第31話 デートの誘い?
「準備中」の札のかかった
店のドアを開けると、
テーブル席を拭いていた
望月夜也が振り返った。
「あら、冬至くん。
おかえりなさい」
「た、ただいま」
僕はやや緊張した面持ちで返事をしてから
カウンター席に座った。
それから白麹色のエプロンを着けている
夜也さんの方を盗み見た。
彼女の優しげな表情やその仕草からは
探偵だったとは到底思えなかった。
「お母さんを変な目で見ないでくれる?」
いつの間にか僕の横に
水の入ったコップを持った幻夜が
立っていた。
僕の目線の高さが、
丁度彼女の黒麹色のエプロンの
胸元の位置と重なっていて
僕は慌てて視線をそらせた。
「ち、違うよ!
全然似てない母娘だなって思って
見てたんだよ」
「あら。
そんなことを言われたのは初めてね。
『とてもよく似たお美しい母娘ですね』
って言われるんだけど?」
「そ、それは外見だけだろ。
な、中身は全然違うよ。
そんなことより。
誰かさんのせいで男の友情に
ひびが入るところだったんだぞ。
罪悪感はないのかね」
僕は皮肉を込めて言い返した。
「ふふ。
か弱い女の子に意地悪するからでしょ?
それに。
異性関係で壊れる友情なら
端からその程度よ」
幻夜は澄ました顔で
僕の前にコップを置いた。
「へいへい。
わかりました」
そして僕はコップの水をごくんと飲んだ。
「それよりさ。
後で話があるんだけど・・」
若干の迷いがあったが、
僕は意を決して口を開いた。
「あら?
デートのお誘い?
残念だけど。
あいにく私は清明さんのような
スマートでクールな大人の男性にしか
興味がないの」
「ち、違うよっ!
何で僕が
デートに誘わなくちゃいけないんだよ!
こっちにだって選ぶ権利は
あるんだからな。
それに。
清明兄ちゃんを狙ったって無駄だよ。
兄ちゃんは女の人には冷たいんだ。
と、兎に角。
店の手伝いが終わったら
部屋に来てよ。
探偵さんに・・話があるんだ」
僕の言葉に幻夜は目を瞬かせた。
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