File 13:現場監督の失踪と警察調書
資料名:是枝邸 崩壊事故および現場監督代理B氏 失踪に関する捜査調書(抜粋)
作成者:S区警察署 捜査員 ヤマモト
日付:202X年9月20日
【注釈】
この調書は、是枝徹氏の死亡事故(202X年8月15日発生)の捜査過程において、約5ヶ月前に発生していた現場監督代理B氏(以下、B氏)の失踪案件との関連を再調査した記録である。B氏の失踪は「体調不良による突然の離職」として処理されていたが、一連の事件の異常性から、改めて聴取が行われた。
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調書A:現場監督代理 B氏(当時42歳)の失踪に関する再捜査記録
失踪時の状況(202X年3月12日)
B氏の失踪時、現場の工務店事務担当K氏(File 06の記録者)の証言に基づき、B氏の現場離脱は突発的であったと判断される。
・現場に遺留されていたもの:ヘルメット、手帳、現場用スマホ充電器。
・手帳の最終記載:3月11日付で「深夜の騒音、子供の声、鼓動(地鳴り?)」について、繰り返し記述されていた。特に「ミナミ」という名前が、10数回にわたって殴り書きされていた。
・自宅の状況:部屋は施錠されており、着替えや財布、銀行カードなどの貴重品はすべて残されていた。失踪直前まで使用していたPCには、是枝邸の図面と、現場写真(File 01〜04に酷似)がデスクトップに保存されていた。
現場に残された最後の記録
B氏の現場用手帳の最終ページに、鉛筆で強く書き込まれたメモを発見。
「あいつは、柱じゃない。柱は、その子を縛り付けるための縄だ。縄を外せば、底のものが上がってくる。水路の泥が、心臓を食い破る。俺は、柱になりたくない。」
捜査本部の見解(B氏失踪に関する再評価)
B氏は是枝邸での工事期間中、近隣住民からの苦情(File 06)や、屋根裏から発見されたカセットテープ(File 04)の内容に触れたことで、精神的に強いプレッシャーを受けていた可能性が高い。
失踪は、工事現場で何らかの異常現象を体験し、恐怖から突発的に現場を離脱したものと判断される。遺留品がそのまま残されていることから、計画的な失踪や自殺の可能性は低い。
しかし、B氏のメモにある「柱」や「底のものが上がってくる」といった表現は、是枝徹氏の死(縦穴からの泥水の噴出と崩壊)と符合しており、単なる妄想とは片付けられない。
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調書B:工務店社長 C氏への聴取記録
日時:202X年9月18日
聴取場所:S区警察署 会議室
(捜査員):B氏が失踪する直前、彼の精神状態について何か変化はありましたか?
(社長 C氏):ええ、ありました。彼は元々、几帳面で真面目な男でしたが、3月に入ってから急に顔色が悪くなり、現場への不満を口にするようになりました。特に、夜間の騒音に対する近隣からの苦情(File 06)が増えてからですね。彼は「夜中に誰かが現場にいる。監視されている」と訴えていました。
(捜査員):あの夜間の音(子供の笑い声、壁を叩く音など)について、社長はどうお考えですか?
(社長 C氏):正直、私は単なる古い家の構造上の反響か、あるいはBの疲れによる幻聴だと思っていました。しかし、是枝様の事故後、我々が解体した部分の残骸を再確認したところ、建築士のレポート(File 07)にあった「縦穴」の存在、そしてその周りの異様な細工は事実でした。
(捜査員):B氏の失踪と、是枝様の死亡事故(8月15日)との間に、関連性があると見ていますか?
(社長 C氏):……あくまで私個人の考えですが、Bは逃げた。彼は、あの家が「普通の家じゃない」と悟り、自分自身がその家に「取り込まれる」前に逃げたのだと思っています。是枝様は、残念ながらあの家に魅入られてしまい、自分で封印を解いてしまった。Bの失踪は、あの家からの「警告」だったのかもしれません。彼は、あの家が求める犠牲から、辛うじて逃れることができた、という認識です。
(捜査員):事件後に、工務店として何か不審な体験は?
(社長 C氏):解体作業中、あの縦穴と、ミナミが閉じ込められていた壁(File 12)を重機で壊した際、重機が突然停止し、運転席の窓に大量の泥水が噴き出しました。作業員は誰も怪我をしませんでしたが、その泥は強い鉄臭がし、乾くのが異常に遅かった。それ以来、我々はもうこの土地には近寄らないようにしています。
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調書C:是枝杏奈氏(妻)への追加聞き取り記録
日時:202X年9月19日
聴取場所:S区警察署 会議室
(捜査員):ご主人の徹様が事故に遭う前、現場監督のB氏について、徹様と何かお話しされましたか?
(杏奈氏):はい。工事が中断した頃(3月頃)、徹が「Bさんは、この家のことを一番わかっていた人かもしれない」と言っていました。徹はBさんが残したメモや、近隣の苦情の記録(File 06)をすべて読んでいました。徹は、Bさんが言っていた「柱」や「底の音」という言葉に、異常なほど共感していました。
(捜査員):ご主人は、B氏が失踪した理由について、どう考えていましたか?
(杏奈氏):最初は「体調不良」だと信じていたようですが、古地図(File 09)や登記簿を調べ始めてからは、「Bさんはあの家を怖がって、あの呪いを放置した」と批判的になっていました。徹は「Bさんは逃げたが、俺は逃げない。この家の秘密を暴いて、ミナミを助ける」と。徹にとって、Bさんは「乗り越えるべき壁」のような存在になっていたようです。
(捜査員):ご主人は、あの事故の直前にB氏が残したメモ(調書A-2)と酷似した言葉を発しています。ご主人の最期の言葉(File 11)について、何か思うことは?
(杏奈氏):徹は、自分自身が「柱」になろうとしたんだと思います。彼は、あの家が何らかの犠牲を求めていることを知っていました。ミナミを解放したことで、彼自身が、この土地の悪意(底から湧き上がるもの)の新たな受け皿になろうとした。Bさんは「柱になりたくない」と逃げましたが、徹は、あの家と、そこに封じられていたミナミへの異常な執着から、自分自身を捧げてしまったんです。あの留守電の声は、まさに彼が生きたまま、家の構造に取り込まれていく声でした。
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捜査本部の最終見解
是枝徹氏の死亡事故は、建築士の警告を無視した無謀な構造物破壊行為による「事故死」として処理を完了する。
ただし、現場監督代理B氏の失踪については、依然として行方不明のままであるが、事件性が薄いことから、公開捜査は行わない。
B氏が残した「柱になりたくない」という言葉、是枝徹氏の「俺も、柱に」という最期の言葉、そしてビデオテープ(File 12)に記録された「人柱儀式」は、一連の出来事が単なる建築事故ではなく、この土地に根差した特異な信仰に基づいていることを強く示唆している。
是枝邸の土地は現在更地となっているが、今後、この土地で同様の事案が発生する可能性を否定できないため、土地の新たな所有者に対しては、過去の事案について口頭で警告を行うこととする。
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