【検証】虚ろな村の記録 - 続・神隠し事件の行方 -
@tamacco
Episode 01:封印された記録
【導入:未解決事件の再検証】
(BGM:低く不協和なシンセ音。モノクロの荒い映像が断片的に挿入される。)
ナレーション(タクヤ):
20XX年、夏。私たちは今、ひとつの「神隠し」として片付けられようとしている未解決事件の核心に迫ろうとしている。
事件の舞台となったのは、山梨県と長野県の県境近くにある、地図からも消えた廃村、「虚ろ村(うつろむら)」。10年前の20XX年、この小さな村に住んでいた村人6名と、彼らを追ったドキュメンタリー制作クルー6名、計12名が、その晩、忽然と姿を消した。
残されたのは、奇妙なノイズと映像の乱れで終わる、たった1本のデジタルビデオテープだけ。
(テロップ:虚ろ村 集団失踪事件 - 発生から10年)
ナレーション(タクヤ):
警察は集団自殺、あるいはカルト的な集団逃亡として処理したが、決定的な証拠は見つかっていない。そして、この事件を扱った唯一の公式記録、封印されたままの取材映像こそが、後に我々検証者の間で『虚ろファイル』と呼ばれるものだ。
我々はYouTubeチャンネル『VERITAS - 真実の検証者』として、これまで数々のオカルト、都市伝説、未解決事件の検証を試みてきた。チャンネル登録者数100万を超える我々が、今回、持てる技術と情熱の全てをかけて、この『虚ろファイル』の真実に挑む。
【VERITAS クルーの紹介】
(場所:都内の撮影スタジオ兼編集室。最新鋭の機材が並ぶ。)
タクヤ(ディレクター/ナビゲーター):
さて、皆さん。お久しぶりです。ディレクターのタクヤです。我々が10年間追ってきた、ある意味で究極の案件に、ついに手を出すことになりました。
(画面にタクヤの顔のアップ。明るいが真剣な表情。)
タクヤ:
『虚ろファイル』。この名前を知っている人は、相当なオカルト好きか、事件のコアな追っかけでしょう。警察庁のデジタルアーカイブに厳重に保管されていた、この10年前の映像。つい先日、我々はようやく、情報開示請求を通してその「写し」を入手することに成功しました。
(画面が切り替わり、リサーチャーのサクラと、カメラマンのケンジが映る。)
サクラ(リサーチャー/解析担当):
リサーチャーのサクラです。今回は物理的な検証だけでなく、ファイル内の映像・音声の周波数解析が私のメインタスクになります。このファイルには、単なるノイズではない、規則的な"何か"が記録されているという噂がありますから。
ケンジ(カメラマン/機材担当):
カメラマンのケンジです。個人的には、ただの古いテープの劣化か、誰かの悪質な編集じゃないかと思ってますけどね。でも、もし本物なら、命がけで撮ります。
タクヤ:
ケンジ、頼もしいな。では、早速ですが、まずは我々が手に入れた『虚ろファイル』の冒頭を、視聴者の皆さんにも共有しましょう。
【『虚ろファイル』:最初の接触】
(画面が切り替わり、古いデジタルビデオテープ特有の粗い映像になる。タイムスタンプが画面の左上にある。)
[テロップ:虚ろファイル 映像抜粋(10年前の取材テープ)]
(映像:夜。ヘッドライトの光。山道のわだち。カメラは激しく揺れている。)
(音声:男Aの荒い息遣い、女Bのすすり泣き、そして低い呻き声のようなものが混ざる。)
男A(過去のクルー):
おい、ライトを消すな!道を間違えたら終わりだぞ!
女B(過去のクルー):
もう無理よ…進めない…村から出る道を、どうしてあんなに細工したの…。
(映像:突然、カメラが上を向く。真っ黒な夜空。そして、一瞬だけ、何かの「影」が画面を横切る。)
タクヤ(ナレーション):
これはテープの中盤、村への入り口付近で撮影されたとされるシーンです。この時点で、彼らが何かに追い詰められていることは明らかです。そして、注目すべきはこの後に発生する「ノイズ」です。
(画面が編集室に戻る。サクラがPCの解析画面を操作している。)
サクラ:
タクヤさん、ノイズの発生箇所を特定しました。テープ終盤、失踪の直前と見られる約1分30秒の間に集中しています。通常のデジタルノイズやテープの劣化で発生する波形とは、明らかに異質です。
タクヤ:
具体的にどう異質なんだ?
サクラ:
はい。通常のノイズは不規則な白い乱雑な波形を示しますが、この『虚ろノイズ』は、約30ヘルツ以下の超低周波帯域で、規則的に上昇と下降を繰り返す、緩やかなサインカーブを描いています。まるで、巨大な何かが、一定のリズムで「呼吸」しているかのような波形です。
(画面に、通常のノイズ波形と、『虚ろノイズ』の規則的な波形が並んで表示される。)
[テロップ:虚ろノイズ - 約30Hz以下で規則的に振動]
ケンジ:
30ヘルツ以下…つまり、人間の耳にはほとんど聞こえない帯域ですよね?それがあんなに激しく…。
サクラ:
その通りです。正確には聞こえないというより、「感じてしまう」周波数帯です。超低周波音は、時に人間の内臓を振動させ、不安感、恐怖感、平衡感覚の喪失といった精神的な影響を及ぼすことが、科学的にも知られています。
タクヤ(ナレーション):
つまり、彼らは失踪の瞬間、物理的に何かに襲われただけでなく、この聞こえない「呼吸」のようなノイズによって、極度の精神的パニック状態に陥っていた可能性が高い。
【ノイズの正体と次のステップ】
(編集室のテーブルを囲む三人。)
タクヤ:
サクラの解析は、我々の仮説を裏付けている。この『虚ろノイズ』こそが、彼らを村から「外に出させない」ための、音響的な、あるいは超自然的なトラップだったのではないか。
サクラ:
問題は、このノイズが自然発生的なものなのか、それとも意図的に、何らかの装置や儀式で発生させられたものか、ということです。
ケンジ:
じゃあ、そのノイズの発生源を突き止めないと、意味がないですよね。
タクヤ:
その通りだ。我々がこれから行うのは、再現と逆探知。我々は『虚ろファイル』のGPS座標データと、当時の気温、湿度のデータも復元している。
(タクヤ、地図を広げる。虚ろ村と思われる場所に赤いマークがつけられている。)
タクヤ:
我々VERITASクルーは、10年前、失踪したドキュメンタリークルーと全く同じ日に、同じ場所に立ち入る。そして、超低周波音を精密にキャッチできる特殊なマイクと、高感度サーモグラフィーカメラを持ち込み、この『虚ろノイズ』をゼロから再度記録する。
サクラ:
現地でノイズを再現できれば、その場で波形を解析し、発生源となる建物の方向や、それが自然界の音なのかを判断できます。
タクヤ:
そして何よりも重要なのは、**『虚ろファイル』がノイズのピーク時に一瞬だけ捉えた、あの「何か」**を、我々の超高精細カメラで捉えることだ。
(『虚ろファイル』の映像が再度挿入される。激しいノイズと共に、画面の左端に、わずか数フレームだけ、縦長の、輪郭のぼやけた白い物体が映り込む。)
[テロップ:虚ろファイルの「最後の記録」 - 正体不明の白い物体]
ケンジ:
…あれ、やっぱり何度見ても不気味ですね。ただの反射だとしても、なんであんなにノイズと同時に出てくるんだか。
タクヤ:
さあな。それが今回の最大の謎だ。我々がそこに行けば、このノイズは本当に聞こえてくるのか。そして、この村を封印した「何か」は、まだそこにいるのか。
(タクヤ、カメラを見つめる。決意に満ちた表情。)
タクヤ:
真実を検証する時が来た。視聴者の皆さん、我々のチャンネル登録と通知をオンにして、この記録の行方を見届けてください。
【エンディング:深まる謎】
(BGMが途切れ、編集室の静寂が際立つ。)
(サクラがヘッドフォンを外し、ため息をつく。)
サクラ:
タクヤさん。一つだけ、気になることが…。
タクヤ:
どうした?
サクラ:
『虚ろファイル』の波形を再度解析していたんですが、この超低周波のサインカーブ…10年前の取材クルーが失踪する直前のピーク時、その波形の終点に、もう一つ、非常に微細な「声」のような音声が重なっていました。
(画面に、ノイズの波形の上に、わずかながら人間の声のような極小の波形が表示される。)
サクラ:
「声」というよりは、**「誰かが必死に何かを唱えようとした、息漏れ」**に近い。ノイズがあまりにも大きすぎて、今まで見過ごしていました。
タクヤ:
唱えた…何を?解析できるか?
サクラ:
ノイズをフィルタリングしてみます。しかし、非常に古い、そして聞き慣れない…方言のようなイントネーションです。聞こえるのは、たった一言。
(サクラ、解析した音声を再生する。)
(音声:シャーッ…というノイズの奥から、低くかすれた男の声で、日本語とも違う、古代の言語のような響きの一言が再生される。)
(テロップ:ノイズの中から抽出された音声:??? - 判読不能)
サクラ:
「ニエ」…と聞こえます。漢字の「贄(ニエ)」でしょうか。
(タクヤとケンジが顔を見合わせる。画面はノイズが走る虚ろ村の暗い風景でブラックアウトする。)
(ナレーション(タクヤ):
彼らの失踪は、単なる事故や逃亡ではなかった。それは、誰かによって仕組まれた「贄」だったのか。我々の検証は、既に引き返せない場所へと足を踏み入れている。
(次回予告テロップ:Episode 02:残された者の声)
(ナレーション(タクヤ):
次回、我々は虚ろ村の周辺住民への聞き取り調査を開始する。集団失踪に隠された、村の禁忌と古文書。そして、誰も語りたがらなかった、10年前に失われた「声」の真実を探る。**
(画面が暗転し、終了。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます