Chapter1:新米錬金術師の冒険
Chapter1-1:ポンコツ錬金術師
エリス先生の誕生日祝い
師匠の「虹の欠片」を眺めていると、アトリエの扉がノックされた。
「はーい!開いてますー!」
そう答えると扉が開き、優しい声が聞こえる。
「メリィちゃんお誕生日おめでとう!」
「エリス先生!」
エリス先生は私の錬金術の先生だ。
師匠がいなくなってからはずっと私を妹みたいに可愛がってくれる素敵な人。
「ふふ、やっぱりもう師匠の部屋を開けたのね?」
「はい!」
「ずっと楽しみにしていたものね。それで……それは?」
エリス先生の視線が「虹の欠片」に向く。
キラキラ光っていて綺麗なそれはどんどんと色を変えていっている。
「やっぱりエリス先生も見たことないんだ……師匠の部屋を開けたらこれがあって。
師匠は『どうか、君に託したい』って……
でも、色んな軸が見えて全然わからないんだ……」
私は、師匠の手紙をエリス先生にも見せる。
先生は「なるほどねえ」と頷いてから、
「それで、メリィちゃんはどうするつもりなの?」
と聞いてきた。
それはもちろん、
「師匠が託してくれたんです!絶対この虹の欠片の謎を解き明かしますよ!
それに、解き明かせば師匠が戻ってくるんじゃないかって、何となくそんな気がして」
でも、エリス先生はちょっと困った顔をした。
「でもねえ、メリィちゃん」
エリス先生の目が厳しくなる。あ、これ……
「錬金術の腕はポンコツじゃないの」
うっ!!
「そ、それは……」
そう、私には錬金術の才能が全然ない。
素材の軸選びのセンスが全然ないみたいで、しょっちゅう変なものが出来るし(この間なんて石に足が生えてどっかに行っちゃった!)
エリス先生に教わっても全然上達しないし、最近は半分諦めていた。でも……
「どうしても師匠のそれを解き明かしたいのね?」
エリス先生が私の顔を覗き込む。
「はい……!どんなに時間がかかってもいいから、知りたい」
「メリィちゃんは師匠のことが大好きだものね。
うん、それならこうしましょう」
エリス先生が腕まくりする。みっちり教え込もうとする時の先生の癖だ……
「基礎からきっっっちりやり直しましょう!」
「う……でも、エリス先生の言う通りかも」
「メリィちゃん、絵を描くの上手だったわよね?
まずは素材の図鑑を作ってみたらどうかしら?
師匠の残したそのアイテムのことも、身近な素材を知っていけば少しずつ分かるかもしれないわ」
確かにそうだ。
スケッチなら得意だし、錬金術に使う素材を図鑑にして書き留めていけば……!
「ふふ、やる気が出てきたみたいね。
それじゃあ、メリィちゃんのやる気をもっと上げてあげる。メリィちゃんは冒険者にも憧れているでしょう?」
そういってエリス先生はペンを取り出し、紙に何かを書き始める。
暫くして、エリス先生が「はいどうぞ」と紙を手渡してくれた。
そこには……
―――
クエスト名:〈お庭の素材図鑑作り〉
依頼主:〈エリス〉
難易度:★
【目的】
・お庭とアトリエにある錬金術に使える素材を4種類、図鑑に書いてみること
【報酬】
・パティスリー・ファルルのフルーツパフェ
【備考】
・〈先生からのコメント〉まずは基礎の基礎から!
―――
「わあ、凄い!本物のクエスト依頼書みたい!
それに……報酬、パティスリー・ファルルのフルーツパフェ!?
先生、本当に良いの!?」
「ちゃんとクエスト達成できたらね?」
「わーい!
先生!頑張ってきます!」
「はい、いってらっしゃーい……
本当はお誕生日プレゼントにごちそうしようとしてたんだけどね。
やる気が出たようで何よりだわ。
メリィちゃんは才能はあるけど……ありすぎて視えすぎてるみたいだから、基礎からやるのが一番だわ」
◇◆◇◆◇
「うーん、庭とアトリエの素材4種類か……」
そういってメリィは庭を見回す。
「うん、まずはこれかなあ……それとこっちのちゃんと育ててる方」
地面に生えている雑草と、きちんと整えて栽培されている淡い青い花の二つをスケッチし始める。
「図鑑だから、軸の要素もちゃんと書かないとだよね……ええと植物軸と……」
この世界の錬金術は「軸」とその「値」の操作の技術を意味する。
軸とは、その素材の要素の方向性で、値はその要素がどれくらい強いかを表す。
錬金術師には素材の個体毎にも微妙にブレがある軸と値を見極める目がまず重要なのである。
例えば、メリィの「スイーツ大好き軸」の値は「100」というように。
また、個体差で言えば、枯れかけている草は植物の軸も生命の軸も値が減っている。
質のいい薬草であれば薬効の軸の値は高い、というように。
メリィは花を眺めながら図鑑に、
「青い花。薬効軸が強い。香りが少し冷たい。
触れると、指先だけひんやりする」
と書き留める。
「これ……師匠と植えたんだよね」
メリィの胸が一瞬キュッとなる。しかしすぐに立ち上がる。
「次は、この水!うんしょ…うんしょ…」
メリィは井戸水をくみ上げてその水をスケッチする。
「最後にもう一個、確かアトリエに……」
メリィはアトリエの中に入り、棚からオレンジ色を帯びた鉱石を取り出す。
夢中でスケッチをした後、素材を手に取り見極めていく。
「よし!これでエリス先生に見せに行ってみよう!
ちょっと自信は……ないけど、クエストクリアしたらパフェ!」
目をハートにしたメリィは図鑑にすると決めた分厚いノートを抱え、駆け出していくのだった。
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