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恵奏々香

1章 現実が消えた日

1-0.スタンバイ

『えっ?何それ?』


「だからさぁ、さっきも言ったじゃん」


「だな」


放課後、教室に残った三人。


『いつ?』


「今度の日曜日」


「らしいよ」


これがすべての始まりだった。


俺の名前は川本樹(かわもと いつき)至って普通の高校三年生。特技と言えばギターくらいか。


今は人気のカードゲームが近くの店に入荷するという情報で盛り上がっていた。


「予約は無しだってさ」


以前から何かにつけて情報通な飯塚邦彦(いいづか くにひこ)、あだ名はヅカ。


中学の時から呼ばれてるらしく、高校でも浸透したようだ。しかし、誰がつけたのかは知らないがもう少しマシなあだ名は無かったものか…いまだに最初の「ヅ」に慣れない。


身長は俺より10cm程低く、160cmくらい。痩せてはいるが筋肉がすごい。筋トレが日課らしい。


「夜から店の前張り込みコース?」


そういったのは梅田陸(うめだ りく)。


小学校が一緒で中学は別々。高校でまた同じ学校になった。今度はクラスまで同じだ。


陸は180cmの長身で、中学時代はバスケ部キャプテン。俺とは違いスポーツ万能。


しかしながら女癖が悪く、高校では女子に嫌われている。何股かしていたのがバレたと誰かから聞いたが、本人は身に覚えがないらしい。真相はわからない。


この二人とは高校三年、ずっと同じクラスだ。


入学式でヅカと陸が喧嘩。俺が止めに入ったことがきっかけで、その後つるむようになった。あとで聞いた話だと、喧嘩の理由はどっちのパンが美味しいか。良くわかない理由だった。聞かなかったことにしている。


「やっぱそれしかないなぁ。イッキはどうする?」


ヅカが話を振ってくるが、正直俺はあまり乗り気じゃない。今は六月で夜から並ぶにはまだ寒いし、それに俺は夜更かしが苦手だ。


『いや、興味はあるけど遠慮するよ』


とりあえず面倒だし断った。


「どころでどこの店なんだ?」


陸がヅカに聞く。


「SEVENTH CARDってところ」


ヅカは答えた。


セブンスカードか。以前は七星書店とかいう本屋だったが、去年の七夕にリニューアルした店だ。陸の家から比較的近い。


4月に発売されたTCG(トレーディングカードゲーム)【RATE】。まだ第1弾しか発売されていないが、通常のTCGとは異なり、発売される地域によって同じ第1弾でも中身が違う。ネットオークションでも出回っているが、転売価格が高騰しすぎて、高校生が手を出せる値段ではない。


「それなら俺も行こうかな」


陸はヅカの話に乗った。


「それじゃあ、午前二時に店の前で待ち合わせな!」


ヅカは陸に告げると、先に校舎を後にした。


「イッキも行こうぜ」


ヅカがいなくなり、今度は陸からの誘い。


『ムリムリ、夜出ると親がうるさいし』


適当な理由でごまかした。


仕方ないという表情の陸。「じゃあな」という感じのジェスチャーをして、お互い帰ることにした。陸は駅に向かう。


俺の家は自転車で15分くらい。いつもの通りを帰った。

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