第23話 ​九戸城、暗澹たる時間

 🏯 九戸城・評定の間

​ 九戸政実の居城、九戸城。評定の間は、外の厳寒とは無縁の、煮詰まった熱気に満ちていた。南部宗家への不満を内包する九戸一族の猛者たちが居並ぶその場に、伊達氏の客将を名乗る神崎亮平は、異様な服装と**腰の異物(拳銃)**を臆することなく晒し、足を踏み入れた。

​ 上座には、南部の虎と畏怖される九戸政実が座している。その瞳は冷静さを保ちながらも、底知れぬ野心と、何か新しいものを手に入れた驕慢に満ちていた。

 ​そして、政実の両脇には、まるで巨大な門柱のように二人の男が立っていた。一人は政実の弟、実親か。そしてもう一人――。

​「ありゃ(あの人)だ」

​ 武蔵坊猛が、低い、唸るような声で政実に告げた。その視線が、神崎を射抜く。

​「俺に『未来』だのなんだの言ってきたへなちょこ(役立たず)だ」

​ 元ボクサーの猛の肉体は、この時代の武者とは根本的に構造が違って見えた。肩幅は広く、首は太く、着慣れない陣羽織の下で、全身の筋肉が圧縮されたバネのように脈打っている。その威圧感は、評定の間にいるどの武将よりも重い。

 🥊 政実と未来の拳

​ 九戸政実は、神崎の挑戦的な態度を前に、静かに口を開いた。

​「伊達の客将殿。貴殿の噂は聞いている。黄金を生み出す魔術師。そして、その横に立つ化け物は、貴殿の同胞と聞く。この**たける**の力は、まこと常人の比ではない。これをどう評価する」

​ 政実の問いは、神崎の**「魔弾」と猛の「超人的な肉体」**、どちらが価値があるのかを測るものだった。

​ 神崎は一歩前に進み出た。腰の拳銃が、薄暗い部屋の光を鈍く反射する。

​「政実殿。猛の力は、この戦国時代においては、十万石の領地に匹敵する価値がある。疲労を知らない最強の兵、そして最高の防御壁だ」

​ 神崎は、あえて政実の欲望を刺激した上で、言葉に冷たい釘を打ち込んだ。

​「しかし、彼は制御不能だ。俺には、その制御の方法がわかる」

​ その言葉に、猛がわずかに喉を鳴らしたが、政実が視線で制した。

​「貴殿の目的は、弟の実親を差し置いて宗家を継いだ南部信直への不満にあると聞く。猛の力は、その家督争いに勝利をもたらすかもしれない。だが、猛の力は、戦を長引かせ、混乱を呼ぶ。貴殿は、その混乱に耐えられるか」

​ 政実の瞳が、一瞬、鋭く光った。神崎は、政実の最も秘したる野心と弱点を突いたのだ。

​「貴殿は、わしと信直との対立を理解しているようだな。ならば問う。この猛という未来の異物を、わしは手放すべきか」

​「猛は、確かに強い。しかし、彼の体力と回復力は、無限ではない。彼は、戦うたびに空腹と精神的な疲弊を抱える。そして、彼の未来の知識は、俺の知識と対立する」

​ 神崎は、政実に優位性を説くのではなく、歴史の大きな流れを見せた。

​「猛を手放す必要はない。だが、彼の力は南部の内輪揉めに使うべきではない。真にその力を試すのは、天下人が奥州に来た時だ。その時まで、猛を最強の切り札として温存すべきだ」

 💥 猛の殺気

​ 神崎の言葉は、まるで政実の首筋に冷たい刀を突きつけるかのようだった。しかし、その時、脇で聞いていた武蔵坊猛の衝動が限界を超えた。

​「うるせぇ!」

​ 猛は唸り声を上げ、評定の間の静寂を打ち破った。岩手出身の元ボクサーの迫力ある声が、部屋の空気を震わせた。

​「俺の腹は、今空いてんだ! おめぇの理屈なんぞ、どーでもいい!」

 ​武蔵坊猛は、その巨体から殺気を放ちながら、衝動的に神崎に詰め寄った。その圧倒的な質量と、ボクサーとして鍛え抜かれた瞬発力。もし彼が拳を振るえば、神崎の命は一瞬で潰えるだろう。周囲の武将たちさえも、その獣のような力に息を呑み、動けなくなった。

 🦁 虎の決断

​ 二人の未来人が、戦国の評定の間で対峙する。その間に、南部の虎、九戸政実が静かに割り込んだ。

​「よかろう、神崎殿」

​ 政実の声は落ち着いていたが、その瞳は猛の力と神崎の知略、二つの未来の異物を手に入れたという傲慢な野心に満ちていた。

​「貴殿の進言は心に留めておこう。だが、この猛はわしの牙だ。わしが望む時に、好きに戦わせる」

​ 政実は、神崎を丁重に帰らせることで、伊達氏との関係を保った。しかし、神崎にははっきりとわかっていた。政実は、南部信直との家督争いに、武蔵坊猛の制御不能な力を全力で投入する道を選んだのだ。

​ 神崎は、九戸城を後にしながら、この新たな脅威を伊達政宗の元へ持ち帰り、対抗策を練る必要性を強く感じた。

 💡 次なる一手

​ 神崎が考えた3つの対抗策のうち、ご要望いただいたのは【① 梵天丸(伊達政宗)の元へ戻り、武蔵坊猛という「生体兵器」への対抗策を練りつつ、政宗への指導を開始する】です。

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