ニート俺、卵を落として世界を変える。
ラーユ
拾ってしまった卵の正体
第1話
──ベチャッ。
「あ?なんだこれ」
春休みに入る季節。なんでもない道を、ただ歩いていただけ。
突然の音に視線を落とすと、すぐそこの地面に、あの白くて丸い卵が突き刺さっていた。よく見れば当たり前にヒビが入っている。
「鳥か?」
思い立って空を見渡してみるも、親鳥らしき姿はどこにも見えない。こういうのは役所にでも電話した方がいいんだっけか────あ。
これはご愁傷様だな。
ピキピキと小さなヒビが広がっていき、時間差で卵は綺麗さっぱり半分に割れてしまった。それどころかもう中身出ちゃってるし。
手を合わせて、せめて轢かれないよう隅の方に供えてやろうと指を伸ばす。
鳥って卵運ぶんだっけか。
俺の指先が、卵にひんやりと触れた、瞬間だった。
「うわっ、なんだこれ!?」
突然卵が発光しだして、目を開けていられなくなる。白い光に包まれて…………これはまさかの異世界転生……!?
マジかよ、現実にあるのかよ。いやこれは夢かっ?
この際もうどっちでもいい。夢ならばこのSSRの夢を謳歌するのみ!!
よしこいよ。やってやるぞ。俺の長年鍛え上げてきたニートのチカラ!!!!
身構えたのも虚しく、白い光は静かに収まっていき、世界はあっという間に戻ってしまった。
変わった様子は、特にナシ、と…………いや、卵が無くなって──
「……どちら様?」
一瞬前まではいなかった。だけど瞬きした後には、白いノースリーブのワンピースを着た……女の子、が目の前に立っていた。
あれ、まさか俺、異世界転生するんじゃなくて目撃しちゃった側?俺、この世界の救世主を守るモブ位置ってこと?
目を擦っても、綺麗で小柄な金髪ロング美少女は消えない。
落ち着け俺。もしかしてこれはモブかよなんて落ち込んでいる場合じゃないんじゃないか?これはむしろ……確定演出!!!!
ここから始まる冴えない主人公俺とそんな俺に惚れ込んで世話をついつい見ちゃうブランドヘアー美少女との王道ラブロマンス……!
あぁありがとう神様。ありがとう俺の平日。俺がニートじゃなければこんな真っ昼間に君と出会えることはなかった。父さん、母さん、俺はニートだったおかげでお嫁さんが出来そうです。俺は今、ニートであったことを誇りに思っています。
心の中に住む俺が感動のあまりほろりと涙を溢す。
俺は今日からこの美少女と、学園ウフフアハハ最強ハーレム生活を送ってやるん────
「うわぁぁぁっ!!!ちょっと!!ねぇ!!いま私に触れた!!?あんた、触ったよねぇ!!!?」
「うるっっさ!!!!」
なんだこいつ!!
「もーーさいあく!!わたしの親権返してくんない!?」
「いやいやいや俺たちに子どもなんてまだ早すぎますって」
「なに言ってんの!?」
なんだーこのうるさいおなごは。
そのビジュアルはどう見ても、俺をうるうるとした瞳で見つめ上げ、こてんと可愛らしく首を傾げるところだろーが。
こんな騒がしい女の子は俺のタイプじゃないぞ。神様贈る相手間違ってますよー。
「じゃあー俺はこれで。良い1日を」
ふぅ。
人生で1度は口にしてみたい言葉トップ10、には絶対に入るこれ。まさかニートの俺が今日この日に達成できるとはな。
「あばよ」
背を向けて、格好良く片手を振る。イケメンは最後まで紳士に振る舞うんだ。
「ちょっと!!!!どこ行くの!!?ちゃんと面倒くらい見なさいよ!!!!」
「めんどう〜?求めてくれてるところ悪いけど、あいにく俺は一文無し。声を掛ける相手を間違えたな。ここは人通りだって少なくないし、今からでももっと他のやつに声をかけるべきだ。少なくともこんな上下ジャージの奴に声を掛けるのは間違いだ。じゃあな」
騒がしい奴だ全く。俺はニートでスタミナが少ないんだよ。コンビニに行く目的を達成するのに、少なくとも半分以上は消費した。
早く帰ってこの新作プリンを食べないといけないんだ俺は。面倒事に付き合ってやれる暇はない。
「なについてきてんだよ」
「あんたのせいでしょ!!」
「意味が分からないな」
「私の卵に触れたでしょーが!」
「記憶にないな」
「齧るわよそのあたま!」
キンキンと煩い彼女は足を止めず俺についてくる。ストーカーか?
振り返ると、その足もピトリと止まった。
「言っとくけど俺は実家暮らしだからな。お前を連れて帰ってやることはどっちにしろ出来ない」
「気にしないわ。見えないんだし」
「見えない?」
「私悪魔だもん」
「ほー」
通りで、背後で黒い尻尾の様なものと、コウモリの羽らしきものが揺れているワケだ。
頭には、ちっちゃなそれらしき三角形だってある。
金髪美女の悪魔は大きなため息を吐くと、その手を横に払った。
「詳しいことは後でちゃんと説明するわ。だからまずはそのま────」
「おわっ、大丈夫かよ」
もたれてきた体を咄嗟に支える。
これは……まさか、寝てる……?
意識を失っているけど、苦しそうな様子はない。
マジかよ。
「…………はぁ」
仕方ねえ。連れて帰ってやるか。
その実体にガッツリ触れてしまっているけど、本当に他の奴らには姿が見えないって言うんなら、休ませてやるくらいはまぁいいだろう。
影のない存在を背中に、いつもの倍以上の時間をかけて帰宅した。
触れる体温は冷たく、本当に人間じゃないらしい。
だけど不思議と、怖くはなかった。
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