第13話 赤いスカート

月に一度、ミウとリウは町に買い物に出かけることにしている。一カ月の間に、必要なものはきちんとメモして、何をどれだけ買うのかも相談して決めている。


昨年ミウのために買ったネックレスは相談なしに買ったものだが、ミウはとても嬉しかったようで、ずっと身に着けている。ミウの胸元でキラリと光る自分の瞳の色と同じ青いガラスを見ては、リウも嬉しそうな顔をする。


今日の買い物は、日用品の他に、二人の服を買うことが最重要課題であり、二人はズボンを何枚だとか、シャツは何色が良いだとか相談して決めていた。


先月は小さな荷車を買った。だから二人はたくさん積めると大張り切りで、売り物になるものをたくさん用意した。


「ミウ、売り物はこれで全部かな?」


「うん、リンゴ一籠に、オレンジは二籠、干し肉は一箱に、燻製肉は三箱・・・で合ってるよね。」


「ああ、それで全部だな。さあ、乗って乗って。」

点検が終わったミウは御者台に乗っているリウの横にちょこんと座る。


先月は、馬一頭に二人乗りをして行った。リウが手綱を握り、ミウはリウの後ろに乗って、落ちないように腰に手を回してぎゅっと掴んでいた。


しかし、先月の帰り道から、もうそれはなくなった。リウは、自分からは触れなくても、馬に乗る時だけは、ミウがぎゅっとしてくれることが嬉しかったのに、できなくなってしまったことに寂しさを覚えたが、少しほっとしている自分がいるのもわかっていた。


御者台でリウの隣に座っているミウを見ると、なんとなく元気がない。馬の鞍に乗るよりもこっちの方がよっぽど楽なのに、何故か寂しそうな顔をしている。もしかして、自分と同じ気持ちでいるのかな・・・? ふとそんなことを思ってしまった。


最近、ミウは寂しそうな顔をすることが増えた。今日こそは、買い物が終わってから聞いてみようとリウは思った。




町に着くと、いつもの八百屋のおばあさんにリンゴとオレンジを売り、肉屋に行って干し肉と燻製肉を売る。今回は売る量が多かったので、いつもよりもたくさん儲かった。


馬宿に馬と荷車を預けると、今日の買い物が始まる。まず少なくなったマッチや紙などの生活用品、次に調味料や森でとれない食材、そして、最後は今回一番楽しみにしていた服屋に向かった。


一般庶民が着る服を扱っている店だから、どれも安くて品数が豊富。と言っても、買うのはズボンとシャツと下着だけなのだが・・・。


二人がシャツとズボンを選んでいると、ハンガーに掛けられているふんわりとした白いブラウスと小さな花柄の刺繍の入った赤いスカートが目に入った。


リウがそっとミウを見てみると、ミウはそのスカートをじっと見ていたが、すぐに首を振って視線を目の前のシャツに移した。


「ミウ、あのスカートとブラウスも買おうよ。」


「えっ、スカートなんてはかないし、もったいないよ。」


「今日はたくさん儲かったから、僕からのプレゼントだと思って受け取ってよ。」


「でも・・・」


「ちょっと待ってね。」

リウはハンガーごと服を手にすると、ミウの肩に合わせた。


「ほら、大きさもちょうどいい。よく似合ってるよ。よし、じゃあ、これも買おう!」


結局、リウはほぼ強引であったが、ブラウスとスカートの代金も一緒に支払った。


「せっかくだから、着て帰る?」


「ええっ? でも・・・」


二人の会話を聞いていた店員が、「それなら試着室で着替えたら良いですよ。さあ、どうぞこちらへ。」と案内してくれた。服をたくさん買ったからか、店員の機嫌はとても良い。


リウが試着室のカーテンの前で待っていると、カーテンがサッと開き、ふんわりした白いブラウスと刺繍の入った赤いスカート姿のミウが表れた。


「うん、とっても良く似合ってる。ミウ、すっごく可愛いよ。」


「えっ・・・そ、そうかな?」

ミウは照れて、指で頬をかく。


そのしぐさも、リウにはとても可愛く見えるのだが、ミウの照れた顔は人間と違って顔がぽっと青くなる。


「あっ・・」

慌ててリウはカーテンを閉じた。


「ミウ、ローブを着て、フードを深く被るんだよ。」

店員に聞こえないように小声で囁いた。


「う、うん・・・」


二人は店を出たのだが、せっかく可愛い服を着ているのに、結局店に来たときと同じようにローブをまとい、フードを深く被って出ていく二人を見て、店員は少し不思議そうな顔をした。




馬車が町を抜け、農村を抜けたところで、ミウはローブを脱いだ。でも、まだ人に見られるかもしれないと思うと、人間の姿を解くことはできない。


白いブラウスの胸元には、昨年買ってもらったネックレスの花の形のペンダントトップが光に反射してキラリと光っている。光っているのはリウの瞳と同じ色の青いガラス。


「リウ、今日はありがとう。もったいないって言ったけど、本当は嬉しかった。」


「ミウが喜んでくれて良かった。」

その言葉を聞いて、リウもとっても嬉しくなる。


リウは、どうしようか少し迷っていたが、あのことを今ここで聞いてみようと思った。


「ねえ、ミウ。最近、寂しそうな顔をしているように思うんだけど、何かあった?」


「えっ?」


馬の手綱を握りながら、隣に座るミウの顔をじっと見ているリウを、ミウは驚いたような顔で見つめた。


「何かあったのなら、言ってほしいんだ。僕でできることならなんだってするから・・・。」


「・・・」

ぱっとリウから目をそらし、だんまりとうつむいているミウの顔が、ぽっと青くなる。


「言ってくれないと、わからないよ。」


「・・・あの・・・、ずっと前から・・・」

ミウが珍しく、言葉を詰まらせる。


「ずっと前から?」


「ずっと前から・・・ 愛情表現・・・ してくれなくなったから・・・。」


リウの心臓が、ドキンッと跳ねた。

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