提琴《バイオリン》たち
sim
† 予兆
うまれていちどもおおやけにうたったことのないメシアの希望することには、ヴーアミタドレス山の洞窟の底にある、
『グァリ†ジェズ』
をいちど、まぢかに見てみたいとのことだった。
オレ――カノン――からすると、生まれて一度も聞いたこともない得体のしれないものを、危険な地までわざわざ見に行くなど正気の沙汰ではない。問いただすと、メシアは平然と、
「カノンにはあるけどボクにはないものだよ」
とだけ言う。
そんな酔狂には付き合っていられん、と踵を返そうとしたところ、
「まあまあ、せっかく一〇〇年に一度のことですしな。なんとか希望を聞いてやってはくれまいか」
と重々しい声でとりなしたのは、チェロ、ダヴィドフであった。――黄衣の王である。
ダヴィドフは、一時、東洋人ともにタンゴをうたって一世を風靡したらしいが、今では返却され、ここの博物館の一角に落ち着いている。
オレはしばらく黙って考え、それからしぶしぶ言った。
「……メシアがうたうところを見せてくれるなら行ってやらんでもない」
メシアはオパール色の瞳を丸くして、いたずらっぽく笑った。
「ふうん。約束だよ、カノン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます