第4話
うちのばあちゃんは、辛いものがまったく食べられない。
七味は“一振り”で火事、わさびは“気配”で涙、担々麺は“看板を見ただけ”で胃薬を探す。
なのに──なぜか、よくキムチを買ってくる。
理由を聞いてみると、
「発酵食品は身体にいいってテレビで言ってた」
らしい。
でも、買ってきたところで普通には食べられない。
辛いから。
そこでばあちゃんが始めたのが、
“キムチ水洗い式”。
夕飯前、台所からシャーッと水音がするので覗いてみたら、
ばあちゃんがキムチをボウルに入れて、念入りにすすいでいた。
赤いタレは全部流れて、ほぼ白い白菜になっている。
「ばあちゃん、それ…キムチの意味ある?」
と聞くと、
「大事なのは“発酵”のとこなのよ!」
と胸を張る。
そのあと、洗いすぎて味がほぼ無になったキムチ(?)をポリポリ食べながら、
「これはこれで美味しい」
と言っていた。
ちなみに、次の週も同じキムチを買ってきて、同じように洗っていた。
……辛いの苦手なら、最初から浅漬け買ったらいいのに。
でもたぶん、一度“身体にいい”と聞いたら、
どんな手を使ってでも摂取しようとするばあちゃんの、
その頑固でちょっとズレたところが、僕はわりと好きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます