元・勇者。現職・家政夫(勤務地・魔王城)
月島りょう
第1話 虚ろな勇者、魔王と対峙する
喧嘩をするのが嫌いだった。
誰かと言い争ったり、殴り合いになるくらいならと相手の言い分は全て受け入れて生きてきた。
血を見るのが嫌いだった。
農村で生まれ育った身ながら、鶏を締めたり、牛や豚を屠殺するのも酷く抵抗があった。
戦うのが嫌いだった。
誰かを傷つけてまで勝利を得ることに理由があるのだろうかと何度も何度も自分に問いかけた。
嫌いなことはたくさんあったけど、好きなものももちろんあった。
料理とか、洗濯とか、掃除とか……畑で野菜を育てたりとか。のんびりとした生活が大好きだったから、農村での暮らしはこの上なく向いていると思っていた。
けれど、のんびりとした生活は成人の時に奪われた。
十八歳の成人になると同時に受ける神託。神託を受ける人物の生まれ持った才能や適性、天職がどういうからくりかは分からないけれど神官から告げられる。
告げられる才能や職業に疑いを持つ人は誰もいない。
自分もそうだった。
──適性が勇者と告げられるまでは。
何をどう間違って勇者だなんて神託が降りたんだろう。
絶対に間違っている。人違いだ。
そう思っていた。心の底から思っていたけど。悲しいほどに自分の身体能力は「勇者」と呼ばれるに足るものだった。
あれよあれよと国王陛下の御前に連れて行かれ、選りすぐりだと言われた仲間を宛てがわれた。
世界の中心地に居城を据えている魔王を討伐して、魔物の侵攻を止めるようにと王命が下された。
そんなことはやりたくなかった。
やりたくなかったから、やらなかった。
そんなことをしていたら、勇者の資格なしと王国を放り出された。
でも、心は解放されていた。
役目を放棄して、王国からも追放されて、あてもなくさまよった。
王国を放り出されたことで故郷にも帰れなくなった。帰るあてもなくなった。帰ったところで、居場所なんてなくなっているだろう。
幸いなのは、親兄弟のない天涯孤独の身であること。成人を迎える前に両親は事故と病で没した。村で石を投げられる生活を送らせなくてよかった。
……村の外れにある墓標はひどく汚されたりしてしまうかもしれないけれど。
疲れた。
疲弊した心が求めたのは、終わりだった。
そんな心持ちであったから、魔物たちの総本山である魔王城に足が向くのは自然なことだったかもしれない。
今までの戦いの中で積もり積もっていたであろう魔物たちの恨みを受けて終わろうと思った。
彼らの王である魔王に虫けらのように殺されて、終わろう。
そう思っていたのに。
「──それで?追放された勇者が何をしに来た」
「……その前に、片付けしていいですか……」
少女の姿をした魔王を前にして口をついて出た言葉は、それだけだった。
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