第13話 いざ遺跡へ3

 守護者ガーディアンは見る見るうちに子猫ほどの大きさにまで縮むと、走ってきて黒井の肩に乗った。

「おい。大丈夫か? 重くないのか?」

「おう。不思議と全然重くないぞ」

「そ、そうなのか。重さはどこへ行ったんだろうな?」


「大きさだけじゃ無く、質量も変えられるんだろ。空気中にエネルギーで放出したのかもな。ま、知らんけど」

 黒井は笑いながらそう言うと、

「何だか凄く可愛くなったな」

 と言って、小さくなった守護者の頭を撫でた。


「う、うーん………」

 守護者が甲高い声で悶えた。

「お、その姿だとしゃべれるのかな。じゃあ、行くか。案内してくれるんだろ? ガーくん」と黒井は言った。


「ガ、ガーくん……」

「どうした?」

「い、いや。何でも無い。少し懐かしいというかな……。で、では、案内しようか」

 可愛い高い声で、守護者ガーディアン改めガーくんは言った。

 何だか動揺しているようなガーくんは、前足で頭をかきながら身悶えしていた。


 まあ、うれしそうだし、今後はガーくん呼びで統一することにしようか。

 俺がそう思っていると、目をキラキラと輝かせる紫織が目に入った。

 可愛いものを見るような紫織の目に、「いや、これさっきまで、殺意満々だった地龍が正体なんだけどな」と苦笑いしてしまう。

 すると、唐突に、

「開け、道よ」と、ガーくんが言った。


 目の前にあった大きな藪がどういう仕組みなのか、ギシ、ギシと軋みながら根っこごと左右に開く。そして、瞬く間に奥へと続く道が現れた。

 今までの土の道と違って、所々にアスファルトの残骸のようなものが残っている。

 俺はしゃがんで、それを触った。


「やはり昔のこの世界は、俺たちのよく知る世界と同じような技術があったようだな……」

「だな。遺跡がどんなものか、楽しみになってきたな」

 俺の言葉に黒井が頷く。

「では、行きますか」

 俺は傍に来た蒼真の言葉に頷くと、奥へと続く道へと入っていった。


 道の両脇はみっしりと木々が覆っていて、進むに従って少しずつ開いていく。後ろを振り返ると、どういう仕組みなのか、木々は閉じるように移動をしていた。まるで、密集する緑の木々の中をかきわけながら進んでいるかのようだった。


「なあ、黒井。さっきの問いだが、シュレーディンガーの猫の話と関係するのか?」

「おう。知ってるじゃないか」

 俺の問いかけに、黒井が笑った。

「確か、あれだよな……。箱に入った猫と、一定の確率で開く毒薬の瓶と一緒に入れていて……、その猫が生きてるか、死んでいるか、は見るまで分からない……みたいな」


 顎に手を当て、曖昧に覚えている内容を言うと、

「まあ、正確では無いが、そんな感じの問いでシュレーディンガーという学者が考案したんだ。実際に観察するまでは猫は生きているのか、死んでいるのか分からん。いや、どっちの状態でもあるのだという思考実験だな。

 かのアインシュタインは光は粒子であるとのたまったのだが、その後、光は波の性質も同時に持つことが分かった。詳しい説明は省くが、その矛盾を検討するために考えたものなんだ」

 黒井がすらすらと答える。


「ふうん……。それでさっきの答えになるのか?」

「まあ、そういうことだ。最初の答えも間違いでは無いが、その次に答えた答えの方が正確かな。光は粒子として観察すれば粒子に、波として観察すれば波になる」

 そんな話をしていると、急に周りが開け、大きな木々や蔦に絡まれた長方形のビルのようなものが現れた。


「こいつは……」

 俺は茫然と呟いた。

 久しぶりにコンクリートと窓ガラスを見たような気がする。

 五階建ての鉄筋コンクリート造りのビルのような建物――。太陽の光を窓ガラスが反射していた。

 壁中に蔦が這い回り、一階、二階の窓ガラスと壁は、コケが覆っている。

 壁のコンクリートは比較的、綺麗に見えるが、所々、ひびもあった。そして、鉄製の柵や取っ手は赤く錆び、アルミの窓枠なんかは白くなっていた。


「紫織さん。この世界にある遺跡ってこんな感じなのか?」

「こんな感じのものもあるけど、色々よ。塔のようなものもあるし、もっと大きな建物のときもある……。でも、ここのは割と綺麗だと思う。普通はもっとボロボロよ」


「そうなんだな……。だが、なあ黒井。これって……」

「ああ。まさか、だがな」

 俺は黒井と目を合わせ、ため息をついた。


「今のやりとりは、どういうことですか?」

 それまで黙っていた蒼真が訊ねた。

「いや、何というか……、まあ、はっきりと分かったら言うよ」

 俺は言葉を濁した。すると、

「では、入り口に向かおう」と、ガーくんの声が響いた。


 俺たちは玄関をくぐった。

「エレベーターに向かうのだ」

「分かったが、動くのか?」

 指示をするガーくんに訊ねると、

「太陽光パネルとバッテリーが生きている」

 と、返ってきた。

 俺は頷くと、一階奥のエレベーターへと向かった。


「三階に行くんだ」

 俺は頷いて、上に上がる矢印を押した。

「さあ、皆、入れ」

 自動で開くドアに驚いている紫織や調査団を押し込むようにエレベータに乗り込む。

「あ。護雷狼……は、階段で来い! 三階だぞ!」

「ウォンッ!」

 俺がぎゅう、ぎゅうになったエレベータの中から指示すると、護雷狼は元気よく返事をしてすぐに消えた。


 満員のエレベーターで苦労して三階のボタンを押すと、エレベーターはスムーズに上昇する。

 ドアが開いて降りると、入り口で護雷狼が既に待っていた。


 俺が護雷狼の頭を撫でていると、

「他の遺跡でこれが動いているところはそんなに無いと思うわ。私も動いているエレベーターに乗ったのは初めてよ」

 と、感心した様子で、紫織が言った。

「へえ、そうなんだな……」

 俺は紫織に答えながら、黒井の肩に乗っているガーくんを見た。


「行きたいところは、もしかして、左へ二つ行った部屋か?」

 と、ガーくんに訊ねる。

 ――と、

「そうだ……」

 ガーくんは目を見開いて答えた。


 俺は無言でその部屋の前まで行って、

「黒井、開けろ」と言った。

 黒井は黙って手のひらをドアノブの上のセンサーに当てる。

 すると、ガチャリとロックの外れる音がした。

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