陰キャjk異世界で心バグらせる

凪雨カイ

第0話 【PROLOGUE – 転生の間】

気づいたら、真っ白な空間にいた。

床も壁も天井も分からない。ただ、現実じゃないことだけは分かった。


「はーい、おつかれさまでーす」


軽い声が降ってきた。

事務的なのに、妙に明るい。


「黒瀬ゆめさん、死亡でーす。はい、死んでますねー」


「……え?」


自分の声だけが震える。


担当らしき人物はタブレットをぺちぺち叩きながら続けた。


「最近多いんですよね〜、SNS絡みのやつ。

あ、精神バグ入りまーす。はい、バグってますね」


「ちょ、ちょっと待って!?

私まだ何も始まってないんだけど!?」


「未練タスク多めって書いてありますね。

でも戻れませーん、ログアウト済みなので」


「ログアウトって言うな!!」


白い空間に声だけが響いた。


担当はにこにこしながら画面を見せてくる。


プロフィール:黒瀬ゆめ

状態:死亡(ログアウト)

精神:バグ(軽度)

転生:可能


「ということで、転生手続き入りまーす。

異世界アルストリア、空きありますね〜。人気ですよ」


「いや、聞けってば!!」


「はいはい、新規ユーザーさん、がんばってくださいね。

“心バグ”は現地で直してきてくださーい」


光がはじけ、視界が反転した。


——このときの私はまだ知らなかった。

バグっているのが本当に自分なのか、世界なのか。

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