異能がはびこるこの世界、私は生き抜けるのだろうか。

芦毛逃亡

Stage0 私のあなたも、いつの日かヒーロー。

始まりは突然だった。

寝て起きる、ただそれだけ。

それだけで日常は変わってしまう。


『No.1026岡崎おかざき愛来あき───────の能力付与を確認​───────』


そんな言葉が頭に響いた。

夢のような夢でないような、気持ち悪い感じが続きようやく目を覚ました。

悪夢だったのか、びっしりと汗をかいていた。

ベタベタするからだを洗い流すために風呂場へ向かった。

ベットから起き上がるために地面に足をつけた瞬間だった。

着地と同時に足に激痛が走った。

悶え苦しむが、声を出せるほどの余裕もなかった。

その時に悟った。

私の人生はこれで終わると。




「愛来ちゃん何してるの?」


再び目を覚ますと、もうすっかり明るくなっていた。

ドアの辺りには妹の千冬ちゆふが哀れな目で見ていた。


「え?いや、私死んだんじゃ…」


「もう、何寝ぼけてるの?早く朝ごはん食べよ、先にリビングいるからね」


「え!待って!!私歩けな…」


床に寝そべっていた私は恐る恐る地面に足をつけてみた。

だが、先程の痛みが嘘のように何も感じなかった。

やはり夢だったのかもしれない。

私はそのままリビングに向かった。






「愛来ちゃん、春休みだからってゴロゴロしすぎるのはダメだよ?」


私の妹、岡崎千冬はとっても頼れる妹である。

何かと私を気にかけ、気づけば周りからは「お姉ちゃんしっかりしてるね」と千冬が言われる。


「おはよ〜、今日の朝ごはんは何かな?」


「今切ってるからちょっと待って…へ、へ、へっくしゅん!!あっ!」


千冬が持っていた包丁が手からすり抜け、空中に舞った。

その刃先が私に向いていることに気が付かなかった。


「愛来ちゃん!避けて!!」


「へ?」


千冬の声でようやく気がついた。

だが遅かった。

もう包丁は目と鼻の先、私は何とか腕で顔を守ることしか出来なかった。


カンッ!


「愛来ちゃん大丈夫!?」


「うん、なんともない…てか今の何!?」


「今のって包丁だよ?」


「そうじゃなくてもうひとつの方だよ!!」


「愛来ちゃん今日なんか変だよ?」


千冬には本当に見えていないらしい。

だが私には腕の隙間からハッキリと、包丁を弾くもうひとつの刃物が。

たった一瞬だったがしっかりと見えた。


「てか愛来ちゃん汗びっしょりじゃん、シャワー浴びてきた方がいいんじゃない?」


「そうだった!行ってくるね」





朝から不思議なことだらけだった。

だがシャワーを浴びればリフレッシュできる。

そんな甘い期待を抱いていた。

パジャマを脱ぎ、シャワーを浴びる準備が整った。


「なんじゃこりゃ!!」


鏡に映った全身が目に入る。

左胸、ちょうど心臓の辺りだろう、見知らぬ刺青が入っていた。

四角形の枠組み、その中が四つに仕切られていた。

そのひとつに桜の花びらのようなものがあった。

洗い流しても変化は無い。


「どうすんのこれ!落ちないじゃん!!」


よく泡立てて擦ってみても赤くなるだけで落ちる気配はなかった。

数分の格闘の末、私は諦めた。





あるじ…今こそ…を…」


シャンプーをしている時、背後に人を感じることはあるが、今は誰かの声が聞こえた。


「千冬〜?ご飯できたの?」


「…」


やはり今日は何かがおかしい。

幻覚に幻聴、きっと疲れているんだろう。

朝ごはんを食べたらもう一度寝るそう決めた。

その時だった。


「主、行くのです」


今後はハッキリと女性の声が聞こえた。


「誰なの!?」


だが背後には誰もいない。

私は怖くなり、急いでその場を後にした。





「あ、愛来ちゃん上がった?これ見て…ってなんでそんなに疲れた顔してるの?」


「いや、変な声が聞こえてきてさ。それよりこれなに?」


そこには上空から撮影された映像が映し出されていた。


「ついさっき駅前のビルで立てこもりの事件が起きたんだって。でもおかしいのが、あらゆる場所で同時に起こってるんだって」


どこの局を回しても同じ内容だった。

スマホのネットニュース、SNSは同じ話題でもちきり。

ただ一つのトレンドに目がいった。


「突然変化?」


そこには私と同じように死にかけたと書き込まれていたり、体から火がでたなど信憑性がかけるものが多くあった。

だが、その嘘のような書き込みが本当になったのはテレビから流れたアナウンスだった。


「繰り返します!人が宙を舞っています!こちらに近づいて…うわぁぁぁ!!」


そこで映像は途切れた。

最後に見えたのは宙に浮いた人間が火の玉のようなものを投げつけていた、フェイク動画のようだった。


「主、お願いです。このままでは、もっと被害が広がります!」


またしても声が聞こえた。

先程よりハッキリ聞こえてきた。


「愛来ちゃん?どうしたの?」


「ん?いや、私ちょっと着替えてくるね」


「え、今日出かけるの?」


「ん〜、いや、気分転換に…さきご飯食べてて!!」


「あ!ちょっと愛来ちゃん!!」


私は急いで自分の部屋に戻った。


「もしかして…あった!」


クローゼットの奥深く、そこにはかつて趣味で集めていた変わったものを入れる箱があった。

珍しい色の石、独特な形の木の枝、クシャクシャで何が書いてあるか分からないメモ紙などゴミと思われるものを大切に保管していた。

その中に一つだけ異質なものがあった。

いつ拾ったのか、それとも譲り受けたのか覚えていない。


「これを探してるの?」


そういいながら、ボロボロながらしっかりと鞘に入った刀を手に取った。

その瞬間刀を持った手が光出した。


「うわっ!眩しっ!!」


あまりの眩しさに、目を閉じてしまった。





「主、目をお開けください」


目を開けるとそこには、絶世の美女が片膝をついて、私の腕を優しく包み込むように握っていた。

髪は白銀色で長髪、着物を着ているがそこからはち切れそうな胸、腰には刀のようなものを身につけていた。


「だ、誰?」


私は怯えながらも、声を発した。


「私が見えますか!?」


「え、まぁ…」


その瞬間、美女は私の顔を自分のたわわな胸に押し付けた。


「良かった!嬉しいです!!ずっと、ずっとこの時を待っていました!!」


「ぐ、ぐるじい…」


「はっ!すみません、つい嬉しさのあまり主を強く抱いてしまいました」


「まずあなたは誰なの?」


「私、性は桜田さくらだ、名は琴音ことねと申します。岡崎家の武士として、初代岡崎家当主『岡崎おかざき春虎公はるとらこう』に認められ、岡崎家の一番隊隊長を努めさせていただきました」


岡崎春虎はよくおじいちゃんが話してくれた。

戦の時代にあまり戦をせず、来たものだけをなぎ倒す珍しい戦い方をする人だと。


「でもなんでそんな人が今ここに?」


「それは主が異能力に目覚めたからですかね」


「異能力?」


「はい、私は主の守護霊としてこの世に存在してました。ですが、主は特異体質だったのでしょう。本来一人一体が基本なのですが、主には私を含め4人の守護霊が付いています」


「え?守護霊が4人?」


戸惑う私に琴音はおもむろに着物を脱ぎ出した。


「ちょっと何してるの!?」


「こちらをご覧ください」


琴音は背中を向けた、そこには私が先程胸に現れた刺青と同じ、桜の花びらのようなものがあった。


「これは私の能力が主にも付与されるということだと考えています」


だが私に特に変化は見れなかった。


「とにかくそのさやを抜いてみてください」


私は言われるがまま刀の鞘を抜いた。

すると、刀を持つ手が自然と刀を振り回し始めた。


「え?何なにこれ!!」


「やはり…主の異能力がわかりました。主は触れたものに応じて、本来あるべき力を十二分に発揮させることができるようです。ですが、主の体では適応できない、そのために私たちがアシストする、ちょっと変わった能力ですね」


琴音が話している間、私は刀に振り回されていた。


「と、止まらない!助けて琴音〜!!」


「主、これは主の能力なんです。主がしっかりとしなくては」


「そんなこと言われても、私刀なんて…」


「主まずは目を閉じて、身体中を巡る血を意識してください」


目を閉じる、すると体の中から湧き出るものを感じた。


「分かりますか?それは人間にある『気』と呼ばれるものです。異能力はその気を使って発揮できるんです。まずは気を刀の持つ右腕に集中させてみてください」


「そんな簡単な感じで言われても…」


言われるがまま右腕に意識を集中させた。

すると先程まで何も反応できなかった右腕が、私の意識を少しだけだが反応した。


「その調子です。その刀を鞘に入れてみてください」


深呼吸をしながら意識をさらに右腕に集中させた。

すると、先程まで荒れ狂っていた刀は次第に落ち着いてきた。


「その調子です!意識を右腕に、刀を鞘に入れる心で念じるんです!主ならできます!!」


カチャンッ​───────


「ふぅ…もう疲れ…た…」


ただ刀を鞘に入れるだけ、たったそれだけの工程なのに、全身の力を使い果たした。

私は床に倒れ込むように力が抜けた。


「ひゃっ!」


「さすが我が主!できると信じていました!!」


私を琴音は優しくお姫様抱っこをして言った。


「少しだけ、眠ら…せ…て」


「御意…」


私は琴音の膝でそのまま気絶するように眠りについた。



























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る