君はもう必要がない

満月 花

第1話



『いつまでも待っているから』

そうメッセージを送ると彼女は彼が来るであろう方向を

じっと見つめる。デートの時の待ち合わせの駅前の大通り。

いつも、笑顔で手を振って駆けて来てくれた。

なのに、そんな幸せな時間は突然終わりを迎えた。


大好きな彼のいきなりの別れの言葉。


『別れて欲しい』ただその一言だけ

心臓が真っ二つに切り裂かれるような痛み。


つい最近まで、笑い合って抱きしめあって

互いに無くてはならない存在だったはずなのに。


一方的なその別れ話に納得出来ずに何度もメッセージを送った。

既読はついても返信はない。

電話にも出てくれない。


もう一度会いたいと懇願、これが最後にするからメッセージを送った。


最後にもう一度ハッキリ彼の言葉が欲しい。

たとえ彼が来なくても心にケリがつけれる。


もう何時間待っただろうか、晩秋の夕暮れは寒さが沁みる。

マフラーに顎先を埋め、何とか寒さをやり過ごそうとする。

やはり来てくれないのだろうか、思わず涙がこぼれそうになるのを顔を伏せてやり過ごそうとした時


「風邪引いちゃうよ」

目の前に彼が立っていた。

促された喫茶店に入る。

久しぶりに会った彼は少しやつれて見えた。


季節の変わり目だから、体調を崩したのかも、と彼が自嘲めいて笑った。

その表情はいつもの彼に似つかわしいと思ったけど

「君は僕の人生に必要がない。だから、別れて欲しい。これが最後だというから来た」

そう告げられた。

呆然とする彼女を置いて彼は席を立つ。

カラン、とチャイムが出口で鳴った。

彼がいた席の余熱が消えていく。

心が凍えそうだった。


「君はもう俺の人生に必要ない」


いっそ、大嫌いだ、もう二度と顔を見たくないと言って欲しかった。

その中途半端な優しさが辛い

忘れられるだろうか?


未練たらしく合鍵を返す事と彼の部屋に置いていた私物を回収しようと彼の家に行けば引っ越しした後だった。

仕事も辞めていた。

……どうして?

彼女は踵を返し駆け出す。

理由がある、彼が自分の前から消えた意味が。

見つけてみせる、じゃないと終われない。


病室の規則的な電子音。

身体に繋がれた管。

病室の天井を見つめながら、彼は流石に疲弊した身体を感じていた。


しこたま怒られた。

「勝手に病院を抜け出すとは何事か、次あったら強制退院させますよ!」

めちゃくちゃ婦長怒ってたな。



手術の成功率が30%の以下の病

たとえ成功してもずっとこの病と付き合っていかないといけない。


体調不良で軽い気持ちで診察してもらった時告げられた。

しばらく入院して経過を見なくてはならない。

親に相談すると戻ってこい、良くなるまで面倒みるからと言われて

仕事も辞めてアパートも引き払った。


彼女にも別れを告げた。

エゴだと言われようが彼女を巻き込みたくない


死んでいくかもしれぬ命に寄り添って欲しいなんて全然に言いたくない。

愛してる彼女に自分を忘れて幸せになって欲しい。

そう思った。


では、生きてたら?

遠くから彼女の幸せを願う?

みっともないくらい、泣いて縋って許しを乞うかもしれない

……なんて、自分勝手な妄想に呆れてしまう。

そんな事を思いながら自嘲する。

電子音が眠りを誘う、彼はゆっくりと瞼を閉じた。

病室に静寂が満ちた。


息を切らし、リノリウムの床を掛けて来る音が近づくのは

もう少し未来の話。





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君はもう必要がない 満月 花 @aoihanastory

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