第33話 量産された勝利と泥のゴーレム
決闘当日。
学園の大闘技場は、異様な熱気に包まれていた。
観客席には全校生徒の半分近くが詰めかけている。
「聞いたか? 1年の『古代遺物研究会』が、3年の『錬金術研究会』に喧嘩売られたらしいぜ」
「しかも賭け金は『退学』だってよ。狂ってるな」
どよめく観衆。その中には、興味津々のカイルや、不機嫌そうなエリスの姿もあった。
フィールドの中央には、審判を務めるギデオン先生が立っている。
「これより、錬金術研究会と古代遺物研究会による決闘を行う!
ルールは3対3の殲滅戦。相手の降参、または戦闘不能で決着とする!」
対戦相手側には、バロンとその取り巻き2名が並んでいた。
彼らの背後には、巨大な人影が二つ。
【Target Analysis】
Name: バロン (Baron)
Job: エンチャンター (Enchanter) (Lv.35)
Servant: アイアン・ゴーレム (Iron Golem) × 2
鉄製のゴーレムだ。
身長3メートル。分厚い装甲に覆われ、鈍い輝きを放っている。
バロンは自信満々に腕を組んでいる。
「ククク……1年坊主共が。俺様の最高傑作『鉄巨人(アイアン・タイタン)』の前にひれ伏せ!」
対する俺たちは、リラックスした様子で立っていた。
俺(指揮)、フェル(前衛)、レイラ(遊撃)。
シアは観客席で待機だ。今回は「アイテムの質」を見せつける戦いだからな。
「始め!」
ギデオンの合図と同時に、バロンが杖を振るった。
「行けぇ! アイアン・タイタン! 雑魚どもを磨り潰せ!」
ズシ……ズシ……。
2体のゴーレムが前進を始める。
遅い。だが、圧倒的な質量と防御力がある。魔法攻撃も物理攻撃も、生半可な威力では通じないだろう。
「フェル、正面から行けるか?」
「無理! あんな鉄の塊、殴ったら爪が折れる!」
フェルが即答する。野生の勘は正しい。
レイラの氷魔法も、あの装甲厚では表面を冷やす程度だ。
「だろうな。だから――これを使う」
俺は懐から、数本のガラス瓶を取り出した。
中には、ドロリとした褐色の液体が入っている。
「レイラ、フェル。キャッチボールの時間だ」
俺は二人に瓶を投げ渡した。
そして、自分も一本を構える。
「な、なんだそれは!? ポーションか? 回復しても無駄だぞ!」
バロンが嘲笑う。
俺はニヤリと笑い、瓶をゴーレムの足元に投擲した。
【Aux Skill】
[投擲(30%)] ……発動。
ヒュンッ!
正確無比な投擲。
瓶はゴーレムの関節部分に直撃し、パリーンと砕け散った。
ジュワァァァァ……!
中身が飛散し、白い煙が上がる。
液体がかかった部分の鉄装甲が、見る見るうちに茶色く変色し、ボロボロと崩れ落ちていく。
「な、何だァ!? 俺の鉄巨人が!?」
バロンが悲鳴を上げる。
これはただの酸ではない。
『携帯型・融合装置』で生成した、対金属特化の溶解液だ。
【Item Info】
名称: 酸化の劇薬 (Rust Potion)
効果:
金属腐食(強)
物理防御力ダウン(大)
解説: 『スライムの溶解液』と『錆びた鉄屑』を濃縮・還元した劇薬。金属製のゴーレムや武具に対して特効を持つ。
「続けて投げろ!」
俺の号令で、レイラとフェルも次々と瓶を投げつける。
足首、膝、肩。
関節部分を重点的に狙われたゴーレムは、支えを失い、自重に耐えきれずに崩れ落ちた。
ズドォォォン!!
二体の鉄巨人が、ただの鉄屑の山に変わる。
会場が静まり返る。
誰もが予想しなかった、一方的な蹂躙劇。
「……な、な……嘘だ……俺の最高傑作が……!」
バロンが腰を抜かす。
俺はゆっくりと彼に歩み寄った。
「エンチャンターなら知っているはずだ。
『素材の相性』と『弱点属性』。それを突けば、どんな堅牢な鎧も紙切れ同然になるとな」
俺は懐から、もう一本の瓶を取り出した。
今度は真っ赤な液体が入っている。
「ひっ……! く、来るな! 降参だ! 降参する!」
バロンが涙目で叫ぶ。
俺は足を止め、ギデオンの方を見た。
「勝負あり! 勝者、古代遺物研究会!」
高らかな宣言。
わあっと歓声が上がる。
俺は手にした瓶を軽く放り投げ、キャッチした。
「……つまらないな。もっと『研究』の成果を見せたかったんだが」
俺は振り返り、仲間たちに小さく手を上げて合図した。
フェルが飛びついてきそうなのをレイラが制止している。
これで、部室の利用権は安泰だ。
さらに、「謎のアイテムを使う危険な集団」という噂が広まれば、無用な手出しも減るだろう。
試合後。
観客席から見ていたカイルが、興奮気味に駆け寄ってきた。
「すげぇなアルス! あの薬、何なんだ? 俺の剣にも塗れるか?」
「やめておけ。剣が錆びて使い物にならなくなるぞ」
エリスも近寄ってくる。
「……ふん。アイテムに頼るなんて、相変わらず邪道ですわね。でも、効果的でしたわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
俺たちが談笑していると、一人の女子生徒が控えめに近づいてきた。
丸眼鏡に三つ編み、地味なローブ姿。
どこかシアに似た雰囲気を持つ少女だ。
「あ、あの……! アルス・ブラッドベリーさん……ですよね?」
「そうだが?」
「わ、私……『錬金術研究会』の1年なんですけど……バロン先輩のやり方にはついていけなくて……」
彼女はモジモジしながら、意を決したように顔を上げた。
「あ、貴方の研究会に……移籍させていただけませんか!? 私、素材の鑑定と調合には自信があります!」
【Target Analysis】
Name: ミラ (Mira)
Job: エンチャンター (Enchanter)
Traits: [細工師] Lv.2
彼女もまた『エンチャンター』だが、バロンのようにゴーレム操作ではなく、ポーション等の「液体調合」に特化したスキル構成のようだ。
生産職の貴重な人材だ。
俺のパーティーにはいないタイプだ。
「……歓迎するよ。うちは実力主義だ。使えるなら誰でも入れる」
俺が手を差し出すと、ミラは嬉しそうにその手を握った。
こうして、俺たちの『古代遺物研究会』に、新たな生産メンバーが加わった。
拠点は拡張され、人員も増えた。
次は、この生産体制を使って、更なる「資金稼ぎ」と「装備強化」を進めるフェーズだ。
【Current Status】
Name: アルス・ブラッドベリー
Level: 32
Job: ブラッドロード / [偽装: バトルメイジ]
Funds: 16,200 Rhm -> 116,200 Rhm (賭け金+配当)
Organization: 古代遺物研究会 (Member: 5)
New Member: ミラ (Enchanter/Potions)
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