第6話 白魔法で見る景色は、とても繊細で――
もちろん、私に白魔法の才能があるなんていうのは、なんとも自分にとって都合のいい考えでした。
正直、緊急事態だというのに、遊び半分だったことは否定できません。私にはまだ、これから自分に何か素敵なことが起きるんじゃないかって、期待があったんです。自然と胸がふくらんでいました。
でも、この人を助けたいと思ったのも
だからこそ、私はニリンダさんの真似をして、兵隊さんの手を握ります。ねむくないので、自分の腕に針を刺すことはしませんでした。
「ちょっとあなた!」
隣でニリンダさんが怒っていましたが、今だけはそれを無視したんです。
やり方なんて分かりません。あたりまえです。だって、魔法なんて生まれて一度も使ったことがないんです。……えっ、これは私がおバカだからじゃないですよね? え?
それでも、
(お願い……)
……このあと、どうすればいいんでしょうか。
考えなしの私の背中に、大粒の冷や汗が流れそうになったとき、目を閉じているはずの私の視界が急に開けました。
現れたのは麦畑です。
見渡す光景の全部が黄金色に染まった、一面の麦畑でした。
「……どういうこっちゃ」
もう何がなんだか私では理解できません。完全にキャパオーバーです。おバカな私の脳みそを酷使させないでください。ただでさえ足りていない脳細胞たちが、どんどんと死滅していっている感じがします。
私は麦畑を見渡します。
時刻は夕方でしょうか。
西日がとてもまぶしいです。目を細めて辺りをうかがえば、左手に小屋のような小さな建物を見つけます。ふと、背中側からも日差しを感じて不思議に思い、振り返ってみると、そちらにも沈みかけている太陽が見えました。ほえ……? どうして前にも後ろにも太陽があるんでしょうか。
数えてみると、どうやら太陽は全部で3つあるみたいです。
信じてください、
でも、いったいなんで。私の勘違いじゃなければ、さっきまで私は天幕の中にいた気がするんですが……。
突然の大移動をするにしたって、もっと適切な移動先があるように思うんです。日本に帰すとか、私の住んでいた国に返すとか、東のほうにある小さな島国に返すとか……。まあ、そういう私も、わくわくしていた気持ちがないわけじゃないので、もうちょっといてもよかったとなとは思っています。
さて、弱りました。
いくらおバカな私であっても、今のこの状況が、兵隊さんを治療するうえで、全然役に立たなそうな状況であることは分かります。せっかく治そうと行きこんでいたんですけど、もうどうすることもできなくなってしまいました。
もやもやとした気持ちを抱えていた私ですが、次第に目の前に広がる光景に心を奪われていたんです。
いったい、なんて幻想的な場所なんでしょう。
麦畑の上には、かなり見えにくいですが、小川が流れています。地上じゃないんです。私の頭の上を、川が流れているんです。天と地の間を、小さな川がいくつもの円を描くようにして流れています。高いところから見渡したわけじゃありませんが、この麦畑全体に螺旋を描くように流れているんだと、私は直感で思いました。
牧歌的な光景です。
今まで自分で思い描いて来た、どんなファンタジー世界よりも美しくて、懐かしいんです。あるはずもないのに、この畑道を歩いていけば、自分の家にたどり着くんじゃないかって、そんな思いが頭に浮かんで離れません。懐郷の念が私の胸を痛いくらいに突きました。
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