり、3人の後見役として腰結い役を引き受けてくれている。次期帝の女御ひいては中宮となるものの後見としては政治的にはどうなのだろうか。

「でも、院が殿方に腰結いをお許しになるはずがありませんものね。」

「そうですね。きっとおばあさまのままだと思いますわ。」

そんなことよりも頭を抱えることがいっぱいなのだから事務的なことはその他の大人たちで解決してほしい。

そうして牡丹の宮は母と一緒に裳着の準備にとりかかったのだった。

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