第七話 悩み事
目が覚めると、俺はベッドにいた。
周りを見てみると、椅子に座り、額に手を当てているエルフのお姉さんと、ルナがいた。
目が覚めた俺に気づいたルナは、嬉しそうな顔をした。
「起きた!」
ルナの大声を聞くと、エルフのお姉さんがこちらへ急いで駆け寄ってくる。
彼女は俺の片手を両手で強く握りしめ、少し涙目になっていた。
「良かった。本当に良かった……。私のせいで死なせたかと……」
「危なかったんだよ! アリスさんは、ルイが帰りが遅いことを心配して、私に向かうように言ってくれたのよ」
――アリスさん……?ああ、エルフのお姉さんの名前か。
とにかく、ルナとアリスには感謝だ。
俺は二人に礼を伝えた。
続けて、アリスとの約束を思い出し、グーを作ってアリスの顔の方へ向けた。
「約束……守りましたよ」
アリスは涙を浮かべながらも、緊張が解けたように優しく微笑む。
「そのようですね」
しかし、すぐに暗い顔に戻り、勢いよく頭を下げた。
「申し訳ございませんでした!」
「何が?」
謝られる心当たりのない俺は、少し戸惑う。
アリスは説明する。
「ルナの話によると、魔力の跡は“上難易度級”の討伐依頼だったそうです」
いや、頭を上げてください! 違うんです。あれは俺の魔力なんです。って言いたいけど言えない...!
アリスは後ろから巾着袋を持ってきて、俺に差し出した。
ずしりと重い。
「これ、上級難易度分の料金と謝罪料が入っています。お受け取りください」
罪悪感に駆られここで俺が断るのは違うよな。
謝罪の気持ちを無下にしたくないし、受け取らなければ、罪悪感を残してしまう。
それに……受け取った金で飲みにでも誘えばいいだけだ。
俺は巾着袋を受け取った。
……重い!
金貨が5枚は入ってるだろこれ。
高級店にも行けるな。
そう考えていると、ルナが口を開く。
「ルイの体ってどうなってるの?」
「どうなってるって……?」
「さっき、ルイにヒール使ったんだけど、全然治らなかったの。薬草で治ったから良かったけど」
なるほど。
薬草は人族でも魔物でもないから、魔のエネルギーを持つ俺にも効くのか。
サッと考え、もっともらしい理由を口にする。
「多分、その場にあった大量の“魔のエネルギー”が、ヒールを邪魔したんじゃないかな?」
ルナは「うん?」と少し首を傾げたが、最終的には納得してくれた。
それにしても、この状態で会話を続けるとボロが出そうだ。
早く宿に戻りたい。
体は見た感じ、全部治ってるから大丈夫だろう。
俺はアリスに帰る旨を伝えると、体のことを心配されたが、ルナが付き添いで連れて帰ってくれた。
ギルドを出ると、明け方になっていた。
夜と朝の境界が、ゆっくりと街を染めていく。
鳥の囀り、屋台の準備の音が聞こえてきた。
「俺、ルナに助けられてばっかだな。悪い」
「全然大丈夫だよ。ほら、言ったじゃん。全部私のためなんだよ」
ルナは何か思い出しているような目をした。
「ね」
「なんだ?」
「ルイって……何者?」
な、何者ってどういうこと!?
魔物の魔力を使ってるのバレたのか?
ルナは、俺が戸惑っているのに気づいたのか、続けた。
「最初見た時は、銀貨一枚落とすようなおっちょこちょいの人だと思ったの。でもギフトマジック持ってたり、上級の討伐依頼をこなしたり……すごい人だなって。私にとってルイは、不思議な人なんだよね」
……まあ、確かに。
ギルドにいきなり現れた新参者が、普通できないことをやってるわけだから、変に思われるのも当然か。
ここはカッコよく漢らしく主人公らしく言おう。
「俺は、この世界を謳歌する者だよ」
「何それ? 抽象的すぎて意味わかんなーい」
ルナは声を出して笑った。
その笑いにつられて、俺も笑った。
笑い終わって深呼吸し、ルナが口を開く。
「実は私もギフトマジック持っててさ。『逃げる者』っていうの」
「そうなんだ。」
「でもね、私にとっては邪魔なの。逃げる時に逃げやすくなるだけで、“敵を倒す力”じゃない。でもギフトマジック持ちってだけで、戦闘系と一括りにされて期待されるの」
悔しさと悲しさを混ぜた表情で、拳を強く握りしめる。
彼女には彼女の悩みがあるんだな。
「分かる」
「ルイにもそんな悩みが?」
「あった、って言う方が正しいかな」
「そうなんだ。」
前世を思い出す。
大学に出た俺に対しての親や親戚の期待、でも実際は中身が伴っていなかった自分。
履歴書に書く特技もない。
面接に嗅ぎつけたとしても上手く喋れず落ちる。
大学という肩書きだけの空っぽの人間だった。
そんな人生を送ってきた俺だから言える言葉。
「ルナは、もっと自分に寄り添ってやれよ」
「え?」
「期待に応えようとしても、限界ってあるだろ。限界超えた期待なんて、いつまで経っても満たせない。このままだと、自分が苦しくなるだけだ。だからさ、全部投げ出してみろ。案外スッキリするもんだぜ」
ルナは立ち止まった。
顔は見えないが、下にポロポロ落ちる涙で分かった。
「ごめん、みっともないよね」
涙でぐちゃぐちゃの顔を拭いながら言う。
「そんな事ないよ」
「私、ルイに話して良かったって思った。今日はありがとう。もう1人で行けるから……私、行くね」
半ば早口で話して走り去っていった。
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