兎にも角にも私には

さば味噌似

第1話 「私」の住む世界

「私」は嫌い。自分を持ち上げる為に他人を利用する人のことが。

「私」は嫌い。考え無しに行動する人のことが。

「私」は嫌い。場の空気の為に信念を曲げたことをする人のことが。


「私」は嫌い。「私」のことが。


高校1年生、中学の頃の付き合いは絞られ、自分の事を知ってる人は数少なく、中学の私を知る人は学年に数人、クラスには1人もいない。高校生になるということはステータスが新しく切り替わるようなもので、私が周りから嫌な顔をされるような人間だったというステータスは現在のクラスでは認知されていない。一人でいることが好きな私にとっては友達もいない、敵対者もいない今の状況は何よりも素晴らしい。そして私はその事実に嬉しさを上乗せするように図書委員の座を勝ち取った。図書委員は昼休みや放課後の時間を拘束されるため大層不人気な役職だ。しかし、私にとっては神にでもなったような気分にさせてくれる役職。居心地悪い教室を委員会という名目のもと後にして、一人で好きな読書に勤しむことが出来る。私の高校生活はこれでこそ完璧だ。入学してはや1ヶ月、安息の地を手にした。


図書委員として毎日のように図書室に入り浸り。好きなミステリーシリーズ小説『学級戦争』の2周目を読み始めようとしてた初夏の昼下がり。背後に人の気配を感じ、振り返ろうとした時、

「『学級戦争』の最初のシリーズの上巻ってどこにあります?」

少し大人びた綺麗な女性の声がした。

私が図書委員になってから今まで、この図書室を訪れた人など1人もいなかった。私は自分が図書委員として図書室にいることを忘れかけていた。急な問いかけに慌てて振り返り、

「少しお待ちください。今持ってきます。」

と上擦った声で返事をした。

「ゆっくりでいいですよ。放課後また来た時に借りますから。」

優しい声色で私に言い、私の焦りを打ち消すかのように微笑んでからその女性は図書室を後にした。

「いつからここにいたんだ…」


これが彼女、「喜多見雫」との最初の出会いだった。


「私」の住む世界[完]

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