第5話 玄武のワガママ ※暴力描写アリ

 組長の息子、いや、おれの命よりも大切な坊ちゃんを守れなかった。

 坊ちゃんが傷付けられた原因がおれたちなのだとしたら、一生掛けて罪をつぐなう。

 もちろん、坊ちゃんを傷付けたヤツらにも罪を償わせる。


 朱雀すざくの話によれば、チンピラ格下ヤクザどもは坊ちゃんを拉致らちろうとしたらしい。

 おれたちの弱みである坊ちゃんを、人質に取るつもりだったそうだ。

 人質に取られたら、いったいどんな目にうか。

 良くて監禁、悪くて拷問、最悪殺される。


 悪いヤツらは、ガキであろうとも容赦はしない。

 か弱いガキだからこそ、何をされるか分からない。

 ちょうよ花よと、大切に大切に育てた坊ちゃんを……許せんっ!


 坊ちゃんが眠った後。 

 おれと白虎びゃっこと朱雀、そして坊ちゃんをしたテカ手下どもは、それぞれ獲物武器を手に、チンピラどものアジト居場所へ向かう。

 うちのテカどもによって、既にチンピラどもの素性すじょう割れている知っている


 反目敵対勢力傘下さんかで、末端まったんやかららしい。

 だったら、つぶしちまっても良いよな?

 というか、坊ちゃんに手ぇ出した時点で生かしちゃおけねぇ。

 ケンカをふっかけてきやがったのは、貴様らなんだからな。

 おれは、売られたケンカは絶対買う主義なんだよね。


 おれたちは、チンピラどものアジトに押しかけ、カチコミ殴り込みを掛ける。

 逃げられないように、ガラス割り窓に銃弾を撃ち込むと正面と両方から乗り込んだ。


「おらぁっ!」

「うわっ!」

「キャーッ! なになになになにーっ?」

「なんだなんだっ? カチコミかっ!」


 アジト内にいたチンピラどもは、どうやらお楽しみの真っ最中さいちゅうだったらしい。

 こんなところで、乱交らんこうとはおさかんだねぇ。

 花屋風俗嬢だかなんだか知らないけど、女どもは適当に逃がす。

 今回の件とは無関係の女どもを、巻き込んでケガさせちゃったら可哀想だからな。


「ケガしたくなかったら、さっさと逃げて」

「「「あ、ありがとうございます……」」」


 女どもは服や荷物をまとめて、慌てて逃げていった。

 チンピラどもは、おれたちに向かって怒声を張る。


「なんだ、てめぇらぁ! どこの組のもんだっ!」

「こんなことしといて、ただで済むとは思ってねぇだろうなっ!」


 数人のチンピラどもが、慌てふためきながら急いで服を着る姿がダサすぎる。

 おれたちは、半笑いで言い返す。


「有名なうちらのこと、知らねぇの? しょせんチンピラだな」

雑魚ざこのてめぇらに、名乗る名前なんかねぇよ」

「どうでもいいから、さっさとやろうぜ」


 久し振りの抗争ケンカだ。

 この間は、坊ちゃんがいたから上手く立ち回れなかったけど。

 今日は、思いっきり暴れてやる。


 おれの中で眠っていた破壊衝動が、目をます。

 簡単に殺しちゃったら、つまらない。


 室内に置いてあったものを手当たり次第に、金属バットで叩き壊す。

 金属バットを振り回す度に、物が形を変えていく。

 破壊音が、小気味こきみいい。

 物を壊すって、やっぱ気持ち良いな。


 騒ぎを聞きつけて来たのか、チンピラどもの数が増える。

 壊せるものは、多ければ多いほど良い。


 横目で白虎と朱雀を見ると、ヤツらも楽しそうだ。

 うちのテカどもも暴れ回っているらしく、あちこちで打撃音や悲鳴が聞こえる。

 この爽快感は、抗争でしか味わえないよな。


 気が済むまで暴れ尽くした頃には、チンピラどもはみんな床に倒れていた。

 全員、半殺しで済ませておいた。

 顔はボコボコだし、骨の2本や3本や4本はってそうな感じ。

 殺しても良かったんだけど、死体処理とかいろいろ面倒臭いんだよね。

 

 コイツらも裏社会にいんだから、こんくらい覚悟してるでしょ。

 せいぜい、病院のベッドの上で仲良くおねんねしときな。

 組も壊滅したし、この足も洗ったらヤクザを止めたらいいんじゃない?

 生きていれば、きっといつか良いことあるよ。

 ……あると良いね。


 やることやってスッキリしたところで、引き上げた。

 向こうは再起不能レベルだけど、こっちはほぼ無傷。

 組に帰ってくると、順番で風呂に入った。

 返り血と硝煙しょうえんがまとわりついた体じゃ、坊ちゃんには会えない。


 風呂から上がると、坊ちゃんの部屋を静かに訪れた。

 坊ちゃんは、天使のような可愛い顔で眠っている。

 頭に巻かれた白い包帯が、痛ましい。

 おれは坊ちゃんの小さな頭を撫で、可愛いおでこに唇を寄せる。

 

「坊ちゃんは、おれが守ります。もう二度と、怖い思いはさせませんからね」


 これは忠誠ちゅうせいであり、ちかいでもある。


 今度坊ちゃんを守れなかったら、おれ自身を許せない。 

 坊ちゃんの笑顔を守れるなら、おれはなんだってやる。


 坊ちゃんは、いずれこの組を背負っていくお人だ。

 けれど、血生臭ちなまぐさい裏社会を知るにはまだ幼すぎる。

 もう少しだけ無邪気むじゃきで可愛い坊ちゃんでいて欲しいと願うのは、おれのワガママだろうか。

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