ただ理由があった

形が合う

　『好きには理由なんて要らない』

　なんて言葉は嘘だと思う。

　真っ赤な嘘で

　真っ青なデタラメだ。

　少なくとも私には当てはまらない。

　理由は、必ずある。

　必ず、原因がある。

　好きな色は、何を一番に浮かばせる？

　好きな食べ物は、いつの食卓に並んだ？

　好きな景色は、誰の隣で映した？

　何だ？

　いつだ？

　誰だ？

　好きには理由が、

　誰かがいる。

　私は甘いが好きだ。

　分け合ったアイスが舌を溶かす。

　私は黒色が好きだ。

　鮮やかな黒が視界の線を絡めとる。

　私は花火が好きだ。

　肩を借りながら眺めた、車窓で切り取られた夜花。

　どれもが記憶から色褪せない。

　彼と、

　彼の、

　彼の隣で。

　扁桃体に彼が住まう。

　彼を好きになったんじゃない。

　私の好きが彼だったんだ。