魁!断筆姉さん!!
西洋司
00 プロローグ
「それではいきますよ! 英子さんっ、……。覚悟を決めましたか?」
「はいっ!」
大藪英子(おおやぶ・えいこ)は斎木茂吉(さいき・もきち)のその言葉に、生唾を飲みながらひとつ返事をして頷いた。
それをこちらの了承と見たのか、斎木はゆっくりと、その不自然に深くぽっかりと空いた社(やしろ)の中に車両を進めていった。
2人を乗せた自衛隊仕様の深緑色のパジェロが、霞が関の外れにある神社から暗いゲートを抜けていく。
しばらく進んでいくと遠くの方に白い点のような光が見え、更に進んでいくと眩い光となって目を襲ってくる。
すると、先ほどまで現代日本のコンクリートジャングルの最中だったのに、そこは遠くの方まで見渡せる、見晴らしのいい渓谷だった。
「斎木さんっ!? 車を止めて下さい!」
「はい。どうされましたか?」
「蝶です。私、あんなにきれいなもの、見たことありません!」
「えぇ、いいですよ。でも、あまり遠くまでいかないで下さいね。ここは、先日ゴブリンの群れが発生したと報告を受けておりますので、……」
「はいっ!」
英子は車を降り、異世界の渓谷を散策中、次々と現れる珍しい羽根の蝶を追いかける。
すると、突然蝶に手を伸ばしたそのすぐ先に、矢がシュッと飛び込んできた。
「うわっ!?」
「英子さんっ、車ぁ飛ばしますよっ! この手に掴まって!」
斎木の伸ばす手にしがみ付くと、英子はそのまま勢いよく助手席に飛び乗った。
その瞬間、パジェロは猛スピードで渓谷を飛ばしていく。
「ひえぇぇっ!? 一体何々ですかっ! あれっ!?」
「ゴブリンライダーの群れに遭遇しましたっ! 奴らは獰猛だ。捕まったら、全身の皮を剝がされてしまいますよ!」
斎木の運転する車は、オムラ渓谷(バルディ男爵の領地)を抜けてボルツ原野に入ると、土煙を上げながら全速力で群れを引き離していく。
ここは戦後間もないヤムント国。いわゆる異世界に英子は転移(ジャンプ)してしまったのだが、……。もう後には引き返せないと、英子は目の前の光景を見極めて、唇をギュッと噛んだ。
* *
1年ぶりの新作です。
プロットどおりに進行すれば、全31話の各話4分割で、124回前後の投稿となります。
とにかく、執筆頑張ります! 応援して頂けると嬉しいです!
* *
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