黒蝶と野良猫
上衣ルイ
序
極道者の中で、
後樂堂は過去を語らない。鬼が出るという山の生まれだという噂だ。
彼の出世街道は、まさに物語のようだったという。戦後の混沌とした日本の片隅に、ある日ふって湧いたように彼は現れた。
当時闇市を仕切っていた大きな極道組織「
彼を彼たらしめる特徴といえば、彼岸花で染めたような赤髪と、燃える石炭のような赤い目、やはりその大きな上背であろう。3m近い筋骨隆々とした体格は、まさに童話の鬼を思わせる。
彼はまたたく間に大きな極道蟲毒の中で地位を確立し、黒蝶爛組という組織の看板となった。先代の組長は彼の実父だったそうだが、後樂堂はその首を刀で、すぱっと斬り落としてしまったそうだ。
なんでも酒の席で、前組長が女の首をたわむれに絞めたから、らしい。後で知ったが、その女とは後樂堂にとって大事な相棒であったのだとか。
本来なら極道の中で親殺しは大罪だが、蒼薔自治會の中では例外だ。
この世界では弱肉強食。正当性があれば、親が子を殺してもよいし、逆も然りだ。
因みに、当時この親殺しの是非を問われた後樂堂は、こう答えたという。
「酒の席で喧嘩に勝てないやつが悪い」
──この弁明で、反省文を三枚書かされて終わったらしい。
こんな破天荒な組長だが、黒蝶爛の看板を背負って数十年になる。七十を目前に控えているそうだが、白髪が混じっても鮮やかな赤髪は変わらず、背中がゆがんだり、内臓を痛める様子もない。
「五百歳までは現役でいてやるからな」と彼は豪語している。
実際、放っておけば、五百歳まで生きそうだ。
──ここまでが、「私」が黒蝶爛組に潜入して三年ほどで得た知識だ。
そしてここからは、「私」の知る、私が地獄に落ちるまでの話。
◆
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