第4話



うちのばあちゃんは、辛いものがまったく食べられない。

七味は“一振り”で火事、わさびは“気配”で涙、担々麺は“看板を見ただけ”で胃薬を探す。


なのに──なぜか、よくキムチを買ってくる。


理由を聞いてみると、

「発酵食品は身体にいいってテレビで言ってた」

らしい。


でも、買ってきたところで普通には食べられない。

辛いから。


そこでばあちゃんが始めたのが、

“キムチ水洗い式”。


夕飯前、台所からシャーッと水音がするので覗いてみたら、

ばあちゃんがキムチをボウルに入れて、念入りにすすいでいた。


赤いタレは全部流れて、ほぼ白い白菜になっている。


「ばあちゃん、それ…キムチの意味ある?」

と聞くと、

「大事なのは“発酵”のとこなのよ!」

と胸を張る。


そのあと、洗いすぎて味がほぼ無になったキムチ(?)をポリポリ食べながら、

「これはこれで美味しい」

と言っていた。


ちなみに、次の週も同じキムチを買ってきて、同じように洗っていた。


……辛いの苦手なら、最初から浅漬け買ったらいいのに。


でもたぶん、一度“身体にいい”と聞いたら、

どんな手を使ってでも摂取しようとするばあちゃんの、

その頑固でちょっとズレたところが、僕はわりと好きだ。

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