第2話 天荒を破るもの
第二章
1
ここ数日、常に誰かに見張られているような気がして落ち着かない。
水神りつこは何気ない振りを装って周囲に視線を巡らせた。
雑談する女子、プロレスごっこを楽しんでいる男子、我関せずと読書に勤しむおとなしい子。くだらない話で大袈裟に笑い転げるグループ。
私立御門台学園、日常通りの休み時間の光景だ。
真っ先に目が合ったのは世皇鋼刃だった。あわてて視線をそらす彼を見て、りつこはくすりと笑った。
彼がここ御門台学園に転校してきたのが、違和感を覚え始めたのとほぼ同じタイミング。
しかし、彼が敵でないことははっきりしている。なぜなら世皇鋼刃はりつこの護衛、ボディーガードとして母に招かれてきたのだから。
「ねえ、お母さん。あのこほんとうに信頼できるの?」
「慶蔵さんの太鼓判よ。あなたは普段通りに過ごしていればいいのよ」
母が自信たっぷりに言い切るのだから素直に皇じるしかない。もっとも慶蔵さんが何者なのか、りつこは知らないが。
思い立ったように席を立ち、ゆっくりと世皇鋼刃のそばに歩み寄っていった。
すると、鋼刃は脱兎のごとく教室を出て行くではないか。
りつこは眉をひそめた。
なんだろ。あの態度というか素振り。あたし避けられてる?
鋼人と出会って三日になるが、まだ一言も口をきいたことがない。任じられた護衛で仕事に徹しているとしても、少しはコミュニケーションをとった方がいいと思うのだ。
「ふん。そっちがその気ならあたしにも考えがあるわ」
つい口に出してしまったその想いを、親友の涌井ひかるが聞いていた。いたずっらっぽく薄笑みを浮かべ肩を小突いてくる。
ひかるはとてもエネルギッシュな子だ。一緒にいるととにかく楽しい。話が止むことがない。運動神経抜群で空手も黒帯。男勝りの性格が災いしてか、彼氏はいないが。
将来はきっといい人と出会って素敵なお嫁さん、お母さんになるに違いない……とは、りつこの見解である。
「りつこ、あの子が気になるの?」
それは当然だ。母が自分のために招いてくれたボディーガードなのだから。
「けっこうイケメンだよね。でも、コミュ障っぽくない?」
ひかるの疑問ももっともだった。なにせクラスの誰ともふれあおうとしないのだから。
「うん……」
気のない返事をしながら、りつこはある決心をした。
(仕方がないなあ。力を使うとするか)
※
(うわ。こっち来んな)
りつこが立ち上がった瞬間、鋼刃の心拍数が跳ね上がった。呼吸が乱れ、手が震えてしまう。
幼い頃からどんな窮地に立たされようと平常心を失わず行動できる訓練、修行を受けてきた自分が取り乱してるだって?
二日前に初めて会ったそのときから始まった今までに味わったことのない緊張。
思い当たる節はある。
ひとめぼれってやつだ。
「水神りつこ。よろしくね」
差し出された右手を握った刹那、文字通り鋼刃の脳髄に電撃が走った。いや、その前からか。りつこが首をこくりと傾げ笑顔を浮かべたとき、顔が思い切り火照り心臓がぎゅっと絞めつけられた。
水神りつこに関する情報は、当然ながら会う前から頭に入れていた。
気品があって優しくて清楚。タレント顔負けのルックス、運動神経も抜群で、そのうえ日本舞踊までこなせるときてる。おとなしめな男子や女子にも分け隔てなく接することができて、文芸やオタク知識もそれなりにあるものだから、ほんとうに学校のスター的存在なのだ。
特筆すべきは学業についてだ。一度目にしたもの、耳にしたものは二度と忘れないと豪語するほどの記憶力を誇る。特に歴史や民俗学が好きで、並みの教師など太刀打ちできない造詣を誇る。
すごいやつがいるもんだなと鋼刃は素直に感心してしまったものだ。
資料に添付された写真を見たときは、綺麗な子だなくらいの感想で、さほどの興味は湧かなかった。重要人物の護衛という任務だったから、鋼刃なりのプロ意識に燃えていたのだ。
ところが実際会ってみて鋼刃の自制心は秒速で吹っ飛んだ。
写真では巫女のような格好をし、メイクもきつく、どことなく現実味のない存在に感じられた。
しかし、制服姿で等身大のりつこは発するオーラや華が圧倒的で、思わずひれ伏したくなる輝きを放っていたのだ。
特殊訓練を受けた鋼刃だからこそ、余計に感じたのかもしれないが、水神りつこの持つ独特の雰囲気は他の生徒(女子も含む)にも影響を及ぼしているようで、崇拝されている空気がひしひしと伝わってくる。
(ねえ、少しでいいからお話しようよ)
(え――?)
敵か? 鋼刃は思わず戦闘態勢をとった。神経を張り詰め、五感を研ぎ澄ませる。
(なぁに、やってんのよ)
りつこがやれやれといった素振りを見せている。どうやらりつこがコンタクトしてきたらしい。
ふと周囲を見渡すと、他の生徒たちがざわついている。ばつの悪さを感じ鋼刃は軽い運動のふりをして誤魔化しながら
(テレパシーなのか?)
(いいから普通にしてて。みんなは知らないんだから)
鋼刃は緊張を解いた。
(ねえ、あなたどこまで知ってるの?)
高飛車ではないがストレートな訊き方がりつこらしく感じる。
(ま、まあ、だいたい)
(どこまでよ? はっきり言いなさい!)
うわ。意外と怖いのな、この女。
しどろもどろになりつつ鋼刃は答えた。
(だから、その、おまえが生き神さまだとは聞いてるけど)
(おまえですって? あなたにおまえ呼ばわりされる覚えはないわ)
(いや。だって俺が守ってやるんだから、いいじゃねえか)
(守ってやるぅ? 守らせていただくでしょ! 言葉遣いを知らないの?)
なんて面倒くさい女だ。先が思いやられるぞ。
(それにあたしは知ってるんだから)
(何をだよ)
(あたしのこと、可愛いって思ってるでしょ?)
鋼刃の顔が引きつった。
(なんて綺麗なんだ、とも)
(俺の心を読んだのか?)
(隠し事はできないわよ。うふ)
何がうふだ。汚ねえぞ。
(それ言う?)
(ぐっ)
言葉に詰まる。そうか、生き神様を守るってハンパじゃできねえってことか。すべてお見通しってわけだからな。
(ま、いいわ。あたしがしっかり指導してあげる。しっかり任務に励んでね)
と、いきなりウインクを投げてきたものだから、鋼刃は自然と踵を合わせ、直立不動となっていたのだった。
やべぇ。主導権握られてる。
りつこが軽く手を振っているのを見て、それもいいかと思い直す鋼刃なのだった。
チャイムが鳴った。
各自が席に着く中、担任のラン・デラクルスが颯爽と現れた。
日本人とどこかの国のハーフらしい。小麦色の肌にやや彫りの深い顔立ち、小柄でスレンダーなエキゾチック美人だ。
鋼刃はこの教師が苦手だった。突き刺すような視線で睨みつけてくるからだ。何か気に入らないことでもしたのか心配になってくる。
と、授業を始めるでもなく鋼刃の前に立ち、見下ろしてくるではないか。
「どう? うまくやってる?」
クラスに馴染めたかという意味だろうか。
「まだ、ちょっと」
もともと他の生徒と交流を深める気はない。適当に返事を濁しておくと、耳元に囁いた。
「ぐずぐずしてるヒマはないわ。早くりつこをものにしなさい」
「へ?」
先生は何を言ってるんだ? どこまで知ってるのだろうか。いや、そもそも俺はりつこを守るために来たわけで。
てか、教師が女をものにしろなんて言うか!
「あなたはそのために来たのよ? だめな男ね。これは苦労しそうだわ」
吐き捨てるようにつぶやくと、鋼刃の開いた口が塞がらないうちにさっさと授業を始めるのだった。
(先生、何か勘違いしてないか)
悟られぬようりつこに目を遣ると、意外な彼女の姿を見た。
ラン・デラクルスを睨みつけているのだ。
当のラン先生はというとりつこと視線を合わせようともせず、いたってマイペースだ。
(な、な、なんだ? 怖えな)
護衛の任に就いたとはいえ、危険な兆候はない。鋼刃にとっては正体不明の女の争いの方がはるかに怖く思えた。
と。
(危険な兆候はないですって?)
りつこが急に割り込んできた。
(おい。勝手に人の心を読むなって)
(まあ、いいじゃない。それよりも危険な兆候はないってなによ? あたしはここ数日誰かに見張られてる気がしてならないの。あなた、怪しい気みたいなものを感じない?)
(ううん。おまえの先生に対するめらめらした闘志はびんびんに感じたけどな)
(なによ、それ! 知らない!)
鋼刃の直感は正しかった。
ラン先生とりつこのバトルが始まったのだ。
とはいっても、歴史解釈をめぐっての激しい論争なのだが。
あとで聞いたことによるといつものことらしい。資料とデータを駆使し完璧といえるほど緻密に歴史を語るラン先生に対し、りつこは一般的に偽書とされる文献や神楽、雅楽、はたまた外国の資料や絵画、建築物などから考察した推理を展開し、白熱の議論を戦わせるのだそうだ。
日本史にとどまらず世界史の授業においても同様で、二人の論争が始まると他の生徒は置いてけぼりにされ、授業が丸ごと潰れてしまうらしい。
しかしこのバトルは意外にも人気で、歴史に興味がなかった者たちもいつしか引き込まれ、知らず知らずのうちに知識が身に付き平均点が上がる副産物が生まれた。ラン先生がりつこという媒介を利用してそれを狙っていたのかは定かではないが。
さらに驚くことがある。
数学や物理、化学、英語、そしてなんと体育までラン先生が受け持っているのだ。
敬服するしかない。
でも、そんなケースってあるのか? そもそも許されるものなのか。
特例かもしれないが、それを実現しているスーパー教師が、ラン・デラクルス先生なのだ。
りつこというこれもまた天才肌(生き神さまだけはある)の要求、追及、に余裕を持って応じるのだから、上には上がいるというところか。
(誰が上ですって?)
(うわ。またおまえか)
(だから、おまえって呼ばないで!)
(じゃあ、なんて呼べばいいんだよ)
(りつこ様とか)
(じゃ、りつこって呼ぶよ)
(うん。それでいいよ――じゃ、ない!)
(で、なんだっけ?)
鋼刃はほくそ笑んだ。りつこの負けず嫌いぶりが愉快だ。
(忘れたわ。もういい)
勝手にコンタクトを断ち切るりつこに半分呆れながらも、この任務を引き受けてよかったとしみじみ思う。
なかなか楽しいじゃないか。
2
鋼刃がりつこの護衛に就いて三日になるが、今日も学校では何事もなく終わった。
下校直前、鋼刃に一緒に帰ろうと誘ってみた。
もっとお互いわかり合うべきだと思うのだ。
昨日、一昨日と距離をとって陰からりつこを見守っていたらしいが、それも気分がいいものではないので「堂々とそばで守ってくれればいいのに!」と命じたら、二つ返事で了承してくれ拍子抜けした。
少し気になるのは、先ほどから鋼刃の心が読めなくなっていることだった。
まさか力を失ってしまったのか、と不安に思い涌井ひかるの心にアクセスしてみたらなんの問題もなかった。おしゃれと男の子のことばかり考えていて、いかにもひかるだった。
だったらどうして?
(他心通を使えるのは、おまえだけじゃないってこと)
「ええっ?」
突然脳内に響いた声にりつこは驚く。
鋼刃と目が合う。
(シールドしてたってこと?)
(そうだよ。おまえ、人の心覗きすぎ!)
(だったら最初からしてればいいじゃない)
(そんなことしたら、得体のしれないやつって思われて、かえって疑われただろ)
(そう言われればそうかもね。でも、驚いたわ。あたし以外にテレパシーに長けてる人がいるなんて)
(俺はちょっと特別。だからおまえの護衛を命じられたんだろうな。俺は滅多なことじゃこの能力を使わないけどな)
(悪かったわね。断っておくけど、あたしだって普段は使わないから。あなたがどんな人か興味があっただけ)
(あんまり使いすぎるなよ。とんでもない闇に落ちる可能性だってあるんだから。……って、師匠が言ってた)
(そうなの?)
(このままテレパシーで会話してても味気ないから普通に話そうぜ)
(そ、そうね)
鋼刃の提案の意味が分かった。いつのまにか他の生徒たちが遠巻きに二人の様子を訝しんでいたからだ。
ひかるが真っ先に駆け寄ってきた。
「すごいね。カンペキ二人の世界を作ってたよ。長いこと見つめ合っちゃってさ、私らどうしていいかわかんないよ」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
どうにかして繕おうとするものの、周りの囃し立ては盛り上げっていく。
(ああん。調子狂うなあ。すべてこいつのせいなんだから)
鋼刃をひと睨みして、平然さを装うと
「帰る。そこどいて!」
りつこは足早に教室を出る。
こんな恥ずかしい想いは初めてだ。早々に立ち去りたい気分なのにブレーキがかかる。
「何してんのよ! 早く来なさい!」
教室の外から叫ぶと、鋼刃はいつのまにか後ろに立っていた。
「そんな大きな声出すなよ。怖えなあ」
きいー! いちいち癪に障るんだから。
「とにかく一緒に来て。車が待ってるんだから」
「はいはい」
「はいは一度でいい!」
なんだろう? 別に怒るつもりはないのに、ついつい声を荒げてしまう。りつこは自分の感情を理解できずにいる。
初恋? まさかぁ。恋ってもっとうきうきするものでしょ。本にそう書いてあったし。今度、真剣にひかるに相談してみようかな。
ちらりと鋼刃を振り返ると、大きな口を開けてあくびの最中だった。
違うわ。絶対に恋なんかじゃない。こんなやつにあたしが心動かされるわけがない。
「どうかしたか?」
「な、なんでもないわ」
正門を出ると、黒いリムジンが停まっていた。
普通なら鋼刃が「うお、すげえ車。おまえって超金持ち?」くらいのことを言ってきそうであるが、昨日一昨日とどこかで見張っていたはず。すでに既知なのだろう。
「りっちゃん、おつかれさま。おや、今日はボーイフレンドと一緒だね」
二人が車に乗り込むと、専属の運転手である深町五郎が微笑みかける。彼はりつこがまだ幼いころから水神家に仕えてきたベテランだ。
ハイブリッドのセンチュリーが二人を乗せて静かに滑り出すとりつこが切り出した。
「世皇鋼刃くんよ。あたしのボディーガードなんだって」
「おい、そんな言い方ないだろ」
「まだ認めたわけじゃありませんからね」
深町が割って入る。
「まあまあ。私から見ると、二人はもうすでに仲良しだよ」
「やめて!」
どこが仲良しなの? 深町さんたらテキトーなこと言うんだから。しかし、まんざらでもない自分がいることも否めない。
一度テレパシーで繋がると互いの周波数が合うのかもしれない。互いの心の一端を覗きこんだことは大きいだろう。
(いやぁん)
ちらりと卑猥なことを想像してしまい、勝手に照れてしまう。
「ところで世皇くんと言ったね?」
「はい?」
「もしかして世皇剛次警視の息子さん?」
「あ、はい。そうです」
「やっぱり。面影がある。若い頃警視にはとても世話になったんだ。いろいろと教わったなあ」
「は、はあ」
「深町さん、元凄腕の刑事だったのよ」
と、りつこが注釈をする。
気のない返事をする鋼刃が、りつこには意外だった。あまり触れてほしくなさそうだ。
気になる――! 生来の好奇心の強さが手伝って、りつこはむずむずしてきた。家に着いたら色々と問い詰めてやるんだから。
鋼刃がこの話題を避けたがっているのを察してか、深町も話題を切り替えた。
「今日から屋敷に住むんだって?」
「ええええー!」
りつこはおったまげた。おったまげたとしか言いようのない驚き方だったのだ。およそ生き神さまに相応しくないリアクションが、鋼刃にウケた。
「知らなかったのかよ? てっきり、それだから今日一緒に帰ろうって誘ってきたのかと思ってた」
「だ、だって……」
しっかりしろ、あたし。落ち着くのよ。
りつこはしっかりと座り直す。
センチュリーは長閑な田舎道を走っている。家まであとわずかだ。もう十分もすれば着くところまで来た。
「お母さん、あたしに一言もなしよ? なに勝手に決めてんのかしら」
つい、文句も出るというもの。深町も鋼刃も知っているのに、当の本人を差し置いて強引に物事を進めるなんて。
鋼刃が真剣な顔つきになった。
「教えておく。夜が危ないんだ。やつらの活動時間は日が暮れてからなんだよ」
やつら? それ誰?
りつこが問おうとすると、センチュリーが急に止まった。
「敵が仕掛けてくるのは夜だけとは限らないようだぞ」
深町の声のトーンが変わる。ぴりっとした緊張感が車内に張り詰めた。鋼刃の表情も引き締まっている。
数メートル先に三人の男が車の行く手を塞ぐように立ちはだかっていた。体格は中肉中背だが、下品で邪な殺気を発している。それぞれの手には匕首や棍棒、チェーンが握られていた。左右を樹木に挟まれた細い道なので、彼らを避けて通ることはできない。
「俺に任せてくれ」
深町が行こうとするのを制し、鋼刃が素早く車外に躍り出た。
「なんなの、あの人たち?」
「りっちゃんが三日前に追い返した男に雇われたんだと思う」
「鋼刃くん、大丈夫かしら?」
「三島慶蔵師範が送り込んだ、世皇剛次警視の息子さんなのだから相当な腕利きのはず」
深町には余裕が感じられた。鋼刃のお手並み拝見といったところか。
わずかに開いた窓から鋼刃の声が聞こえる。
「おまえたち、何者だ? そこをどけよ。邪魔だ」
男たちはにやにやしているだけで、答えようともしない。
「ま、普通は答えないか。じゃ、これで行く?」
これ見よがしに拳を突き出した。
男たちがゆっくりと間を詰めてくる。
と、突然鋼刃が言葉を発した。
「ディウレイロウモウ」
りつこにはそう聞こえた。意味は分からないが男たちには通じたようだ。途端に眉を吊り上げ、奇声を発しながら一斉に駆け寄ってきた。
力任せに振り回すチェーンを流れるような動きでかわした鋼刃は、瞬間的に相手の懐に入り込み脇腹に当身を入れる。
倒れかかった男を間髪入れず、匕首を脇に構え突進してきた男にぶち当てる。
三人目の男には鋼刃から一気に踏み込み、体当たりのような攻撃を食らわした。数メートルも吹っ飛んだ男は道路に後頭部を打ち付けたようで、そのまま動かなくなった。
りつこは目を見張った。
すごい。まるで映画のアクションシーンを観ているみたい。
次の瞬間、息を呑んだ。
目を剝きだした匕首の男が背後に迫っていたのだ。振り向いた鋼刃の腹部目掛けて匕首が襲う――しかし、刃先は鋼刃に届かない。
鋼刃は口角を上げ、閃光のような裏拳を男の人中に叩きこむ。
「終わり」
鋼刃が宣言してもなお匕首は宙に浮いたままだ。
「余計なことしやがって」
何が起こったのか、りつこにはわからない。
匕首を宙から摘み取ると、鋼刃は深町にそれを渡す。深町も目を丸くしている。
「行きましょう」
鋼刃が後部座席に乗り込むと、りつこは居ても立ってもいられず矢継ぎ早に質問を繰り出した。
「ね、ね、何やったの? 手品? 魔法? 超能力?」
すると鋼刃は
「ちがうよ」
とだけぽつりと答えた。なにか面白くなさそうである。
「あとで教えてよ」
軽く腕を抓ってみたが返事はない。
「もう!」
りつこは頬を膨らませる。
鋼刃の素性と一緒に、絶対聞き出してやるんだから! と誓うのだった。
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