異世界詐欺師〜聖女や勇者に化けて悪徳貴族を騙して奪ってざまぁみろ〜
すずと
第1話 違法賭博。地下闘技場で荒稼ぎしようとする悪徳貴族に神の鉄槌を
地下闘技場で対立する黒い髪の男と恰幅の良い男。
黒い髪の男の名はトマ。恰幅の良い男の名はマカオ。どちらもどこかの誰かの貴族の奴隷である。
ここは奴隷達をどちらかが死ぬまで戦わせ、どちらが生き残るかを賭ける違法の賭博場。
地下闘技場のVIPルームには、金と血の匂いに酔った貴族たちで埋め尽くされている。
「さぁ諸君。今宵も運命の一戦だ。勝つのはどちらか賭けようではないか」
VIPルームに賭け札が飛び交う。
ワインを片手に笑うのは、悪名高いバルド伯爵。重税で民を苦しめ、その金をこんな見世物に注ぎ込む最低の男だ。所謂悪徳貴族というやつである。そんな男に集まる連中もまた同じような悪徳貴族達。
がっはっはっと下衆な笑い声の中、バルド伯爵の隣に立つ白衣の女はどこか異質であった。
ミディアムのブロンズヘア。純白のローブ。金糸の刺繍。そして涼しい笑み。
彼女の名はリリア。通称、未来を視る聖女。
「バルド様。次の勝者を知りたいですか?」
金貨の音が鳴り響く中、リリアはこっそりとバルドに耳打ちをしてみせた。
バルドは目を細める。
「言ってみよ、リリア。貴様の奇跡とやらを我に見せてみろ」
リリアはゆっくりと目を閉じ、両手を組んだ。
「……見えました」
リリアがゆっくりと瞼を開く。まるで、なにもかも見透かしたような顔付で端的に言ってのけた。
「トマの勝ちデース」
「ふむ。ではトマに賭けよう。しかし、はずした場合はわかっておるな?」
それは、その未来をはずした場合、彼女に未来はないことを意味している。
「さぁ。ただ、私の見える未来には、私の姿がはっきりと見えております」
「ほほぅ。大した自信だ」
バルドは感心した声を出しながらトマに莫大な金を賭けた。
──数分後。
「ぐああああああ!!」
トマの目にも見えぬ攻撃により、マカオは血まみれになって倒れてしまった。
わああああああ──!!
観客席からは、地下闘技場が揺れるほどの歓声が鳴り響いた。
金貨の山がバルドの前に積まれる。
バルドの顔はにやりと緩んでいた。
「リリア。次だ。次はどうなる!?」
興奮して瞳孔が開いたバルドは、リリアに詰め寄るように言ってのける。そんな感じで詰め寄られても、リリアは依然として涼しい笑みをやめなかった。
彼女は胸に手を当て、再度見透かしたような顔をして端的に答えた。
「セリーヌの勝ちデース」
「セリーヌ?」
まだ闘技場のリングにはトマしか立っていないにも関わらず、勝者を予想するリリアに首を傾げるバルド。
「いや!! いやだ!! 戦いたくなんてありません!! 死にたくない!! やだ!! 助けて!! 誰かああああああ!!」
不審に思っているところに、トマとは反対方向から強引に連れられてリングに立たされるプラチナの髪のハーフエルフの少女。
身体全身が震えており、戦意なんて感じられない。戦いになんてならないだろう。
「本当にあのハーフエルフが勝つと申すか?」
「はい」
「……ふむ」
全員がトマに賭けている。当然といえば当然。しかし、ここで自分だけがあのハーフエルフに賭ければ孫の代まで遊んで暮らせる金が手に入る。リリアには未来が見える。それは間違いない。だったらここはハーフエルフに賭けて莫大な富を築き上げよう。
そう考えてバルドは全額をハーフエルフに突っ込んだ。
他の貴族達が驚きのリアクションをしているが、バルドは自信満々の笑みでタバコをふかす。
「リリア。信じているぞ。裏切るなよ」
「……信じるも、裏切るも、なにもありません。ただその時が流れるだけ」
「詩的だな」
バルドは、自分が莫大な金が手に入るのを、ただその時がながれるのを、待っていた。
そして──。
「ぐぁああああ!!」
トマの身体から大量の血が吹き出した。一体、セリーヌはなにをしたのか。観客席からはただただ怯えて立っていただけに見えた。もしかすると想像を絶するような魔法でトマを攻撃したのだろうか。怯えていたのはフェイク。ものすごい魔法の使い手だったのかもしれない。
戦いの詳細はなんであれ、結果はトマの負け。バルドの一人勝ち。よって莫大な金貨がバルドの前にやってくる。
バルドは莫大な金をトランクに詰め込みながら野心にもえていた。
これでバルドの爵位は上がる。金の力で成り上がる。これからもリリアを利用してバルドは成り上がっていこう、と。
だが、決してそんな未来は来ない。
「王都治安隊である!! この闘技場、違法賭博により摘発する!!」
VIPルームの重い扉が破られ、銀の鎧に身を包んだ兵達が突入して来たのだ。
場内が混乱に包まれた。
貴族たちは逃げ惑い、叫び、出口へ殺到する。
「ち、ちくしょう、どこから情報が漏れたんだ!?」
今、まさにバルドが捕まろうとしたところで、リリアがバルドの前にたちはだかった。
「お逃げください、バルド様!! 神はまだ、あなたの未来を見放していません!!」
「お、おお!! いいぞ、リリア!!」
リリアはバルドを庇う。どこに隠しもっていたのか、刀を取り出して刃を治安隊に向けた。
「やめろ。やめなさい」
治安隊の言葉を無視してリリアは刀を振り回す。
「それ以上抵抗すると叩き斬るぞ!!」
「未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来未来!!」
緊迫の場において、とち狂った言葉を叫びながらリリアが刀で治安隊に斬りかかろうとした。だが、それよりも早く、治安隊がリリアを斬った。
「ぐっふぅ、ぉん!! みらぁぁぃ」
紅い血が飛ぶ。彼女はゆっくりと崩れ落ちた。
「バル、ド、様……」
血まみれになりながらも、リリアは庇った相手であるバルドの方へ顔を向ける。
「ちぃ。役立たずめがっ」
「命を張って、守った女、なのに……冷たく、ありません、か?」
リリアの思いはバルドには伝わらなかったみたいだ。
「まぁ、良い。逃げる時間程度は十分に稼いでくれたからな。その点だけは褒めてやろう」
混乱に乗じてバルドはVIPルームの隠し扉から逃げ去ろうとした。
「あぁ、バルド様。そっちに行くと、神の雷を受ける未来がぁぁぁ」
「ふん!! そんな未来、自分で変えてやるっ!!」
♢
地下闘技場の隠し通路に響く足音は一つだけ。タンタンタンと聞こえてくる足音は相当焦っている様子。
「くそぉ……こんなところで捕まるわけにはいかんのだ」
バルド伯爵には夢がある。爵位を上げ、成り上がり、自分にだけ都合の良い国を築きあげる。自分のためだけの理想郷。それを実現するまで捕まるわけにはいかない。
隠し通路の出口を抜けると希望の光がバルドを出迎えた。その光の中へとバルドは入って行く。
「どこへ行くんだ?」
出口から外に出ると、青空の下、イケメンがバルドを出迎えてくれた。
「お、お前、は!?」
先程、ハーフエルフに目にも見えない魔法で殺されたはずのトマ。致死量の出血は今も彼の身体に付着している。どうしてそんなに血まみれなのに動けるのか。なんて疑問は、焦っているバルドには興味ないみたいだ。
「ど、どけぇい!! 今はお前みたいな奴隷の相手をしている暇はない!!」
「奴隷、ね。確かに俺は奴隷かもな」
トマは複雑そうに苦い笑みをみしたあと、剣を天空にかざした。
「民を苦しめる悪徳貴族に神の鉄槌を下してやろう」
「はん!! なにが神の鉄槌だ。奴隷風情のお前になにができる!?」
トマはバルドの声を無視し、天空にかざした剣をそのまま振り下ろした。
「『雷神剣』」
晴れ渡る青空から雷がバルド目掛けて落ちてくる。
「ひぃぃぃぃ!!」
わずか数センチ差のところに落ちた雷を見て、バルドは腰を抜かしてしまった。
「いか、いかか、いかかかか!?」
「イカ? イカならゲソが好きだが?」
「雷の、ま、まほぉ……ま、まままま、まさ、か、ひぃぃ、さま、さま──」
「さぁ。神の裁きを受けよ」
リリアの言っていた未来が本物だと、この時バルドは悟ったのであった。
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