File 12:発見されたビデオテープの再生内容

資料名:是枝邸 遺留物(VHSテープ)映像解析報告書

提出先:S区警察署 捜査本部

解析者:映像技術班 G

日付:202X年9月5日


【注釈】

このVHSテープは、是枝邸1階リビングの崩壊箇所(縦穴の周辺)から泥にまみれた状態で発見された。映像は経年劣化により色褪せ、ノイズが多い。以下はテープの核心部分の再生内容を記録したものである。


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再生時間:約15分(記録時間全体は約40分)

撮影時期:推定 平成初期


【登場人物】

・女性A:中年〜高齢の女性。この家の二代目所有者、佐藤花子氏と特徴が酷似している。(以降、佐藤氏)

・少女M:7〜8歳程度の少女。「ミナミ」と呼ばれている。(以降、ミナミ)


映像ログ 抜粋:


[00:15:30]

映像は2階の和室(後に是枝徹氏が隠し扉を発見した部屋)で始まる。周囲は新築当時のままで、壁にはまだクロスが貼られていない。

佐藤氏が、和室の北側(押入れ側)の壁に開けられた、小さな開口部を指さしている。開口部は子供一人なら入れる程度の大きさで、周囲の柱は滑らかに削られている(File 07の縦穴に隣接する構造)。


[00:16:15]

佐藤氏がミナミに話しかけている。音声は非常に小さい。

佐藤氏:「ほら、ミナミ。ここがお前の新しいお家だよ。これからお前は、この家の一番大切な柱になるんだからね。」

ミナミは泣いていないが、表情は虚ろで、手には小さな鉛筆削り(File 04でランドセルから発見されたものと酷似)を持っている。


[00:17:40]

佐藤氏が、ミナミの足首に古い縄(File 03で屋根裏から発見されたものと類似)を結びつける。

佐藤氏:「大丈夫だよ。お前は、この土地の悪意から、私とこの家を守ってくれるんだ。お前が聞いて、止めてくれるんだよ。」


[00:19:00]

佐藤氏が、ミナミを抱き上げ、開口部に押し込む。ミナミは抵抗しない。

ミナミが壁の奥に収容されると、佐藤氏は開口部の外側から、細工されていた間柱を静かに元に戻し始める。これはFile 03で発見された「隠し扉」の細工である。


[00:20:15]

開口部が完全に閉じられる直前、ミナミの声が小さく聞こえる。

ミナミ:「……おばあちゃん、暗いよ。お水、飲みたい。」


[00:20:40]

佐藤氏が、開口部の前に立ち、小さな声で歌を歌い始める。その歌は、File 04のカセットテープに記録されていた子供の歌声とリズムが完全に一致する。

歌いながら、佐藤氏は粘土のようなものを間柱の隙間に塗り込み、開口部を完全に密閉していく。


[00:22:00]

壁の密閉が完了。佐藤氏はその場で立ち上がり、カメラに向かって微笑む。

佐藤氏:「これで大丈夫。これで、底から湧き上がるものは、二度と上には来られない。」

この発言は、是枝徹氏の最期の言葉(File 11)にある「水路の呪いを封じ込めるための蓋」という解釈を裏付ける。


[00:25:30]

佐藤氏が、2階の床板の一部を剥がし、1階まで貫通している「縦穴」(File 07)の上部を露出させる。

その穴の中に、佐藤氏が小さな白い石を投げ入れる。石は穴の底に落ち、「カラカラ」という音の後に、「ドスン」という鈍い音が記録される。

その後、佐藤氏は穴の蓋を閉め、床板を元の通りに戻す。


[00:26:50]

佐藤氏がカメラを床の上に置く。カメラは天井を映している。

佐藤氏の声:「ミナミ、聞こえるかい? お前の声は、私がずっと聞いているよ。寂しくないよ。お前が柱になってくれたから、この家は安泰なんだ。」


[00:27:30]

カメラのレンズが、微かに揺れ始める。

背後で、壁の奥(ミナミが閉じ込められた場所)から、「カリカリ」という爪で壁を引っ掻く音が、一定のリズムで始まり、それが録画終了まで続く。


[00:28:10]

(録画終了)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【映像解析班 Gによる最終所見】

この映像は、この家が新築された直後、あるいは二代目の所有者が入居した初期に、家屋の構造を利用した特殊な儀式が行われたことを示している。

少女M(ミナミ)は、家の壁の一部である「柱」として、生きながらにして内部に封じられたものと判断される。

File 11で是枝徹氏が発見した「頭蓋骨のように見えるもの」は、この儀式で使用された「水路の呪いを封じる核」であり、ミナミの遺骨ではない可能性が高い。ミナミの遺骨は、今なお壁の奥に存在していると推測される。


そして、是枝徹氏がこの核を甕から取り出し、ミナミの封印を解いてしまったことで、「柱」として家を守っていたミナミの役割が失われ、この土地の「底」から湧き上がるものが解放されてしまった。是枝徹氏は、その解放されたものの怒りに触れ、自身が新たな「柱」になることを強要されたものと思われる。


この事件は、都内の古民家に秘められた、日本に古くから伝わる「人柱信仰」の残滓を現代に再現した、異様な事案であった。

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