彼女の笑顔とタルトタタン

清見こうじ

タルトタタン譚

 タルトタタンというお菓子がある。


 逆さまタルト、とも呼ばれるリンゴを使ったフランス伝統の菓子である。


 リンゴを砂糖で絡めて炒めたものをたっぷり型に敷き詰め、その上からタルト生地をかぶせてオーブンで焼き上げて、最後はひっくり返す。


 キャラメリゼされたリンゴがつやつやして、タルト生地がサクサクちょっとしっとりで、食べ応えがあるスイーツである。


「それってアップルパイと何が違うの?」


 タルト生地とパイ生地って似たようなものでしょう? と訊いてくる彼女。


 アップルパイは生地で上下包まれているのが基本なので、リンゴも少なめだし、そもそも使うのはタルト生地でなくパイ生地である。


「確かにパイ生地を代用しても出来るし、むしろ家庭で作るのは、そっちが多いかも、だけど」


 厳密には違うんだ、と力説したところできっと『だって、小麦粉とバターで作るんだから、まあ、ほぼ同じじゃん?』とか言われる気がする。


「だって、小麦粉とバターで作るんだから、まあ、ほぼ同じじゃん?」


 ……一言一句違わず返してくるんじゃないよ……。


 想定内とはいえ、何だか空しくなる。


「まあまあ。これ、めっちゃ美味しいよ!」


 ガックリ具合が顔に出てたのか、一応慰めてくれる辺り、まあそれなりに優しいんだよね、本当は。


「リンゴいっぱいで、甘酸っぱくて、美味しいよ! このタンタタタン!」


「タルトタタン!」


「タンタンタン?」


「タ・ル・ト・タ・タ・ン!」


「タンタンタタタン!」


「なんで増えてるの!」


「タタタタタンタン!」


「もう! わざとふざけてるでしょ!」


「リズム取っちゃうくらい美味しいから、間違ってない~タンタンタタタン、タタタンタンタン♪」


 ……こういうところが、憎めないというか……もう。


「……おかわり、する?」


「する! 食べる! あ、紅茶もおかわり!」


「はいはい」


 ニコニコおかわりを頬張る彼女。


 いつもこの笑顔に騙されてしまうのだ。


「また作ってね。タンタタタンタン、タルトタタン!」


「ちゃんと言えてるじゃんか!」


 にんまり笑顔に、また遊ばれてしまったことに気付いたけど……遊ばれて嬉しい自分も、実はいるから……やっぱり憎めない。


 今度はパンナコッタでも作ろうかな?


「パンダコッタ? ナンノコッタ?」とか言いながら、美味しそうに食べる笑顔が見られたら、いいな。


 これからも、ずっと、その笑顔を見ていたいから。


 今日も私は、お菓子作りに励むのだった。




 ※たんげつさんに、タンタンタン……といっぱい言わせたかっただけです。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女の笑顔とタルトタタン 清見こうじ @nikoutako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ